マスタープランは事業者連携の上でもよりどころに

 パネルディスカッションの後半では、コーディネーターの吉田氏が、大きく二つのテーマでの議論を促した。一つは、地方の交通ネットワークの維持・確保に向けて、地域内の事業者同士の連携を進めるために必要なことは何か。もう一つは、MaaSなどの新しいテクノロジーを地方交通ネットワークにどう生かしていくべきか。

モデレーターは地域の交通政策や観光政策、都市・地域計画を研究する吉田准教授(写真:赤坂麻実)

 実際に企業統合の経験を持つ任田社長は、(旧)茨城交通の成功事例を、統合した日立電鉄のサービスに展開するなど、両社のベストプラクティスを取って事業を改善しているという。

 統合した企業で事業を円滑に進めていくには、社内の融合も重要だ。任田社長は、「人事制度や給与制度など、社員の生活に直結する部分は綿密にシミュレーションを重ねて、組合との合意に達した。ただ、それぞれの歴史の中で培われてきた企業文化の融合についてはもう少し時間をかける必要がある」と明かした。

 秋池氏は「これまで競争してきた企業が手を取り合うときには困難なこともあるはず。どんなに優れた構想であっても、実現できるかどうかは、任田社長が挙げたような、人事や給与などの社内合意や企業文化の融合などがクリアできるかどうかがにかかっている」と補足した。

 畠山氏は「事業者連携を進める中では、お互いの利害もあるので、先進事業者の事例やアドバイザーの存在が有効な場面が多い。また、公営企業体では人事異動が民間よりも頻繁なため、深まってきた議論が逆戻りすることもあった。そういう意味では、よりどころになる存在として都市交通マスタープランがとても重要だと感じた」と現場の皮膚感覚を語った。

 畠山氏の発言を受けて蔵持氏は、圏域でのマスタープランを重視する考えを示した。「各自治体でマスタープランをつくったうえで、ある程度、広域で連携を取ってもらいたいというのが、われわれの思いだ。特に、2014年の地域公共交通活性化再生法の改正以降、自治体単位というよりはエリアごとに地域公共交通についての計画を立てる方向へ軸足を移すことを促してきた。マスタープランと事業者が連携できるように、制度上もリンクさせていきたい」。

地域交通の切り札になり得る自動運転やMaaS

 新しいテクノロジーの導入に積極的な茨城交通では、自動運転の実証実験を繰り返し行っている。例えば、常陸太田市の高倉地区では、集落と幹線道路までを自動運転バスで結ぶ実験を行った。高齢化率が50%を超え、山道の上り下りが住民の負担になっているためだ。実施に際しては、高齢のボランティアによる運転を、自動運転技術と最寄り営業所から遠隔監視でサポートを行った。

ラストワンマイルに自動運転を用いた実証実験(茨城交通・任田氏の資料より)
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 任田社長は「監視員は1人で複数路線をモニタできるので、経済性も成り立ちそうだ。実験は白ナンバー(自家用車)だったが、緑ナンバー(一般貨物自動車運送事業許可)にして有償輸送を絡めれば持続可能性も上がる」と実装に前向きだ。ただし、「自動運転などの新しいテクノロジーを導入にはコストがかかる。量産化されればコストも下がるが、最初の導入期には国の支援があることが望ましい」と指摘した。

 バス関連の新テクノロジーでは、自動運転と並んでMaaSも注目されている。吉田氏が「国交省は19地域を先行モデル事業に選んだが、この各地域でアプリが開発されていくのだとしたら、その状況は合理的といえるのか。国としてMaaSにどう取り組んでいきたいか」と蔵持氏に問いかけた。

 問いを受けて、蔵持氏は次のように話した。「その地域だけのMaaSアプリが乱立するような状態は、われわれも望ましくないと考えている。なるべく効率化できるように働きかけていきたい。しかし、それ以前に重要なことは、地域のバスや交通機関の運行情報がデータとしてネット上に出てくることだ。2017年には、政府として、標準的なバス情報フォーマット(静的情報の「GTFS-JP」、動的情報の「GTFSリアルタイム」)を示した。これまでデータ共有に取り組んでこなかった地域の事業者にも共有を促していきたい」。

 一方、市内のバス事業に磁気カードやICカードを導入していない八戸市では、MaaSのようなワンストップの案内サービスをアナログな形で展開していた。目的地までの公共交通や観光などの案内を人力で行う「ターミナルアテンド」(2012年度~18年度にかけて実施)である。乗り継ぎ案内や目的地案内、体の不自由な人の乗り降り支援を、受託会社の契約社員が行った。「“アナログMaaS”には、人が人に伝える良さがある」(畠山氏)と、ICTだけに頼らないサービスの可能性を示唆した。

 秋池氏は、地域性に合わせたMaaS導入を考えるべきと訴えた。「八戸を私も訪ねたことがあるが、案内が適切に配置されていて分かりやすく、バスが利用しやすい(デジタルのMaaSがなくとも快適性・利便性が確保されている)。ただ、旅行商品などは発地側にも情報が届くよう、ネットへの情報掲載が望ましいのかもしれない。AI時代の地域交通は、何を機械がやり、何を人間がやるべきか、切り分けながら、段階を踏んで改革を進めていくべき」。

 続けて秋池氏は「第三者のアドバイスは重要だが、最後はその地域の人(自治体や事業者)が地域の背景や利用者ニーズに合わせて決める必要がある。マスタープランを作り、10年20年の計としてやり抜くことが重要だと考える」と総括した。