京都スマートシティエキスポ2020のプログラム「全国自治体交流シンポジウム」の講演の中から、広域自治体(都道府県)の取り組みを紹介する。徳島県は同県におけるICTおよびローカル5Gの戦略、東京都はデジタル都政に向けた構造改革、長野県は2020年7月に策定された長野県DX戦略を軸に説明した。なお、京都スマートシティエキスポ2020では、2020年12月31日まで講演の動画をオンライン会場(要登録)で公開している。

[徳島県]人口減少・少子高齢化と東京一極集中の解決図る地方創生の取り組み

 徳島県知事で全国知事会会長を務める飯泉嘉門氏は、「徳島5G革命」と題して、同県におけるICT推進の取り組みを説明した。

徳島県の飯泉嘉門知事(全国知事会長)の講演の様子。投影資料は5Gの普及および次世代通信規格を見据えた取り組みの展望(講演のオンライン画面より)
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 徳島県では、地上デジタル放送への移行を機に、2011年までの約8年間に中山間地域を含めてケーブルテレビ網および光ブロードバンド環境をきめ細かく整備した。

 「ケーブルテレビの普及率は9年連続全国1位で、通信インフラは充実している。これがBCP(事業継続計画)を推進する企業やスタートアップ企業へのサテライトオフィス、ワーケーションの提案、また消費者庁の徳島県への移転や業務において大いに活用されている」(飯泉知事)

 柔軟な働き方の支援として、国の区域外通学制度を利用して住民票を移すことなく、都市圏の小中学生が徳島県内の公立小学校で学ぶことができるデュアルスクール制度の利用者もいる。

 一方、2019年9月には徳島県内で、消費者庁と同県が「G20消費者政策国際会合」を共催した。また、2020年の「とくしま国際消費者フォーラム2020」では、SDGsを見据えた「消費者志向経営」や「エシカル消費」をテーマに日本国内の事業者や団体、自治体の事例などをオンデマンド配信で紹介した。

 災害時の避難対策にもICTの活用に取り組む。「地域防災等対応システムプロジェクトでは、発災時における各家庭に向けた避難情報の個別配信にテレビ放送を活用するシステムを開発している。避難所のチェックインにマイナンバーカードを利用し、避難情報を電子地図にプロットできる。必要な医療物資なども瞬時にチェックできるシステムとして、本県の美波町で実証実験を進めている」(飯泉知事)

 徳島県では、全国に先駆けて、ローカル5Gの免許を申請、2020年9月に本免許を取得した。患者と主治医のいる県立海部病院と、専門医がいる県立中央病院を5Gで接続し、疾患の状態を4K高画質動画でリアルタイムに伝送し、専門医の所見を得る遠隔医療の実証実験などを行った。

 また、5Gの次世代通信規格を見据えて県内テクノスクールと連携した実践教育など人材育成を推進。さらに、地方大学地域産業創生交付金を活用し、テラヘルツ波という極めて高い周波数の電磁波を新産業創出に生かす取り組みなど、県民生活の向上と雇用創出など地域課題の解決に向けた取り組みを飯泉氏は紹介した。

 飯泉知事は「WITHコロナ時代の社会では、都市部を含めて地方の結束が重要だ。47都道府県の現場の声を反映した国への政策提言についても引き続き、進めたい」と、全国知事会会長としての意見も述べた。

[東京都]都庁の機能や行政サービスをリアルからバーチャル空間へと分散

 東京都副知事の宮坂学氏は、「東京のスマートシティ戦略について」と題して講演し、その中で東京都が目指す「スマート東京」の将来像とその実現に向けて乗り越えるべき課題を説明した。

 宮坂副知事は、スマート東京の柱として3つのキーフレーズを示した。(1)「電波の道」で「つながる東京」(TOKYO Data Highway)、(2)公共施設や都民サービスのデジタルシフト(街のDX)、(3)行政のデジタルシフト(行政のDX)である。

東京都の宮坂学副知事の講演の様子。投影資料は、「スマート東京」の3本柱(講演のオンライン画面より)
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 「電波の道」とは都が保有する建物などの資産を民間企業に開放し、5Gアンテナ基地局の設置を促すなど産業分野での活用や災害時の通信機能の確保に役立てる施策だ。東京都庁のある西新宿エリアで先行プロジェクトが実施されている。

 公共施設や都民サービスのデジタルシフトは、オンライン教育、オンライン診療、テレワーク、スマートモビリティなどのデータ共有と活用の仕組みに基づく行政サービスの質向上を指す。

 「行政のデジタルシフトについては、東京デジタルファースト条例が都議会で成立し、今後、行政手続きはすべてデジタルで処理することが原則になった。先行して約98%を占める169件の手続きのデジタル化に着手する」と述べた。

 かつてヤフーの代表取締役社長などを歴任した宮坂副知事は、情報の作成(デジタイゼーション)、流通・共有(デジタライゼーション)、情報の利活用による社会そのものの変革(DX)という3段階でいうと、都政はまだ2段階目の手前に留まると指摘した。

 「紙やはんこをベースにしたアナログ環境からオンライン・デジタル環境へ転換する5つのレス徹底推進プロジェクトなど、7つのコア・プロジェクトで都庁の構造改革を進めている。重要なのは、期限や数値目標にコミットしたこと。かつて都庁は有楽町から西新宿に丸ごと移転したが、これからの時代は行政サービスをリアルからバーチャル空間に分散する方針だ」(宮坂副知事)

 宮坂副知事は、行政のデジタル化を含むスマートシティへのチャンレンジを進める上で2つの条件を挙げた。

 まず、DX推進に必要な人材確保。国へ要望しているのが”自治体版”の官民交流制度だ。「日本は世界のメガシティと比べて職員数に占めるICT部門職員数が少ない。官民交流制度は、民間企業に在籍したまま省庁などの仕事を担うことができる制度であるが、地方公共団体にはこれに相当する制度が現状なく、企業を辞める、または企業が人件費を負担する研修生という扱いなどになる。こうなるとリーダー級のすぐれたスキルを有するデジタル人材が集まらない。制度を見直していただくよう働きかけをしている」(宮坂副知事)

 そして、国と広域自治体、基礎自治体が横断的につながる情報ネットワークの構築である。

 「東京都では5Gの取り組みをはじめ、オープンデータやプログラムのオープンソース化、そして失敗や成功の知見を含めたナレッジのオープン化に取り組んでいる。自治体間の分かち合いによって、どの地域の市民も課題解決や協働に参画しやすくなる。すべての自治体のチャレンジが成功する確率が飛躍的に高まると考えている」と宮坂副知事は述べ、連携を呼び掛けた。

東京都が構造改革を進める上で掲げる7つのコア・プロジェクト(東京都の講演資料より)
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[長野県]2020年7月に「長野県DX戦略」を策定

 長野県では、2018年に5カ年にわたる総合計画(しあわせ信州創造プラン2.0)を策定。その政策推進の基本方針には、先端技術の活用を掲げ、DX推進を県庁全体で進めているところだ。全体を統括するCDO(最高デジタル責任者)は、2019年に設置されたポストで、2名いる副知事の1人である小岩正貴氏着任している。

 「CDOが議長を務める先端技術活用推進会議には、副知事および全部局長が参加し、部局横断的なプロジェクトを企画・実行している。ここでの議論を経て2020年に長野県DX戦略を策定した」(小岩副知事)

 「長野県の人口は2000年の215万人をピークに減少傾向にある。その結果、教育・人材育成、地域社会の機能、経済・産業・雇用、生活サービス・インフラ、医療・介護面で様々な影響が生じている。課題に向き合う中で、ICT利活用とDX推進に着目した施策を推進してきた。県民や地場企業に加えて、県外の方や企業にとっても魅力的な地域にしていく」(小岩副知事)

 2020年7月に策定した長野県DX戦略は、「スマートハイランド推進プロジェクト」と「信州ITバレー構想」の2つの柱からなる。

長野県の小岩正貴副知事/CDOの講演の様子。投影資料は、長野県が掲げるDX推進の2本柱(講演のオンライン画面より)
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 スマートハイランド推進プロジェクトは、県民生活と行政のDXを推進するもので、行政事務、教育、インフラ、災害対応、キャッシュレス、地域交通、医療の7分野で進められる。それぞれ2022年度の達成目標を掲げており、たとえば地域交通最適化プロジェクトでは、持続可能で新しい生活様式に適応した最適な交通の構築に向けた基礎を築くため、MaaSなど新たなモビリティサービスの導入を検討していく上で必要なデータなどの収集・分析と、新たな輸送サービスの実現に向けた実証実験の実施を挙げている。

 一方、信州ITバレー構想は県内産業のDX推進を目指すもので、2020年度はIT人材の育成支援、IT人材の誘致・定着の促進、IT企業の立地環境整備、ITビジネスの創出支援、県内産業のDX推進という5つを軸に取り組みを進めている。

 DXの着眼点には2つあると小岩副知事は言う。

 「第1は、中山間地域の課題に着目したことだ。スマートシティというと大都市の未来像のように描かれがち。しかし、長野県の課題は、都市部とは違う。信州のアイデンティティは、中山間地域にある。そこで、やるならば『中山間地域における先端技術活用』の先進県、スマートハイランドを目指そうという声があがった」(小岩副知事)

 第2の着眼点は、長野県内77市町村との協働だ。「県から理想を押し付けるのではなく、市町村と県がともに理念や目指す姿を共有することがDXでは大事だ。そこでの県の役割は、市町村が先端技術を活用しやすい環境を整えていくことだと考えている」と小岩副知事は語った。

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