第21回 図書館総合展(パシフィコ横浜)において2019年11月13日、指定管理者として公立図書館を運営・管理する4つの市民団体によるディスカッション、市民団体指定管理者フォーラム「各地からの現状報告と将来見通し」が開催された。それそれのユニークな取り組みの紹介のほか、運営資金調達の厳しい現状などへの言及もあった。

(写真:神近博三)
登壇者
・NPO法人本途人舎 大林晃美氏(市立小諸図書館)
・NPO法人まちづくり津島 園田俊介氏(津島市立図書館)
・一般社団法人とらいあ 高橋一枝氏(新庄市立図書館)
・NPO法人本と人とをつなぐ「そらまめの会」
 下吹越かおる氏(指宿市立図書館)
司会:図書館流通センター/図書館総合展運営協力委員 長田由美氏
コーディネーター:アカデミック・リソース・ガイド 岡本真氏

NDCを基本にしつつも、利用者視点の独自配架ルールを採用

市立小諸図書館/NPO法人本途人舎の大林晃美氏(写真:神近博三)

 フォーラムは長田氏の進行で、登壇者がそれぞれの図書館における取り組みや課題を順番に報告する形で進められた。最初に報告した大林氏は、市立小諸図書館(長野県小諸市)が採用する独自の図書分類・配架ルールを紹介した。

  市立小諸図書館は2015年に開館した新しい図書館である。2008年にその設立準備室が設立されると、大林氏は「図書館を考える会という反対派」(大林氏)として図書館に関わるようになり、その後、設立準備室や図書館の臨時職員を経て、2019年4月1日からは大林氏が参加するNPO法人本途人舎が指定管理者として市立小諸図書館を運営している。

 日本の図書館は通常、図書の分類・配架ルールとして日本十進分類法(NDC)を採用する。だが、市立小諸図書館はNDCを基本に、利用者の使い勝手を考えた独自の工夫を取り入れている。例えば、「ハムスターを飼いたい」という利用者向けに、ハムスターの生態を解説した書籍(4類:自然科学)とハムスターの飼い方マニュアル(5類:技術・工学)を並べて配架する。同じように、教育・子育てに関連する書籍も、NDCの分類をまたいで1つのカテゴリーとして配架する。こうした独自の分類・配架ルールは、旧図書館の閉鎖から新しい図書館がオープンするまでの間、比較的小規模な臨時図書館で試行錯誤を繰り返しながら、利用者のモニタリングを受けて決めていったものだ。

  利用者視点を優先する配架ルールだけに、当初は職員から「返却された本をどこに戻していいか分からなくなる」という反発もあったが、「覚えれば済むこと」という方針で乗り切ってきたという。

地域資料を収集、図書館への学術的な信頼を確立

津島市立図書館/NPO法人まちづくり津島の園田俊介氏(写真:神近博三)

 津島市立図書館(愛知県津島市)における地域資料(郷土資料および地方行政資料)の扱いを取り上げたのは園田氏だ。園田氏は13年前に同図書館に赴任して以来、地域資料の収集と研究に取り組んでいる。収集する資料には古文書のほか写真、ビデオフィルム、地域新聞などがあり、図書館のホームページ、書籍、写真集、DVDなどの刊行物、図書館の講座や企画展示を通じて公開している。

 資料の収集や研究の目的は、図書館への学術的な信頼の確立である。「図書館にはリファレンスや課題解決の役割が重視されようになっている。それに応えるには、まず学術的な信頼を得なければならない」(園田氏)。集められた地域資料は、市の審議会、観光ボランティア団体のガイドや商店街の街歩きパンフレット作成の基礎資料、学校の社会科副読本などに利用されている。

市内の学校図書館と連携、横断検索システムも

新庄市立図書館/一般社団法人とらいあの高橋一枝氏(写真:神近博三)

 高橋氏は、市内の学校図書館と新庄市立図書館(山形県新庄市)との連携事業を紹介した。新庄市は、学校図書館支援センター推進事業、ふるさと雇用再生特別基金事業、山形県の緊急雇用創出事業などの助成金を利用して、委託先のNPOや一般社団法人から学校図書館に司書を派遣または巡回させたり、市立図書館と学校図書館の蔵書を横断的に検索できるシステムを開発したりしている。

 2016年に稼働した検索システムは、蔵書の重複を防ぎながら複数の図書館の蔵書を自由に閲覧できるようにする。現在は学校図書館の蔵書を他の図書館に取り寄せる際に、「校長の許可をどうやって得るか」などの運用ルールを検討しているところだという。

子供や高齢者向けの予算は図書館でも生かせる

指宿市立図書館/NPO法人本と人とをつなぐ「そらまめの会」の下吹越かおる氏(写真:神近博三)

 最後に報告した指宿市立図書館(鹿児島県指宿市)の下吹越氏は、「皆さんが一番聞きたい」(下吹越氏)お金の話題を取り上げた。下吹越氏が最初にお金の問題を意識したのは、ある研修に参加したときのことだ。このときの研修の主催者は下吹越氏に向かって、「あなたは指定管理者だろう。予算を取ってくる権限がないんだから、研修に参加する必要はないよ」と発言したという。

 これにショックを受けた下吹越氏だったが、その後、「お金はどこにあるか」を意識して交付金や補助金の仕組みを勉強するようになり、「図書館でこういうことをしたい。お金はありませんか」とまわりに積極的に相談するようになった。そんなある時、国の子育て支援の交付金2000万円が余っているという話があり、その一部をベビーカーなど図書館の子供向け設備に使うことができた。

  このとき「図書館には障害者、子供、お年寄りなどいろんな人が来る。(図書館の運営費となる)指定管理料はあらかじめ決まっているが、図書館に来る障害者、子供、お年寄りのために使うのであれば、そのための予算を図書館に振り向けることができる」(下吹越氏)ことに気づいたという。

「やりがい」と「金額」の折り合いが課題

 現在では、NPO法人本と人とをつなぐ「そらまめの会」として、行政に頼らずクラウドファンディングで資金を集め、車両にカフェと書架を積み込んだ移動式ブックカフェを走らせるプロジェクトにも取り組んでいる(関連記事)。この移動式ブックカフェは、市役所の観光課や商店街の協力を得て、指宿駅前にある市役所の土地に場所代無料で出店している。「お金がない、指定管理料の範囲内のことしかできないとは考えず、行政や住民と連携して足りない部分をいかに補うかが大切だ」(下吹越氏)。

 フォーラムの最後に、司会の長田氏から「最近は(指定管理者を)辞めるNPOが出てきている。そのあたりのこと話してください」と話を振られた下吹越氏は、「NPOで4期、5期も指定管理者を務めるところは全国的にも少ないと言われている。お互い頑張ろうと励ましあってきたNPOでも、金額の折り合いがつかず撤退するところが出てきている。私たちも、やりがいはあるが、果たしてこの金額でみんなを働かせていいのか、どこまで(金額面で)持っていけるか、理解してもらえなければ身を引こう、と考えながら、次の指定期間に手を挙げているところだ」と発言。併せて、指定管理者制度の問題点として、図書館の職員が災害やトラブルに巻き込まれた場合の補償制度の不十分さも指摘した。

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