パシフィコ横浜にて開催された「第20回図書館総合展」(2018年10月30日~11月1日)。30日に開かれた「Library of the Year 2018」では全国から選ばれた4機関がピッチを行い、その場で大賞とオーディエンス賞が決定した。各候補の取り組みからは、時代とともに変わりつつある“図書館像”が浮き彫りとなった。

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最終選考会の流れ(当日投影された資料を撮影)

 2006年に始まり今年で13回目を迎えたLibrary of the Year(以下LoY)は、全国の公共図書館だけではなく「図書館及びそれに準ずる施設・機関」を対象とする。選考はNPO法人 知的資源イニシアチブ(Intellectual Resource Initiative、以下IRI)の理事会・選考委員会が中心となり担当。LoY 2018では全国29機関から応募・推薦があり、7月の一次選考で11機関、8月の二次選考ではそこからさらに優秀賞と同等の4機関、ライブラリアンシップ賞1機関の合計5機関を選出した。

 この日は最終選考会を兼ねており、優秀賞の受賞者が審査員と集まった観客を前に7分間のピッチ(短いプレゼンテーション)を行い、大賞を決定する流れとなった。さらに観客が投票を行い、最多得票の機関がオーディエンス賞を獲得するなど、ライブ感のある仕掛けを施した。審査の結果、甲州市立勝沼図書館が大賞・オーディエンス賞をダブル受賞した。

  優秀賞4機関とライブラリアンシップ賞1機関とその受賞理由は以下の通り(優秀賞受賞機関は当日登壇順)。

優秀賞の4機関
甲州市立勝沼図書館(大賞・オーディエンス賞をダブル受賞)
・受賞理由:「当たり前」の実践としての「ぶどうとワイン」という地域資源の開拓と活用

3.11オモイデアーカイブ
受賞理由:活用を重視した「記憶を育てるアーカイブ」がアーカイブ・図書館の本質を問う

バリューブックス
・受賞理由:本の価値とは何かを問い、知のエコシステムの再構築を目指す

小山市立中央図書館
・受賞理由:「食と農」の情報源となって「人と人」を繋ぎ、地域の未来を考えていく図書館

ライブラリアンシップ賞
白山市立松任図書館・学校図書館支援センター
・受賞理由:松任図書館・学校図書館支援センター、学校、地域住民が一体となって全国トップレベルの学校図書館活性化、見える化の実現

特産品と大震災の記憶、どちらもテーマは地域の力

■甲州市立勝沼図書館
甲州市立勝沼図書館 司書の古屋美智留氏(写真:本稿すべて小口正貴)
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勝沼図書館の受賞を伝える甲州市立図書館のサイト

 甲州市立勝沼図書館は1996年11月の開館以来、地域の特産品である「ぶどうとワイン」の資料収集を続けている。22年を経てその数は日本屈指の3万点にまで増え、同図書館蔵書数の約4分の1を占める。それらを活かし、毎年秋にはテーマを変えながら「ぶどうとワインの資料展」を開催。趣向を凝らした企画内容は冊子としても配布され、好評を博しているという。

 しかし活動を続ける中で、甲州市立勝沼図書館司書の古屋美智留氏は「地元の人ほど当たり前過ぎて関心が薄い」との思いを持つようになった。そこで勝沼図書館を“人が集まる場”として開放し、若手醸造家のアサンブラージュ(ワインのブレンド)体験会を開くなどした。「ワインの話を聞きながら、地元のワインがこれだけおいしくなっていることを観光客ではなく、地元の人に知ってもらう。言うなれば大人の夜の図書館。年を重ねるにつれて醸造家も話がこなれてきて、オススメの本も紹介したりするようになった」(古屋氏)。

 次世代へ知をつなぐことも忘れない。地元の子どもたちが理解できるように紙芝居を作成し、市内小学校へアニマシオン(読書指導)の出張授業を行うなど啓蒙をはかる。古屋氏は「地元の特産品に誇りを持ち、いずれは勝沼で新しいぶどうの品種やワインを育ててほしい」と期待を込める。いまではワインツーリズムやフットパスの中継地点としても活用されており、“ぶどうとワインの図書館”として唯一無二の存在感を放っている。

■3.11オモイデアーカイブ
3.11オモイデアーカイブの佐藤正実氏
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3.11オモイデアーカイブのウェブサイト

 仙台市に本拠を置く市民団体、3.11オモイデアーカイブはプロジェクトとして優秀賞を受賞した。舞台となるのは津波による甚大な被害を受けた仙台市沿岸部である。2011年に発生した東日本大震災を経て、変わり果てた「アフター」の現実ばかりではなく、震災前の風景や生活の営みなど「ビフォー」の姿をあわせて収集することで、「人の心が暖かくなるような活動」(3.11オモイデアーカイブの佐藤正実氏)を続ける。

 具体的な活動内容は「3.11定点撮影プロジェクト」と「3.11オモイデツアー」の2つ。前者の定点撮影は震災前と震災後の同じ場所の写真を集めて、復興後の未来の素地となる“記録”を形作る。そのため、現在も市民から昔の写真を集めている。

 後者のオモイデツアーは写真では残せない“記憶”にフォーカスしたもの。沿岸部の人たちを訪ね、震災前の楽しかった思い出などを話してもらい、動画で残す。「個人の中にある記憶は記録を取りにくい。この活動で当人たちに記憶を呼び起こしてほしい」(佐藤氏)。活動を通して魅力を発信しながら仙台市沿岸部のファンを増やし、一人でも多くの人たちに足を運んでもらうのが狙いだ。