全国エリアマネジメントネットワークは9月27日、渋谷ヒカリエホールAで「エリアマネジメントシンポジウム@Shibuya まちの個性×担い手からエリアマネジメントを考える」を開催した(共催は京都大学経営管理大学院)。活発な議論が展開されたセッション1「渋谷らしさとは」を受け、セッション2では「多様性をはぐくむエリマネ」をテーマに議論した。本稿ではセッション2について報告する。 

セッション2では渋谷という都市の多様性について議論が進んだ(写真:小林直子)
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本当に渋谷に「多様性」はあるのか

 セッション2のテーマは「多様性をはぐくむエリマネ」だ。コーディネーターをロフトワーク代表取締役の林千晶氏が務めた。パネリストは、以下の4人が登壇した。建築家で水辺総研代表取締役、ソーシャルプロジェクト「ミズベリング」ディレクターとしてまちと水辺の関係を問い続けてきた岩本唯史氏。EDGEof共同創業者代表取締役・Co-CEOで事業構築の専門家として多種多様なスタートアップ設立に携わってきた小田嶋Alex太輔氏。STORY コミュニケーション・デザイナーであり東京・大手町で三菱地所が運営するサードプレイス「3×3Lab Future」の ネットワークコーディネーターを務める若松悠夏氏。渋谷駅前エリアマネジメント監事で東急不動産の渋谷プロジェクト推進本部・渋谷プロジェクト推進第一部統括部長の鮫島泰洋氏。

林千晶氏(写真:小林直子)
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小田嶋Alex太輔氏(写真:小林直子)
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 まず林氏は、2017年10月に渋谷区が策定した、今後20年の渋谷のビジョンを示す基本構想において「多様性の担保からさらに一歩踏み込んだ、『ちがいを ちからに 変える街。渋谷区』」を未来像に掲げたことについて、「そもそも多様性とは何なのか。本当に渋谷には多様性が存在しているのか」と投げ掛けた。

 小田嶋氏は、母親がフランス人で父親が日本人、都内のフランス人学校で学び、大学教育をパリで受けたというバックグラウンドを持つ。氏は、日本社会における多様性への感性について、自分自身が日本社会で就職した際に初めて感じた違和感を明かした。「日本の文化だけで育ってきた人にとっての『当たり前』という言葉は『全員の共通認識』を指す」と例示。「多様性のある社会においての『当たり前』は、各人の心の中にそれぞれあるもので一致するものではない。考えや結論は人それぞれであることを認め、異なる人へ共感を強要せず、理解をすることだ」と多様性の定義を説いた。

「普通だとつまらないという文化・風土がある」(鮫島氏)

鮫島泰洋氏(写真:小林直子)
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 デベロッパーとしてあるいはエリアマネジメントのメンバーとして渋谷の再開発に携わってきた鮫島氏は「渋谷には普通だとつまらないという文化・風土があり、多様性を育む土壌がある。昔から小口の地権者、事業者が多くいること、 一国一城の主が多いことがその理由ではないか」と渋谷という街の特性を説明した。

 林氏は、「そのような多様な状況にあれば、大規模開発を望まない層との意見の衝突を生む可能性があるのではないか」と指摘。鮫島氏は「確かにデベロッパーにとっては悩ましい状況であるが、だからこそ、大規模な商業施設においても、街を面白くしてくれるようなテナント先を選ぼうとするなどの長期的な視点が必要だと実感している」との心情を明かした。

 さらに鮫島氏は、「ストリートに人が集まる拠点が多く生まれれば人々が回遊する。人々でにぎわえば、そこから新たな商売が始まる。 そんなまちづくりを行えば、駅ビルなどの駅周辺だけに人々が集まる、全国各地にあるような画一的な様相の再開発にはならないという希望を持っている」と語り、開発者の視点として、街の各スポットを「点」で見るのではなく、各点がつながる「面」で見て、「大小様々な要素がある街」という視点の重要性を示した。

 林氏は会場に対し、「何の違いをもって多様性を示すと思うか」と「性別」「年収」「趣味」「ファッション」「活動の目的」「年齢」…といった具体的な項目に対し挙手で回答を求めた。その結果、比較的「活動の目的」への賛意が多かったものの、圧倒的な意見の一致は見られなかった。

多様性から生まれる相違と衝突をどう克服するのか

 次に林氏は、各登壇者へ自身の多様な人々との活動の中で生まれる意見の相違と衝突をどう克服しているのかについて質問した。

 デベロッパーであると同時にエリアマネジメント団体にも参画している鮫島氏は、渋谷のエリアマネジメントの現状について、「既に個々でまちの活動を行っている人々が、エリアマネジメント活動に参加しやすいような仕組みを作っている段階である」と語り、多様性によって生じるコンフリクト(相違と衝突)を克服していくのは次の段階だろうと説明した。

 その上で鮫島氏は「エリアマネジメント団体の活動意志決定で大切な前提は、各プレーヤー(団体の構成員や活動主体)の関係がフラットであること。上下関係ではなく、ゆるい横の連携関係でありたい。そうでないと機能しない。ゆるい横の連携とは、様々な活動に参加し合う関係を意味し、その関係の中からつながりが広がっていく。また、組織の肩書きが関係なくなるほど長い時間をかけたつきあいが必要でもある」と語った。

エリアマネジメントは「かっこいい仕事であれ」(林氏)

若松悠夏氏(写真:小林直子)
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岩本唯史氏(写真:小林直子)
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 最後に林氏が「違いを力に変える」まちづくりにおいて、エリアマネジメントの役割やあり方について質問し各登壇者へマイクを回した。

 若松氏は、大手町のサードプレイス「3×3Lab Future」でネットワークコーディネーターとして常駐し、多様な世代と属性の会員同士をつなげてきた経験から「構成員がお互いの違いにワクワクすること、違いを楽しいと思う心持ちの人が増えることで『違いを力に変える』は実現できる」と応じた。

 小田嶋氏は地方創生のプロジェクトに携わった経験から、まちに存在する「ご意見番」への要望として、まちづくりにおいて「前例がない」ことや「経験不足」ばかりを指摘することで、新しい可能性を潰さないでほしいと求めた。

 岩本氏は「ミズベリング・プロジェクト」などを通じ、まちと水辺の関係を掘り起こし繋いできた経験からエリアマネジメント組織は「属人的であること」を求め、「人の魅力で街を魅力的に運営していくマネジメントにチャレンジしてほしい」と語った。

 林氏はセッションのまとめとして「エリアマネジメントはとにかく楽しくないとだめ」と提言。「エリアマネジメント」という単語がまちの人々へ楽しそうなイメージを想起させているかどうか。さまざまな「ポジティブなストーリーをどんどん用いて、苦しく大変な仕事という印象を無くすこと。かっこいい仕事という風になっていってほしい」と激励し、セッションを終了した。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/110200156/