全国自治体が抱える地域課題をICTなどで解決する事例を発表する「全国自治体交流シンポジウム」が、「京都スマートシティエキスポ2018」で行われた。シンポジウム2日目は、自治体・企業・総務省などが連携して推進する「地域IoT官民ネット」の事例などが紹介された。

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総務省情報流通行政局情報流通振興課企画官の桜井秀和氏(写真:山本尚侍)

 政府は、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を掲げ、官民の連携やデジタルテクノロジーの活用を打ち出している。目指すのは「国民が安全で安心して暮らせ、豊かさを実感できる社会の実現」である。

 「ただ、ICTやデータの利用に関して、まだ多くの自治体は十分な取り組みがなされていない。オープンデータについてのアンケート調査結果を見ても、メリット・効果が見えない、専門性の高い人材が不足している、取り組み方法がわからない、などの課題がある」――。こう語るのは、総務省情報流通行政局情報流通振興課企画官の桜井秀和氏だ。

 そこで「総務省では自治体の取り組みを支援する施策を打っている」(桜井氏)という。その柱の1つとして、2016年9月から「地域IoT実装推進タスクフォース」を開催している。これまでの実証などの成果を日本全国の地域に横展開していくことが大きな狙いだ。このタスクフォースで取りまとめているのが、地域におけるIoT実装を総合的・計画的・戦略的に進める方針を示した「地域IoT 実装推進ロードマップ」である。「このロードマップの実現に向けて、IoT推進に意欲的な自治体とIoTビジネスの地方展開に熱心な民間企業などによる、地域におけるIoT実装を強力に推進するための団体『地域IoT官民ネット』を構成している」(桜井氏)という。「全国自治体交流シンポジウム」では、その具体的な取り組みを紹介する講演が行われた。

高松市:データ利活用による地域課題解決を推進

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高松市総務局参事の広瀨一朗氏(写真:山本尚侍)

 地域IoT官民ネットのシンボルプロジェクトの1つとして選定された、スマートシティへの取り組みを報告したのが高松市だ。人口は2018年4月時点で約41万8千人。周辺市町村からの人口流入で近年ほぼ横ばいで、技能実習生をはじめとする外国人の人口が増えているという。

 「市民にとって住みやすい地域にするために、データと地域課題を市と市民とで共有することが大切と捉えている」――。広瀬氏は、高松市のスマートシティについての考え方を、このように説明した。

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「スマートシティたかまつ」プロジェクトの概要(資料:高松市)

 データの共有に関して高松市では、2018年2月に欧州を中心に普及するオープンな統合基盤ソフトウェアであるFIWARE(ファイウェア)を用いた「国内初となるIoT共通プラットフォーム(データ連携基盤)を構築した」(広瀬氏)という。FIWAREを採用した理由について、広瀬氏は、後半のパネルディスカッションで、「FIWAREは、配布された総務省の資料で、オープンでベンダーロックインを回避できると書かれていたことも参考にして採用した。実際使ってみて良かったのは、グローバルな、スマートシティのコミュニティに入れること。ポルトガルで開催されたサミットでも各国の関係者と有益な情報交換ができた」と語った。

 地域課題の共有に関しては、市を中心に産学民官により2017年10月に設立した「スマートシティたかまつ推進協議会」と連携して、データ利活用による地域課題解決を推進している。

 2017年度は、総務省補助事業を活用して、防災と観光分野に注力した。防災分野では観測地点に設置したセンサーから水位・潮位データを収集し、リアルタイムに庁内で把握。観光分野ではGPSロガーを取り付けたレンタサイクル自転車の動線把握を開始し、主に外国人観光客の訪問先をつかむことで施策に生かしている。

 2018年度は、福祉分野(ウェアラブル端末による認知症高齢者等の見守り、事故予防)と、交通分野(ドライブレコーダーの記録分析によるヒヤリハット発生地点の特定)での課題解決を進めている。

 取り組みを継続できる理由として広瀬氏は、市幹部、議会の理解や庁内に担当部署(ICT推進室)を設置したことなどを挙げた。一方、今後の課題としては「庁内のボトムアップ型の意識向上」「協議会の議論活性化」「市民の巻き込み」の3つを示した。

加古川市:行政情報ダッシュボードで市民に情報を伝える

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加古川市企画部情報政策課副課長の多田功氏(写真:山本尚侍)

 「子育て世代に選ばれるまち」の実現に取り組む兵庫県加古川市。まち・ひと・しごと創生総合戦略に基づいて、市民が安心して生活できる環境を、ICTを活用して整備している。

 加古川市では2017年度から、子どもや高齢者に対する「見守りサービス」事業を実施してきた。見守りサービスは、子供や高齢者の位置情報を家族がアプリやメールで確認できるというものだ。

 位置情報の把握は、子供や高齢者が所持する小型のビーコンタグ(見守りBLEタグ。以下、見守りタグ)の検知により実現している。

 加古川市では、2017年度と2018年度に小学校の通学路を中心に、防犯カメラ機能を持つ「見守りカメラ」を市内に約1500台設置した。この見守りカメラには、3社(ミマモルメ、DG Life Design、綜合警備保障)が提供する見守りタグの検知器が内蔵されている。

 見守りタグ検知器は、見守りカメラ以外にも、市内の公共施設、市の公用車(90台)や、共同研究に関する協定を結ぶ日本郵便の車両(176台)にも搭載されており、タグを所持する子どもや高齢者の所在を市で一元的に可視化できる仕組みだ。

 さらに、市民がスマホにインストールして利用できる加古川市の行政情報アプリ「かこがわアプリ」にも、見守りタグの検知機能が搭載され、見守りタグの検知機能をONにしたスマホを持つ市民が見守りボランティアに加わることで、見守りタグの検知率が向上できると見込む。多田氏によると本講演時点でかこがわアプリのダウンロード数は約9000件、ユーザー数は2050人を数えるという。

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子どもや高齢者の居場所を家族などに知らせる「見守りサービス」のイメージ(資料:加古川市)

 こうした先行事業で知見を蓄える中、加古川市では2017年度に総務省の「データ利活用型スマートシティ推進事業」の採択を受けた。そして複数分野のデータの収集・分析などに用いるデータ利活用基盤(プラットフォーム)をオープンソースの基盤ソフトウェア「FIWARE」を活用して整備した。

 「市民の皆さんは市の正確な情報を求めている。市は情報を市民の皆様にいかに伝えるか。加古川市の行政情報ダッシュボード( https://gis.opendata-api-kakogawa.jp/)や、かこがわアプリはそのためのツール。市からの情報を伝えるプッシュ機能も備える。平時も災害時も使っていただけるように機能などを拡充し、適切な情報をお届けしたい」(多田氏)。

 上記ダッシュボードでは、各種の加古川市オープンデータだけでなく、e-Stat(政府統計の総合窓口)やRESAS(地域経済分析システム)などの外部データも取り込んで表示することができる。

 多田氏によれば、他の自治体への横展開を見据えて、データ利活用基盤で提供される共通APIやIPA(情報処理推進機構)が普及を促す共通語彙基盤に基づくデータ項目の整備などを進めているという。

 「今後も、データをいかに市民に還元していくかを考え、市民の満足度や幸福度を高めるような施策を進めたい」(多田氏)。

かほく市:高級ぶどう品種の熟練生産者の技術をIoTで可視化

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かほく市産業建設部長の瀬戸一孝氏(右)と石川県農業総合研究センター農業試験場砂丘地農業総合研究センター主任技師の山内大輔氏(左)(写真:山本尚侍)

 石川県かほく市は、古くから水稲や果樹の栽培が盛んな地域。近年は鮮やかな赤色が特徴で国内最大級の大粒のぶどう「ルビーロマン」の生産が行われている。総務省のIoTサービス創出支援事業(2018年度)に採択され、かほく市をフィールドにブドウ「ルビーロマン」の栽培に必要な熟練の技術を見える化することを目指して取り組んでいる。

 「ルビーロマンは1房3〜5万円で売られる高級品になった。しかし、巨峰やシャインマスカットの商品化率は80~90%と高いが、ルビーロマンは生産者の6割が商品化率50%未満にとどまる。作るには熟練した技術と経験を要するためだ。そこで、上手な熟練生産者の技術をIoTによって可視化し、継承したいと考えた」(山内氏)。

 進めているのが、熟練生産者の知見を農業従事者に伝える学習支援システムの構築だ。熟練生産者の圃場に、気温、湿度、照度、土壌温度などの環境データを収集する各種センサーを設置し、取得したデータは無線技術であるLPWA(Low Power Wide Area)を用いて集約し、収穫量との相関関係を分析する。また、圃場で熟練生産者の栽培方法を撮影、記録し、栽培のポイントを調べる。「本格的なデータ分析はこれからだが着実に成果を出したい」と山内氏は語る。

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熟練生産者の「匠の技」を伝えるIoTを用いた技術指導モデル(資料:かほく市)

 ほかにも、熟練生産者などが控える指導拠点と圃場とを結んだ遠隔指導も試みている。圃場から送られてきた映像をチェックし、指導拠点から農業従事者に送られた指示に基づいて作業を実施するという。

東松島市:経験則×センサー情報で漁獲量推計

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KDDIビジネスIoT推進本部地方創生支援室の福嶋 正義氏(写真:山本尚侍)

 東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県東松島市。福嶋氏は2013年2月~2016年3月の間、KDDIから出向し、自治体職員の一人として現場で復興に取り組んだ。

 「水産加工業が盛んな東松島市では、震災が漁業に及ぼした影響も甚大だった。定置網漁を行うある漁師は漁獲量を確かめるために利用していた船で約15分のルートが被災で使えなくなり、被災後は遠回りするため片道1時間必要になった。移動だけでも負担が大きく、何か良策をとヒアリングする中で、センサーを活用して定置網にかかった漁獲量を遠隔地で把握する仕組みを考案。これが第一期IoTサービス創出支援事業(2016年度)に採択された」(福嶋氏)。より正確な漁獲量が迅速につかめれば、漁業者の取引先である飲食店なども入荷量の見込みが立ち、お互いに商売がやりやすくなる。

 実証事業を通じて、「水の色を見ればどのような魚がいそうか察しがつく」「シケの次の日は魚が多く取れる」といった事業者の経験に基づいた知見が得られたという。これらの経験則をもとにセンサー情報から漁獲量の推計を試みた。「その結果、現状ではサケ定置網漁における翌日の漁獲量を7割以上の精度で推定することに成功。漁業関係者にも驚かれている」(福嶋氏)という。

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さまざまなデータをもとに漁獲量の推定を試みた(資料:KDDI)

 福嶋氏らは、本サービスを創出する過程で見出した各種課題・研究テーマに基づき、2017年度以降、総務省戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)として、局所的海洋データを活用した漁業の効率化に関する研究開発を継続している。仙台高専や早稲田大学などの協力を得て、漁業で活用できるデータの種類を明確にするとともに、気象情報などのオープンデータや、LPWA(Low Power Wide Area)技術を用いた省電力のスマートブイから取得した多層の水温データを組み合わせ、機械学習などを利用して漁獲量の推定精度向上に取り組んでいる。

■訂正履歴
初出時、3ページで「325万円」とありましたが正しくは「3~5万円」でした。お詫び申し上げます。記事は修正済みです。 [2018/11/21 07:10]

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/111900158/