全国エリアマネジメントネットワークは9月27日、渋谷ヒカリエホールAで「エリアマネジメントシンポジウム@Shibuya まちの個性×担い手からエリアマネジメントを考える」を開催した(共催は京都大学経営管理大学院)。2027年に主要な再開発事業が完了する渋谷のまちを題材に「まちの個性」を語り、「まちの担い手」を探る議論を展開し、「エリアマネジメントのネクストステージ」を展望するきっかけとする狙いだ。セッション1では「渋谷らしさ」、セッション2では「多様性をはぐくむエリマネ」をテーマに議論を行った。本稿ではセッション1の議論を紹介する。 

渋谷の街のアイデンティティとは?

セッション1では「渋谷らしさ」について活発な意見交換が行われた(写真:小林直子)
[画像のクリックで拡大表示]

 セッション1では日本のサブカルチャー評論などで知られる宇野常寛氏がコーディネーターを務めた。パネリストには外国人向けガイドマガジン「タイムアウト東京」を発行するオリジナル代表取締役の伏谷博之氏、明治大学専任講師でアソシエイツ・一級建築事務所を主宰する門脇耕三氏、国学院大学経済学部教授の田原裕子氏が登壇した。

 コーディネーターの宇野氏は冒頭「渋谷が『若者の街』と言われ、日本で一番輝き、日本中の若者が憧れ、世界中のレコードが集まるような最先端の街だったのは、自分たち4人が『若者』と呼ばれていた20年前の話。では、これからの渋谷の新しいアイデンティティとは何か」と口火を切り、登壇者へ順番にコメントを求めた。 

 最初に回答したのは、「工事中」という言葉で渋谷の新しいアイデンティティを表現した伏谷氏だ。伏谷氏は、「工事中」という言葉を選んだ意図を次のように説明した。

 「渋谷は2027年までずっと工事中で、住みづらい街になったと住民が話している。確かに工事で色々と大変だろうと改めて思うと同時に、ポジティブに考えれば、工事の先に新しい未来を有する渋谷の街が生まれると言う期待感を持つこともできる。ハード面だけではなく、ソフト面でのチャレンジもできるのではないか」

伏谷博之氏(写真:小林直子)
[画像のクリックで拡大表示]
伏谷氏のスライドは「工事中」(写真:小林直子)
[画像のクリックで拡大表示]

3つの論点で渋谷を再定義

 次に門脇氏が「都市空間の襞(ひだ)性」を挙げた。門脇氏は「建築家として渋谷の地形を見ると、水が削って作った谷が入り組んだ襞が筋状に走っており、歩行・移動する人々の方感覚を失わせることが分かる」と渋谷という土地の特性に着目。そして、「歩く先の空間が見通せない地形が渋谷にとっての大きな強みだ」と続けた。

 その具体例として、常に歩行者でにぎわっているスペイン坂などを挙げながら、「ショッピングモールのなんばパークスや六本木ヒルズなども同じ構造で設計されており、歩行中に道が曲がりくねり、先が見通せない状況では自分が動くことで正面にお店が現れてくる。これが人の回遊性を増す空間の効果であり、谷の襞に沿って小規模な店舗が数多く存在するのに適した地形だ」(門脇氏)と、渋谷の強みを解説した。

門脇耕三氏(写真:小林直子)
[画像のクリックで拡大表示]

 田原氏は「渋谷らしさの再定義にかかわる論点」として、次の3点を提示した。論点(3)の「クリエイティブ・クラス」とは、創造的事業に従事する人々のことで、米国の経済学者/社会科学者のリチャード・フロリダ氏が定義した言葉だ。

  • 論点(1)今でも若者の街か?
  • 論点(2)オフィスの「郊外化」と「都心回帰」
  • 論点(3)新しい「職住近接」とクリエイティブ・クラス

 国学院大学での授業で渋谷や代官山をフィールドに現地調査をしたり、ボランティア活動を行ったりする中でまちづくりを考えているという田原氏は、論点(1)の「今でも若者の街か?」という点について、同校の学生や渋谷の街にいる20代の若者を対象に定期的に調査を実施していると明かした。「なんと7割の学生が渋谷の街を居心地が悪いと感じ、物価が高い、居場所がないと答えた」(田原氏)と驚きを示しながら調査結果を明かした。調査では、「渋谷では遊ばない」「渋谷が嫌い」「関心がない」との答えが返ってくることも少なくないという。

 この原因の一つとして田原氏は、「渋谷の再開発のターゲット自体が大人の街へとシフトしており、若者は自分たちがターゲットの主役と感じられていないのでは」と推測する。一方で、「渋谷区を一番住みたい街として挙げる若い女性は多い」という調査結果を挙げ、「必ずしも若い人を引き付けられない街とはいえない」との見解を示した。

田原裕子氏(写真:小林直子)
[画像のクリックで拡大表示]

渋谷は今でも「若者の街」なのか

 各氏の発表後、セッションは田原氏が示した3つの論点についての議論に移った。

 宇野氏はまず、田原氏が挙げた論点(1)「今でも若者の街か?」について、次のようにコメントした。「渋谷が若者の街であるというのは、90年代に若者だった自分たち中年世代が、今の若者に押し付けているイメージだ。現代はポップカルチャーが生み出される構造自体が変化していて、新しいカルチャーはもはや都市ではなく、ウェブ(インターネット)から生まれている。渋谷はその構造変化の影響を受けている」。

 次に、宇野氏は論点(2)「オフィスの『郊外化』と『都心回帰』」と論点(3)「新しい『職住近接』とクリエイティブ・クラス」に絡めて、次のように語った。

 「現代の、特にクリエイティブな仕事に就く人々は、共働きが多いことも影響し、職住近接を求めて山手線内側、さらに言えば南部に向かう。このため、渋谷が『若者の街』よりも『中高年が暮らす(労働)現役世代の街』になってきていることに注目すべきではないか」

 「物の消費で自己実現することが格好悪いという価値観に変った。渋谷の街はこの価値のシフトに合わせたゲームチェンジを考えなければいけない時期にある」

 この指摘に対し伏谷氏が「消費の価値の捉え方が変わった。ショッピングの目的が無くても、ぶらっと出かけるような街をどうつくるかが課題だ」と応じた。門脇氏は「ある世代と都市文化がリンクして来たのが東京の特徴。そういう観点からすると、ウェブカルチャー世代は居場所となる街がないのではないか」とコメントした。

 また、「渋谷は再開発のビジョンで多様性を大事にすることを掲げているが、多様性を定義すること、多様性がある街であることを示すのは難しいのではないか」と伏谷氏が新たな疑問を提起した。これに対して門脇氏は「ダイバーシティ(多様性)はごちゃまぜ、ミクスチャー。都市空間の襞性を持ち、襞にへばりつくようにして色々なものがごちゃまぜに混在できる地形の渋谷にはやはり適しているし、強みだと思う」との見解を改めて示した。

 さらに門脇氏は「この谷が入り組んだ襞性の空間を持つ渋谷は、面的再開発が簡単ではないために小規模な商店が残る。ここが興味深い」と話した。そして、消費文化から創造文化へという時代においては、「小売の商店だけでなく、スモールオフィスなどのクリエイティブな活動をする起業家が集積するにも適している街である」との持論を展開した。一方で、駅前エリアの面的な大規模再開発について「各々のまちの特性や特徴を作り上げている、小さな商店や文化発信の場所が地価高騰で消えてしまうことが多い」と懸念を示した。

コーディネーターを務めた宇野常寛氏(写真:小林直子)
[画像のクリックで拡大表示]

キーワードは「クリエイティブ・クラス」と「職住近接」

 門脇氏が懸念する大規模再開発の弊害については、渋谷の街が大規模再開発された臨海地域などのタワーマンションが林立するエリアとは異なる、多様な住宅ストックやリソースが存在していることに田原氏が注目。クリエイティブ・クラスが好む街は、仕事と生活の区別がシームレスな暮らし、つまり「職住近接」というライフスタイルが実現できる街であり、渋谷にはそのポテンシャルがあるのではないか、という議論が展開していった。

 宇野氏は、渋谷という街を「駅周辺だけでなく半径3kmぐらいの広域圏」で見て考えることを提起した。これを受けて伏谷氏が「駅と住まいや仕事場などの目的地とをつなぐストリートの楽しさや歩きやすさの仕掛けがあれば、人は自然に駅ビルやその周辺からもっと外あるいは路地を回遊するようになる」と語った。

 門脇氏は「都市空間の襞性は谷沿いに『しみじみした店舗』を残しつつも、谷を歩いた行きつく先の正面(中央部)には世界的な観光名所と化しているスクランブル交差点や、ハイソな大規模商業施設などにも出合え、合理的な消費行動も可能にする。そんな魅力を渋谷は持っている」と分析した。

 さらに門脇氏は「そういった、クリエイティブ・クラスの好むライフスタイル『職住近接の街・渋谷』がまだブランディングされておらず、世間に見えてない。これをつくることができたら、渋谷はもっと変わるのではないか」と問いかけた。

「自分が主役」と感じられる街へ

 最後は、まちづくりやエリアマネジメントの視点からの議論となった。

 田原氏は「多くの若者が共有する価値観は絆(きずな)。つながることが大好きで、自分だけの何かやストーリーに価値を置く」との見解を示した。伏谷氏は「渋谷がこれからも若い人の街としての可能性を感じさせるのは、まちづくりの現場のあり方だ。まちづくりの現場においてみんなで話し合ってまちを作ろうという意識による活性化が多く見られる。その流れから若者の街としての面が再び見えてくるのではないか」と推測した。 

 宇野氏は「かつては自分が主役になれる時間は買い物だったが、今の時代は住む、働くというシーンで自分が主役と感じるのだ」と発言。今のライフスタイルのトレンドと「職住近接の街・渋谷」との親和性の高さを示唆し、セッション1の議論は終了した。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/110200154/