京都スマートシティエキスポ2020のプログラム「全国自治体交流シンポジウム」の講演の中から、大阪府四條畷市、群馬県前橋市、石川県加賀市、北海道更別村の取り組みを紹介する。目指す将来像はそれぞれ異なるものの、IoT/AI/ロボティクス/5GなどのICTを活用しながら、各地域が抱える課題克服に向け官民連携で挑戦する姿勢が浮かび上がった。なお、京都スマートシティエキスポ2020では、2020年12月31日まで講演の動画をオンライン会場(要登録)で公開している。

[四條畷市(大阪府)]チャレンジしたい職員を増やすことが重要

 人口約5万6000人の四條畷市は、京都や奈良、また大阪の主要な駅までのアクセスがよい住宅都市として発展してきた。2016年に市長に就いた東修平氏は当時28歳。また、林有理副市長は育児と仕事を両立するワーキングママで、全国公募にて1700人の中から選ばれた。

 「市は人口や財政などの変化に伴い、働き方を本質的に変える必要がある。働き方改革を通じて目指すのは、住民の声に基づく日本一前向きな市役所だ。スマートシティはその手段と考えている」――。こう語る東市長が掲げる働き方改革の柱は3つだ。適切な数値目標の設定と効果検証を行うデータ等に基づく政策立案、社会課題に対して多様な組織が力を合わせて取り組むための団体・企業との連携、そして、市民の利便性と職員の生産性を向上させるテクノロジーの活用である。

四條畷市の東修平市長の講演の様子。投影資料は、四條畷市が取り組むAIとRPAを活用した保育所などへの入所選考業務の効率化について(講演のオンライン画像より 注:その後の検討および新型コロナウイルス感染症の影響により、計画が変更になっている)
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 こうした改革事例の一部として東市長は、マイナンバーで用いられる電子署名技術を利用したオンラインによる住民票の取得、Bluetoothで位置情報を確認できるIoT技術を活用した子ども見守りサービスの社会実験、オンライン面接を活用した職員採用について説明した。同市で事務職の採用を2018年度からオンライン面接で実施したところ、それまで毎年30人以下程度だった応募者数が400人台、600人台と年々急増し、2020年度は1700人を超えたという。

 「スマートシティというと大規模な実証実験を思い浮かべがちだが、市民から見えにくい行政事務を変えることや、前向きにチャレンジしたい職員を増やすことがスマートシティ推進では重要だ。また、この貴重な時間は、きめ細かな相談や支援などの重要な業務に充てたい」と東市長はスマートシティへの思いを語った。

[前橋市(群馬県)]市民の理解を得てスーパーシティにチャレンジしたい

 前橋市の山本龍市長は、「スーパーシティ&スローシティ ~デジタルな田舎暮らし~」と題して、前橋市の取り組みを紹介した。

 前橋市は、スーパーシティ構想(国家戦略特区指定)の申請を進めている。官民連携とデジタル最新技術により市民の暮らしを豊かにするスーパーシティの推進と、多様性や寛容性をベースにゆったりと健康的に暮らすスローシティをリンクさせる方針だ。

群馬県前橋市の山本龍市長の講演の様子。投影資料は、市民1人ひとりに適した行政サービスを提供する「まえばしID」の導入イメージ(講演のオンライン画像を一部加工)
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 高齢化率の増加や医療の増加をはじめ、多くの課題を抱える前橋市では、これまでに大きく(1)救急・医療・介護、(2)公共交通、(3)子育て環境、(4)市民サービス、(5)行財政改革の5分野においてICTを積極的に活用し、市民サービスの改善にチャレンジしてきたと山本市長は説明する。

 「55歳以降に大幅に増加する医療費をなぜ抑制できないのか。1人ひとりの健康データをもとに適切なアドバイスや健康指導をする仕組みが必要なはずだ。前橋市では、マイナンバーカードを活用してホームドクターと病院でCT画像を共有する実証実験や、救急車両で患者を搬送する際に医師に動画や検査結果を5G通信で共有し救命率を高める社会実験などを民間と連携して進めてきた」(山本市長)

 ほかにも、移動困難者対策として、運賃の一部を補助するマイタク(でまんど相乗りタクシー)の運行実施、ローカル5GやAIを活用した自動運転バスの導入、介護施設のベッドに各種センサーを設置した介護支援のしくみづくり、母子手帳の電子化、オンライン教育などの実績を挙げた。

 「東京から前橋市に戻って起業する若者、前橋市で学ぶ外国人留学生も増えている。それぞれの要望や言語、習慣を尊重した行政サービスを提供していかなければならない。このようなICTを活用した様々な分野のシステムに横串を通すのが、『まえばしID』だ」(山本市長)

 まえばしIDは、マイナンバーカードの個人認証とスマホSIM、顔認証を組み合わせたID(識別子)だ。

 「34万人の市民に付与することによって、1人ひとりの困りごとに積極的にお節介を焼いていく。市民1人ひとりに最適な行政サービスを送り届ける小回りの効く小さな市役所を目指す」と山本市長は強調した。そして「スーパーシティの指定を受けるには、構想に対する市民の合意を得る住民投票の実施が課されている。市民の理解を得てチャレンジしたい」と語った。

[加賀市(石川県)]エストニアを参考にポストコロナに向けた都市を

 2020年3月には「加賀市スマートシティ宣言」を行った加賀市。2020年8月には行政手続きのデジタル化サービスを開始した(関連記事)。2020年度内には50種類の申請手続きをオンラインで可能にする予定だ。

加賀市の宮元陸市長の講演の様子。投影資料は2020年8月に開始した行政手続きのデジタルサービスの説明(講演のオンライン画像より)
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 「かつて加賀百万石の支藩の城下町として栄えた加賀市は、最盛期には400万人の宿泊客が訪れる観光地として、また部品メーカーなどものづくり企業が集まる地域として活況を呈した。しかし状況は変わった。2014年に加賀市は日本創生会議の公表した消滅可能性都市の1つに数えられた。以来、新たな産業集積の柱となる、第四次産業革命を見据えたイノベーション施策を掲げ、挑戦してきた」と加賀市の宮元陸市長は述べた。

 2016年度には、経済産業省の第1回地方版IoT推進ラボの選定を受け、スマート加賀IoT推進事業をスタートさせた。

 「目指したのは、IoTデジタル人材の育成と、先進テクノロジーの導入だ。もともと加賀市では、地域を支えるのは人だ、と考えて育成に力を入れてきた。2015年度から小中高生がロボットプログラミング技術を競うロボレーブ国際大会への会場提供や運営支援をはじめ、2016年には小中学校でプログラミング教育をいち早く実施した」(宮元市長)

 加賀市役所は、市民や企業をつなぐプラットフォームとしての役割を果たしている。2018年には、地方創生推進交付金事業により、産業人材や産業創出の拠点として加賀市イノベーションセンターを開設させた。2020年4月に同センターにはNTTドコモによって5G基地局が整備されている。

 そして官民連携による挑戦の実証フィールドとして、チャレンジを後押しするルールや認証基盤などのインフラの整備にも注力してきた。2018年にはブロックチェーン都市宣言をし、さまざまな民間企業との連携や協定を進めてきた。

 「ポストコロナへの挑戦が本格化している。皆様には、加賀市の旅館を活用した長期リモートワークなど、多拠点居住による新しい働き方を提案したい。エストニアのe-residencyを参考に、仮想市民としてサービスを受けられるスキームを検討している。消滅可能性都市から挑戦可能性都市への転換を目指してさらに取り組む」(宮元市長)

[更別村(北海道)]「じいちゃん、ばあちゃんのQOL日本一の村」へ

 北海道の更別村は、人口約3200人。人口の4割を農業従事者が占める。「農家一戸当たりの高地面積は約57ヘクタール、東京ドームの広さの10倍程度に達し、トラクターの保有台数は農家一戸当たり6.7台だ。とはいえ家族経営が中心であるため、大規模な農業を維持するにはさらなる先進技術の導入などスマート農業化が欠かせない」(西山猛村長)。

更別村の西山猛村長の講演の様子。投影資料は世界トップレベルの農業王国を目指す同村のプロジェクト概要(講演のオンライン画像より)
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 2016年8月の台風10号による大雨は、更別村も含む十勝川水系河川の氾濫や一帯の耕作地が浸水する大規模な被害をもたらした。

 「1カ月以上水が引かない地域もあるなど粗生産額にして約20億円の損害を被った。根腐れ予防の農薬を散布するドローンや、ジャガイモの収穫を短期に行うロボティクスの活用などができれば被害はもっと抑えられたかもしれない。こうした経験から先進技術の利用に伴う規制の緩和や国家戦略特区の指定を目指して国に働きかけてきた」(西山村長)

 技術実装できる大学・企業との連携も拡げてきた。西山村長が特に強調したのは2017年4月、同村に開校した「十勝さらべつ熱中小学校」だ。熱中小学校(関連記事)は、 廃校になった小学校を利活用して大人の学び舎とする全国的な取り組みで、 同村の熱中小学校もその1つだ。2020年7月時点で全国15校、海外1校があり、講師の派遣や情報交換の輪を広げている。

 「同校に村の高校生や社会人、高齢者が集い、IT企業を含む多様な領域の専門家との交流が生まれた。東京大学や北海道大学、帯広畜産大学はじめ、大手の通信事業者、メーカーともつながりができた」(西山村長)

 同校では2018年度からは小麦育種プロジェクト、日本政策金融公庫との包括業務提携に基づく「十勝さらべつ熱中創業塾」、プログラミング・ICTクラブ活動、2019年度からは、ドローンやロボットトラクターをスマート農業に活用する近未来技術実証研究などを進めている。

 「我々が目指すのは、『じいちゃん、ばあちゃんのQOL(生活の質)日本一の村』だ。労働の負荷軽減や生活の足の確保といった課題を様々な高度技術で解決しながら、所得の向上を図る。次の世代を担う孫たちの未来に何を残すか、残せるかを話し合いながら持続可能な豊かな村にしたい。先端技術を実装できる多くの企業とさらに連携していきたい」と西村氏は抱負を語った。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/121100257/