横浜アリーナで開催されたイベント「スタジアム&アリーナ2016」(主催:英ALAD社、2016年9月26日~28日。初日には、「スタジアム・アリーナ運営の工夫」と題したセッションでは、民間2業者が実践例を紹介。加えて政策金融機関の担当者が公共スポーツ施設運営の厳しい現実について触れた。

「スタジアム・アリーナ運営の工夫」
(写真:小口 正貴)
(写真:小口 正貴)
[画像のクリックで拡大表示]
<モデレーター>
間野 義之氏
(早稲田大学 スポーツビジネス研究所 所長、スポーツ科学学術院 教授)


<パネリスト(記事登場順)>
長岡  勤氏(東京ドーム 代表取締役社長 執行役員)
中村 考昭氏(ゼビオホールディングス 副社長執行役員)
桂田 隆行氏(日本政策投資銀行 地域企画部 参事役)

※肩書は登壇当時

東京ドーム――野球の稼働は4割にとどまる

東京ドームの長岡氏(写真:小口 正貴)
東京ドームの長岡氏(写真:小口 正貴)
[画像のクリックで拡大表示]

 最初に登壇したのは東京ドーム 代表取締役社長 執行役員の長岡勤氏。日本初の全天候対応型スタジアムとして東京ドームがオープンしたのは1988年。以来、28年間にわたり堅調経営を維持してきたスタジアム運営の優等生である。

 天候に左右されない特徴を生かし、野球をメーンとしつつも当初から各種スポーツ、コンサート、コンベンションなどの開催を目的としてきた。JR/地下鉄の水道橋駅から歩いてすぐという立地も魅力の1つだ。

 2015年の稼働実績は319日・87.4%(撤去・設営を含む)。この高い稼働率を維持するため、多目的に対応できるハードに加え「設備投資とイベントの企画の2つが重要だ」と長岡氏は説明する。

 設備投資については、定期的な設備の更新に加え、人工芝の張り替え、座席の更新などを進めてきた。「今年2月から、3年間かけて大規模リニューアルを実施していく」と長岡氏。まずは内野観客席のハイクラスシートに革張りの座席を導入したり、ドーム内照明のLED化、音響設備の更新も進めている。

 稼働319日のうち、野球が123日間、コンサートなどのイベントで196日。野球が占める割合は約40%だ。東京ドームでは野球以外のイベントを企画する専門部署を設けている。同社の自主興行イベント「ふるさと祭り東京」は7日間で約40万人、「国際キルトフェスティバル」は7日間で25万人、「テーブルウェア・フェスティバル」は9日間で30万人弱の来場者が訪れた。「企画担当者は毎年知恵を絞り、定番イベントに育て上げてきた」(長岡氏)。

 東京ドームは、ドームを中心としたエリアを「東京ドームシティ」と名付け、遊園地、スパ施設、後楽園ホール、場外馬券場、ホテル、120の飲食、物販、サービス店舗などを整備してきた。

 「東京ドームの来場者は年間800万人を超える。東京ドームシティの来場者は平均約4時間滞留しているが、東京ドームでイベントのある日は滞留時間が増える傾向にある。主目的である東京ドームに訪れる前後に周辺施設で過ごしていただく。そして満足度を高めていただく。それがひいては東京ドームという価値を感じていただくことにつながると考えている」と、長岡氏は周辺施設との一体開発による相乗効果を強調した。

仙台に生まれた多目的アリーナ、ゼビオアリーナ仙台

ゼビオホールディングスの中村氏(写真:小口 正貴)
ゼビオホールディングスの中村氏(写真:小口 正貴)
[画像のクリックで拡大表示]

 次に登壇したのは「ゼビオアリーナ仙台」を運営するゼビオホールディングス 副社長執行役員の中村考昭氏。同アリーナは仙台駅からJRで1駅、地下鉄だと5駅の長町駅近くにある常設4000席のアリーナで、2012年10月にオープンした。スポーツ目的としては、バスケットボール、バレーボール、フットサルの3チームがホームとして利用する。

 中村氏は「常設で約4000席の規模で、多目的でスポーツエンタテインメントを中心としたアリーナは、日本では新しい取り組みではないかと思っている」と中村氏は胸を張る。

 多目的を前提としたゼビオアリーナ仙台のフロアは、一般的な体育館のような板張りではなく、土間(コンクリート)となっている。「排水設備があるので氷も張れる。砂を運び込んでビーチバレーの試合をやったこともある。設営・撤去のために12トントラックやフォークリフトが場内に出入りでき、夜中に撤去、設営をして、翌日には別の目的に使える」(中村氏)。

 アリーナのコンセプトの要は3つ。(1)興行を前提としたエンタテインメントアリーナ、(2)周辺施設を含めた複合機能の提供、(3)地元企業と連携した共同運営の3点。

 (1)については海外のスタジアムやアリーナで定評のある米国ダクトロニクス社製の大型LEDセンターディスプレー(4面+2面)を導入している。「光の演出をしやすいように、席や壁はグレーを基調とし、コンテンツの演出効果を最大限に引き出すようにつくりこみをしている」(中村氏)。さらに会場を周回する213mのリボン状のLEDビジョンの動きに合わせて音の位置が動く音響システムも独自開発。演出効果を高めた。

 (2)については周辺に公園、グループのスポーツ量販店、フィットネスクラブ、室内型のテニス場、バスケット場、フットサル場などを配した。

 ユニークなのが(3)の運営形態だ。地元スポーツチーム、コンサートプロモーター、広告代理店、照明運営会社など、自社を含む全14社でLLP(運営組合)を組織して運営にあたる。「言うなれば民設共営。利用の質の向上に対して一丸となって取り組んでいる。地域活性化のエンジンとして存在したい」(中村氏)。

 アリーナの利用はスポーツが約7割弱の68%。残りがコンサート(27%)やコンベンションなどだという(2012年10月~2016年10月・発表時点でも予定含む)。中村氏は「まだまだこれからではあるが、我々が想定していた“スポーツを中心とした多目的のエンタテインメントアリーナ”の姿が比較的実現されている」と報告した。

公共スポーツ施設の厳しい施設運営の現実

日本政策投資銀行の桂田氏(写真:小口 正貴)
日本政策投資銀行の桂田氏(写真:小口 正貴)
[画像のクリックで拡大表示]

 民営スポーツ施設の取り組み紹介に続き、最後に登壇したのは、日本政策投資銀行地域企画部参事役の桂田隆行氏。野球スタジアムを中心に投資を行ってきた経験から、桂田氏は「日本の大型スタジアムは10年ほど新規施設があまり建設されていない。しかし今、ラグビーワールドカップ、オリンピック、バスケットボールのプロリーグのスタートなど、スタジアム、アリーナ建設の機運が高まってきている」と現状を分析。その上で「日本の実際のアリーナの収支を知ってほしい」(桂田氏)と語った。

 日本政策投資銀行の調査によると、一般的な体育館に代表される日本の公共スポーツ施設の平均的収入は年間約6000万円。スタジアム(球場)を加えるとさらに下がり4900万円ほどになるという。一見大きな金額に思えるが、支出平均は約1億2000万円となっており「50%ほどの収入しかない。儲かりにくい施設だというのが現状だ」(桂田氏)。

 公共スポーツ施設の儲かりにくさの一例として、桂田氏は横浜文化体育館の2014年度の収支を挙げた。同体育館は2014年度、50万7000円の黒字だったが、収入のうち約7000万円が横浜市からの指定管理費であり、この金額を除くと6900万円の赤字となる。2014年度は利用日数351日と高稼働率であったが「(公共スポーツ施設の)現在のやり方では、これぐらい厳しい現実がある」(桂田氏)と指摘する。

 桂田氏は、米国のステイプルズ・センター、英国のO2アリーナ、スペインのパラウ・サン・ジョルディといった例を挙げ、「スポーツ施設の収益性を高める事業手法を考えていく必要がある」(桂田氏)と述べた。

 具体的には命名権や広告、プレミアムルームなど、契約上で期間・金額が定められた収入(COI:Contractually Obligated Income)の確保、建設費の圧縮、イベント運営に長けた人材の育成、多機能複合型施設の推進などだ。一方で、まちづくりと連携してスポーツ施設がもたらす効果を織り込んでいくことも1つのやり方ではないかと話した。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/110100010/