2018年10月4日、5日の2日間にわたって開催された「京都スマートシティエキスポ2018」(会場:けいはんなオープンイノベーションセンターほか)。その中で全国自治体が抱える地域課題をICT等で解決する事例を発表する「全国自治体交流シンポジウム」が行われた。初日のプログラムのうち、さいたま市の清水勇人市長をはじめとする、自治体による5講演を紹介する。

さいたま市:エネルギー・資源を有効利用し、災害に強い都市をつくる

 さいたま市は、清水勇人市長が自ら登壇し、これまでのスマートシティの取り組みについての講演を行った。

[画像のクリックで拡大表示]
講演するさいたま市長の清水勇人氏(写真:山本尚侍)

 さいたま市では、持続可能な低炭素社会の実現に向けた取り組みの一環として、2009年から官民連携によりEV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)といった次世代自動車の普及促進と走行環境を支えるインフラ整備を推進する「E-KIZUNA Project」に取り組んできた。

 さらに、2011年の東日本大震災の教訓を受け、「災害時に致命的な被害を受けないような強靭なまちづくり」(清水市長)も進めている。注力してきたのは、平時だけでなく、災害時のライフラインを支えるエネルギー源の確保だ。

 さいたま市では2011年12月に「次世代自動車・スマートエネルギー特区」の指定を国から受けた。ここでは、「ハイパーエネルギーステーション」「スマートホーム・コミュニティ」「低炭素型パーソナルモビリティ」の普及に向けたプロジェクトを推進している(事業期間は2012年~2020年)。このうち、特に「ハイパーエネルギーステーション」「スマートホーム・コミュニティ」では、強靭化と関連が深い取り組みが進む。

 ハイパーエネルギーステーションとは、平時および災害時にもガソリンや軽油、天然ガス、水素や電気など、多様な燃料やエネルギーを自動車に供給することを目指す施設だ。ここでは小型水素ステーションを廃棄物焼却施設における実証実験設備として整備している。

 スマートホーム・コミュニティでは、民地の一部を共用化したコモンスペース(共用街路)の地下を利用して、環境・防災の観点から電線類の地中化に取り組む。そのほか、「災害時に冬季でも室温13度を下回らない住宅の整備などを進めている」(清水市長)という。

 さらに、2020年 東京オリンピック・パラリンピック(※)に向けて、さいたま新都心駅と浦和美園駅間のEVバスによる会場アクセス強化を図るのを機に「開催後もバスの蓄電時を災害時の非常用電源として活用できるようにすることで、街のレジリエンス性を強化していく」(清水市長)という構想もある。

※さいたま新都心駅直結のさいたまスーパーアリーナでバスケットボール男女の全試合が、美園地区の埼玉スタジアム2002でサッカー男女計11試合が開催される。

美園地区で運用する「共通プラットフォームさいたま版」

 次に清水市長は、さいたま市美園地区において公・民・学が連携する「アーバンデザインセンターみその(UDCMi)」の取り組みを紹介した。美園地区は、埼玉高速鉄道線の浦和美園駅を中心とした都市開発の進む地区とその周辺エリアだ。さいたま市のスマートシティ施策を具体的に展開している地区である。

[画像のクリックで拡大表示]
(資料:さいたま市)

 清水市長は、UDCMiにおける重点プロジェクトの1つとして、「共通プラットフォームさいたま版」の開発と実証を挙げた。共通プラットフォームさいたま版は、多様な「まちのデータ」の収集・管理・活用を可能にする情報共通基盤を指すもの。2017年度に総務省「データ利活用型スマートシティ推進事業」の採択を受けて、運用を開始した。このプラットフォームに集まったビッグデータと、美園地区を中心に募集した情報提供者のパーソナルデータを組み合わせ、情報提供者の身体づくりに最適なサービス提供を行うヘルスケア分野の取り組みなどが進められている。

[画像のクリックで拡大表示]
ヘルスケア分野でパーソナルデータを利用(資料:さいたま市)

 さいたま市の行った市民意識調査によれば、さいたま市を住みやすい、さいたま市に住み続けたいと評価する人がともに8割超で近年、高い水準の満足度を維持しているという。「さいたま市の人口は約130万人を超え、毎年1万人ずつ増えている。その中で、2020年までに満足度を9割にしたい」と清水市長は語る。

札幌市:北海道胆振東部地震で確認した施策の有効性と課題

[画像のクリックで拡大表示]
札幌市まちづくり政策局都心まちづくり推進室都心まちづくり課エネルギープロジェクト担当係長の櫨山和哉氏(写真:山本尚侍)

 2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、約2日間に渡るブラックアウト(全域停電)を経験した札幌市。

 「都心エネルギーマスタープラン」のもと、2050年を目標に「低炭素、強靭、快適・健康」を基本方針とした持続可能なスマートシティづくりを、都心部の建替更新に合わせて進める中で被災した。

 この時、「コージェネ(コージェネレーションシステム:熱電併給システム)を核としたスマートなエネルギーの面的利用の拡大」(低炭素)や「分散電源比率を増やして非常時の自立機能を高める」(強靭)といった基本方針に基づく取り組みが生きた。被災時に避難場所となった場所の1つに、2018年10月の開業に向けて準備中だった「さっぽろ創世スクエア」があった。ここには「観光客を中心に約530名が2日間にわたって宿泊した」(櫨山氏)という。

 ほかにも、備えていた非常用発電設備やコージェネレーションシステムを生かして避難する人を受け入れた都心部の自立分散型エネルギー供給ビルや地下歩行空間があった。

 「都心エネルギーマスタープランの妥当性、および近年整備を進めてきた自立分散型エネルギー供給拠点の有効性を確認できた。ただ、同時にまちづくりやエネルギー分野に関する多くの課題が浮き彫りになった」
 
「今回の地震と大規模停電を受けて、市民の意識も変わった。今回は比較的温暖な9月だったが、もし寒さが厳しい冬季に起きていたらどうなっていたか。電気だけでなく熱も必須になる。災害対策をしていない建物は鍵さえも開けられない。企業も事業継続に違いが出ることを、身をもって経験した」

[画像のクリックで拡大表示]
北海道胆振東部地震で観光客を受け入れた札幌市都心部のさっぽろ創生スクエアの様子(資料:札幌市)

 櫨山氏は、今回の経験をこう振り返る。

 そして、この冬の観光客への対応や、2030年冬季オリンピック招致を控える札幌市は「信頼回復に向けた取り組みが急務だ。(そのためにも)エネルギーの自立分散化やスマートエネルギーネットワークの推進を実行していく」(櫨山氏)と締めくくった。

京都府:産業廃棄物の最終処分量削減にセンサー活用

[画像のクリックで拡大表示]
京都府 環境部 循環型社会推進課 技師の廣田純一氏(写真:山本尚侍)

 2020年度までに、産業廃棄物の最終処分量(推計値)を現状の約11万トンから7.5トンに削減する目標を立てている京都府では、産業廃棄物のリサイクルを促進するために民間企業と連携している。そこでのスマートセンサーを活用した取り組みを紹介した。

 「プラスチック樹脂などは、ある程度の量が確保できれば有価売却できるほか、固形燃料などにリサイクルできる。リサイクルできれば最終処分量も減らせる」と廣田氏は見る。

 しかし、プラスチック樹脂などのリサイクルは、なかなか進まない面もあると廣田氏はいう。製造業などを営む排出事業者がリサイクルしようとしても、ある程度の量の産業廃棄物を貯めなければ収集運搬事業者は買い取ってくれない。回収業務を行う収集運搬事業者の採算が合わないためだ。とはいえ、排出事業者の側では、たくさんの産業廃棄物を保管するスペースの確保が容易ではないのが現状だ。

 ならば、1カ所で集める量が少なくても、どこにどれだけの廃棄物があるのかを把握できれば、収集運搬業者は効率的な回収ができ、採算ベースに乗せることが可能になるのではないか――。そう考えた京都府では、産業廃棄物保管量を測定するためにセンサーと通信設備を用意、同時に収集したデータから効率的な収集運搬ルートを提示するシステムを導入して実証実験を行い、理想とするリサイクルの構想モデルの効果検証を実施した。

 京都市内の一部エリアの製造業を選定し、廃プラスチック類を対象に、NTTビジネスソリューションズ、NISSHA、エックス都市研究所、シンクアンドアクトへ調査を委託した。京都府はリサイクルや処分に関わる各主体をつなぐ役割を担った。

[画像のクリックで拡大表示]
京都府におけるスマートセンサーを活用したリサイクル促進の構想モデル(資料:京都府)

 収集したデータを分析した結果、収集運搬業者が効率的な収集をすることにより、人件費やガソリン代のコストカットにつながることが分かった。また、排出事業者側も、センサー利用料が月額1700円の場合、年間委託量が7.5トン以上でセンサー導入にメリットがあることが試算された。「ただ、現状では、排出事業者側のメリットが小さく、リサイクルを優先的に選択する環境や受け皿の整備が必要だ。今後も構想モデルを普及させるために取り組んでいく」(廣田氏)。

 京都府ではほかに、IoT技術を活用して、排出事業者側にリサイクル業者側の受け入れ可能量に関する情報を提供し、排出事業者とリサイクル業者のマッチングを促す下水汚泥などのリサイクルの検討も進め、2017年度からフィジビリティ・スタディを行っているという。

会津若松市:まちづくりにデータ活用、会津大卒雇用の促進も目指す

[画像のクリックで拡大表示]
会津若松市企画政策部企画調整課副主幹の五十嵐徹氏(写真:山本尚侍)

 福島県会津若松市が目指す「スマートシティ会津若松」は、データとアナリティクスを掛け合わせたまちづくりだ。健康や福祉、教育、防災、エネルギー、交通、環境などの様々な分野でICTや環境技術を活用した取り組みを進めている。五十嵐氏がキーワードにあげたのは「産業振興を含めた地域活力の向上」「安心して快適に生活できるまちづくり」「まちの見える化」だ。

 会津若松市では、市民と行政の接点に、スマートフォン(スマホ)などで利用できる情報提供基盤「会津若松+(プラス)」を提供している。市民が日々開くアプリには母子健康手帳の電子版や除雪車の位置情報を表示する機能がある。

 除雪車については、市で保有する250台の位置情報をGPSにより把握している。除雪に時間のかかる地区を分析して割り出し、効果的な除雪作業に活用される。

[画像のクリックで拡大表示]
GPS端末を搭載した除雪車から得られた運行データの分析例(資料:会津若松市)

 LINEアプリを活用した市民への自動応答サービスには、AIを用いている。AI が回答することで市民は問い合わせで待たされなくなった。「その結果、職員が直接市民と向き合う時間が増えている」(五十嵐氏)という。また、応答履歴から問い合わせの傾向が明らかになり、行政サービス向上のヒントをつかんでいる。

 高齢世代などのスマホやPCを持たない世帯向けには、家庭にあるテレビを活用。インターネットを利用した中山間地域支援システムを介して現在、市や地域からのお知らせ、高齢者の見守り、オンデマンド型バスの予約が可能になっている。会津若松市の湊地区を実証エリアとして、設置を希望する世帯に導入している。

 また、会津市では、住民の居住場所をデジタルマップ上に記録している。これを活用したバス路線の効率的な運行ルートを再設計による収益改善や、防災、民生・児童委員担当地区の範囲確認などに活用している。

 農業とICTの連携も行っている。「水田の水管理に活用したところ、収益が1割増えた例もある」(五十嵐氏)。

 こうした取り組みにはもう一つの大きな狙いがある。地元・会津大学の卒業生の受け皿づくりだ。「会津大学の学生は卒業後、多くが首都圏に就職してしまう。若者の流出を防ぐためにも、ICT関連企業の集積による地域活性化と雇用創出を進め、会津大学の学生が地元に残るように取り組んでいく」と五十嵐氏は意気込む。

ニセコ観光圏3町の観光情報をサイネージで

[画像のクリックで拡大表示]
ニセコ町商工観光課長の前原功治氏

 北海道の蘭越町、ニセコ町、倶知安町で構成されるニセコ観光圏。人口2万人ほどが暮らすこの地域で、2017年の外国人宿泊延数は65万人を超えた。

 「様々な国からの来訪者が増加している。そこで3つの自治体の複数の観光案内所で連携し、情報を共有し、効果的な発信ができないかと考えた。情報提供によって不足する公共交通機関の利便性を補う目的もあった」(前原氏)。

 そこでサイネージとWi-Fi環境を整備。スマホなどを持たなくてもサイネージで情報を得られるようにした。スマホがあればWi-Fiに接続し、より詳しく調べることもできる。3町にまたがるイベントや見所に関する情報は、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を一元化して集約した。また、バスなどの交通機関運行情報やリフトの稼働状況も自動的に取得できるようにした。

[画像のクリックで拡大表示]
ニセコ観光圏で取り組む情報基盤整備の方針(資料:ニセコ町)

 サイネージを用いることで英語を含む多言語対応が可能になった。オペレーターも必要ないなど、人手を掛けず、なるべくシンプルな仕組みにした。「自治体にはインフラなどに多くのお金はかける財政的余裕はない。せめて訪れる方に情報を提供していきたい」と、前原氏はプロジェクトへの思いを語った。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/111200157/