京都スマートシティエキスポ2019の2日目、10月4日のプログラム「全国自治体交流シンポジウム」のうち、茨城県、広島県、東京都、三重県の事例を紹介する。各自治体では、抱える課題を解決するアイディアやテクノロジーの実証実験のフィールドとして大学や企業との連携を進めている。

三重県(基調講演):空飛ぶクルマ、児童虐待対策などにいち早く取り組む

三重県知事 鈴木英敬氏(写真:行友重治)

 基調講演では、三重県知事 鈴木英敬氏登壇。「三重発☆テクノロジーで『地方創生』」と題した発表を行った。

 2033年に行われる伊勢神宮の式年遷宮に関する一連の行事を多数控える三重県。観光客の増加も見込まれるこの機に、ICTを活用して観光客や地域に暮らす人々の暮らしを支える様々な取り組みにチャレンジしている。「空飛ぶクルマ」「児童虐待防止」などその範囲は幅広い。

 「空飛ぶクルマ」プロジェクトは、福島県と連携している。福島県南相馬市にある福島ロボットテストフィールドで機体開発を行い、その実装を三重県で実証する。機体開発にはNECなどが参加する。

 「空港や新幹線駅が三重県にはない。将来を見据えて移動手段となる新たなビークルを作りたい。観光地への移動、また中山間地域や離島の暮らしを支える移動革命を実現したい」(鈴木氏)。

 また、三重県では、全国で相談件数が増える児童虐待の対策として、AI(人工知能)を活用し始めている。

 「統計によると10年前に比べ、殴る蹴るなどの身体的虐待から、言葉による脅かしなどの心理的虐待が増加し、虐待が見えにくくなっている。そこで、子供を一時保護するかどうかの判断を勘や経験に頼るのではなく、客観的なデータに基づいて支援するAIを全国で初めて三重県で導入した」(鈴木氏)。 

 過去6000件の相談事例をもとに質問事項を作り、その回答から虐待かどうかを判断する補助にAIを活用する。このリスクアセスメントツールがインストールされたタブレットを職員が持参し、家庭を訪問する。タブレットと児童相談所はオンラインでつながっているため、その場で上司と相談もできる。

 「業務を職員の間で引き継ぐ際にも円滑にいく。業務引き継ぎがうまくいかないために子どもの命が奪われてはならない。同時に、職員を守ることになる」と鈴木氏。

 「全国をよくするために三重県も協力したい。データやテクノロジーをそのために活用する。実験フィールドとして企業に活用してほしい。また、自治体間で知見を共有したい。私たちも学ぶと同時に、一緒にやりたいという自治体は歓迎です」と呼びかけた。

三重県が発表したAIを活用した児童虐待対応システム(当日の投影資料より 撮影:柏崎吉一)
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茨城県:自動車依存度が高い地方都市におけるMaaS(Mobility as a Service)

茨城県産業戦略部技術振興局科学技術振興課課長の宮本善光氏(写真:行友重治)

 茨城県は、つくば研究学園都市をフィールドに、誰もが安心して安全に移動することができるまちづくりを進めている。茨城県と筑波大学が主体で運営する「つくばスマートシティ協議会」の提案内容が、スマートシティモデル事業(所轄:国土交通省都市局都市計画課)と、新モビリティサービス推進事業 (所轄:国土交通省総合政策局公共交通政策部交通計画課)に採択された。両事業は、つくば市を3つのエリアに分けて行われる予定。実証実験に向けた計画を立案している段階だという。

 「茨城県では中心部の交通渋滞、郊外移動時の自動車への依存度の高さ、高齢者や交通弱者への移動手段の確保、インフラの劣化などの課題を抱えている。つくば市をモデルケースとした課題解決の成果を横展開させたい」と茨城県産業戦略部技術振興局科学技術振興課課長の宮本善光氏は説明する。

 新モビリティサービス推進事業では、筑波大学や企業と連携したキャンパスMaaS、医療MaaSなどの実証実験を検討している。

 キャンパスMaaSの実証実験では、広大な敷地面積を持つ筑波大学で、教室間を移動する学生の足として利用される学内バスの混雑緩和に向け、顔認証技術を用いた運賃のキャッシュレス決済を計画している。また医療MaaSでは、つくば駅と筑波大学附属病院を結ぶシャトルバスにおいて駅からのバス乗車時における乗客の顔認証と病院受付との連動、診療費と運賃をワンストップで精算する仕組みなどを検討している。

 「また、交通弱者のための安全な移動手段として、車いす型の移動支援ロボットなどのパーソナルモビリティも検討している。利用者のバイタル情報などのモニタリングにより運転制御を行うというものだ。横断歩道を渡る際に、車いすが信号灯からの色情報を読み取って動作を開始したり、逆に横断歩道の信号が変わる時間を変えたりするようなインフラ構築についても取り組みたい」(宮本氏)。

茨城県が検討しているモビリティ関連のプロジェクト(当日の投影資料より 撮影:柏崎吉一)
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広島県:広島県を実証フィールドとするテクノロジーを活用したチャレンジ

広島県総務局情報戦略総括監の桑原義幸氏(写真:行友重治)

 広島県では、イノベーション・ハブ・ひろしまCamps(キャンプス)、ひろしまデジタルイノベーションセンターという産学連携を促すファシリティを整備するとともに、2018年からはひろしまサンドボックスというプロジェクトを開始している。

 「広島県は12年連続で中国・九州・四国エリアで生産高1位という、ものづくりのまちだが、そこに甘んじることなく成長戦略を進めている」(広島県 総務局 情報戦略総括監 桑原義幸氏)。 

 ひろしまサンドボックスでは、県が3年間で10億円の予算規模でチャレンジの後押しをして、ソフトバンク、NTT西日本、エネルギア・コミュニケーションズの3社がAI/IoT実証プラットフォームを提供する。

 「『広島県全域を砂場(サンドボックス)に見立てて、AIやIoTを活用したクリエティブな、いろんな実験をやってください』とアピールしている。失敗してもかまわない。成果をプールして未来のために活用していくことに県がコミットしている」(桑原氏)。

 2回の公募を通じて集まった89件の提案から採択された9件のプロジェクトが現在動いているという。桑原氏はその中から、広島県が生産高日本一を誇るレモン生産農家の高齢化や後継者問題などを解決するロボット運搬やドローン配送の事例、また、瀬戸内海で育てる牡蠣の品質を高めるための水温や水質に関するデータ収集・分析、ドローンを活用した牡蠣筏の位置モニタリングなどの事例を紹介した。

広島県を実証フィールドとするテクノロジーを活用したチャレンジを公募する「ひろしまサンドボックス」の概要(写真:柏崎吉一)
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東京都:東京オリ・パラを機に、5Gなどで「つながる」まちに

東京都戦略政策情報推進本部IC推進部情報企画担当部長の荻原聡氏(写真:行友重治)

 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて準備を進める東京都では、ダイバーシティ、スマートシティ、セーフシティをキーワードに新しい公共を作ろうと取り組んでいる。

 「1964年の東京オリンピックでは、首都高速道路、新幹線、港湾、空港、上下水道などがレガシーとして残り、60年近く経った今日も先達が作った資産を私たちが利用させてもらっている。東京オリンピック・パラリンピックでは「つながる」環境をレガシーとしたい」(東京都 戦略政策情報推進本部 ICT推進部 情報企画担当部長 荻原聡氏)。

 そこで東京版のSociety5.0を支える基盤としてTOKYO Data Highway基本戦略を検討していく。これにより、教育、医療、交通、防災などのサービスをアップデートして都民に提供していく考えだ。

東京都が目指すTOKYO Data Highway基本戦略の成果(写真:柏崎吉一)
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 「行政、民間のデータをどう活用していくか、またIT人材の育成、トップレベルの人材の登用が重要になる」(荻原氏)。

 構想立案には東京都の小池百合子知事と、元ヤフー社長の宮坂学副知事が加わった。

 「TOKYO Data Highwayの構築に関するにおける具体的なアクションは3つある。アンテナ基地局設置を促すため東京都が保有する施設や都道といった資産の民間への開放と利用手続きの簡素化、5G重点整備エリアの設定、東京都自ら展開する5Gの施策だ」(荻原氏)。

 例えば、5Gアンテナの重点整備ではNTTドコモなどの移動通信キャリアと連携して、バス停などに設置されたサイネージをアンテナ基地局化する「スマートポール」などのインフラを整備していくほか、都庁のある西新宿都庁付近を各社のショーケースとして使ってもらえるようにするための検討を行っている。東京都立大学との連携なども進めていくという。

 「5Gだけでなく、IoTやWi-Fi環境の整備も含めて、子や孫の世代に、あの時にやってよかったね、と思われるように取り組んでいる」と荻原氏は語る。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/103100211/