JR中央線沿線の高架下を開発するプロジェクト「中央ラインモール構想」が進みつつある。駅前から回遊ゾーンを広げ、エリア全体の価値向上を目指す。この民間主導のコミュニティ活性化の取り組みは、施設整備から本格的な運用へとフェーズが移りつつある。
駅づくりからまちづくりへ――。東日本旅客鉄道は、JR中央線の三鷹~立川駅高架化により建て替えになった駅舎と、駅と駅との間の区間を、統一したコンセプトで一体的な開発を進めている。「中央ラインモール構想」と名付けられたこのプロジェクトは、駅前だけでく駅間にも賑わいのエリアを広げることで沿線価値を高め、これから少子高齢化時代を迎えて激しくなる地域間競争に備えて先手を打っていこうというものだ。
現場で開発を推進するのは、JR東日本の100%子会社のJR中央ラインモール(東京都小金井市)だ。同社の大澤実紀社長は「駅間の高架下については駐車場、駐輪場やコンテナ倉庫など消極的な利用に留まっていた。これからは、駅から離れた高架下の利用も図り、周辺住民の方に住みやすい・暮らしやすい環境を整えたい」と開発の狙いを説明する。
そもそも、JR中央線の三鷹~立川駅の連続立体交差事業は、1994年に都市計画決定され、1995~2013年度にかけて東京都が事業者となり事業を完了している。事業延長は13.1kmで、6市にわたり18カ所の踏切が解消された。このうち、線路が谷を走る区間などを除いた約9km、約7万m2の空間が、高架下として誕生した。
まちづくりの視点からは、線路があったことで南北に分断されていた街が、高架化によりつながることで、回遊空間がつくられることが期待される。
中央ラインモール構想での駅とつながる商業施設としては、「nonowa(ののわ) 西国分寺」「nonowa 武蔵境」「nonowa 東小金井」が既に開業している。2月19日には「nonowa武蔵小金井」がオープンするほか、「nonowa国立」の計画も進んでいる。東小金井駅と武蔵小金井駅には、改札の前に「コンシェルジュ」を設置し、駅施設や地域のイベント、観光情報などについて案内を行っている。
東西を結ぶ高架下だけでなく、南北軸もつなげる
中央ラインモール構想は、駅前や駅ナカの商業施設だけでなく、高架に沿って開発を広げていく。手始めに、武蔵境駅と東小金井駅の間で東西に延びる高架下に回廊歩行空間「ののみち」を整備した。高架に平行してそれぞれの自治体(武蔵野市と小金井市)が整備する道路に沿って、遊歩道を整備したのである。
そして高架の下にはJR中央ラインモールがコンテナ型店舗を配していった。駅に近いゾーンには弁当店やクリーニング店ど生活利便施設を置き、駅から離れたゾーンにはクリニックや保育所、高齢者向けのジムなどのサービス系の施設を配置している。こうして、駅だけでなく駅間の高架に沿って新たな人の流れを生みだそうというわけだ。
また、周辺地域との結びつきをつくりだすため、高架下をくぐり繋がる南北の軸を重視した仕掛けも用意している。駅間を東西に結ぶ「ののみち」との交差道路脇にはコミュニティガーデン・テラスと名付けた、地域の人たちが休んだり集ったりできる施設を配置し、周辺部を含めた回遊性に配慮した。大澤氏は「既存の駅前商店街や周辺の拠点を含めて、東西だけでなく南北と縦横に面的に回遊を図り、地域の連携を促し、地域らしさがつくりだせれば」と説明する。
こうして新しくできた高架下のカフェには「小さいお子さんを連れたお母さんたちや、年輩の方など、当初考えていた以上に多様な年代の地域の方に利用していただいている」と大澤氏は手応えを口にする。
高架下に地域の回遊拠点、シェアサイクルも
「ののみち」のなかでも、特に新しい試みといえるのが、東小金井駅の西側に整備した「モビリティステーション東小金井」と東側に整備した「コミュニティステーション東小金井」だ。いずれも2014年11月にオープンしたばかりだ。
モビリティステーション東小金井には、交通ICカードSuicaを利用して手軽に貸し出し操作ができるシェアサイクル「Suicle」の貸し出しポートを配置した。その横には地元で人気を得ていたカフェに入居してもらい、地域の回遊拠点とした。貸し出しポートは東京農工大科学博物館前と武蔵境駅近くにも設置してあり、どのポートでも自転車の返却ができる。
「2013年11月のサービス開始からの累計利用は約4500台。まだ採算ベースには乗っているとはいえないが、イベント時の利用などがきっかけとなり徐々に利用が伸びてきている。駅駐輪スペースの混雑解消にも寄与できれば」(大澤氏)
コミュニティステーション東小金井は、リライト(東京都新宿区)に企画・設計から一部リーシング支援や運営までを依頼。もともと地域で活動していたクリエーターなどに工房やショップとして入居してもらった。さらに、イベントスペースを設けたり、朝市などのイベントを開催したりするなどして、地域の人が集まる仕掛けの創出にも取り組んでいる。
地域とのつながりについては「2年前にエリアマガジン『ののわ』を創刊し、情報発信するとともに、地域ライターの発掘などネットワークもできてきた。昨年11月にコミステがオープンし、コミュニティガーデンなどもできたので、リアルな場を使って情報発信に軸足を移していきたいと考えている」(大澤氏)。
地元商店会や行政、住民とも連携
このほか、JR中央ラインモールでは駅ごとに、周辺の商店会や自治会などに商業施設nonowaのテナントも加えた新たな協議会組織を設立し、定期的な情報交換やまちの活性化へ取り組んでいる。地元行政も、例えば小金井市はオブザーバーとして東小金井と武蔵小金井の協議会に参加して緩やかな連携を図る。
小金井市市民部経済課産業振興係の田嶋隆行係長によると、これまでこうした地元商店街の組織に市がオブザーバー参加することは少なかったという。「市の管轄である駅前広場をイベントに提供するなど、まちの活性化につなげてもらえるよう協力している」(田嶋氏)と、具体的な取り組みにも関わった。
高架下には自治体も施設を整備している。高架下はJR東日本の敷地だが、「都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定」に基づいて、面積の15%を行政側で活用することになっている。「市民ニーズの高い駐輪場としての利用のほか、東小金井駅寄りには公設民営のシェアオフィス「東小金井事業創造センター(KO-TO)」を整備した。「まだ詳細は決まっていないが、“市政センター”も整備予定だ」(同市都市整備部都市計画課の林利俊課長補佐兼都市計画係長)。
2015年度には、JR東日本の変電所があるため迂回している区間240mの整備を実施する。これにより武蔵境駅と東小金井駅間の約1.9kmが途切れることなく一本道でつながり、地域の回遊性が一層高まる。
中央ラインモール構想の「沿線価値の総合的な向上」という目標に向けた事業は、この2駅間が完全につながり、春の暖かさで人出も多くなるこれからが、いよいよ「本稼働」ということになる。
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