「地域の受け皿」目指す高架下施設

 こうした当初のコンセプトに沿って、コミステには、地元の作り手5人が集まったショップ「atelier tempo(アトリエ・テンポ)」が誕生した。食堂の「あたらしい日常料理ふじわら」、ペットグッズの「dogdeco HOME」、革小物の「safuji」などが壁で仕切られることなく共存している。ショップに工房が併設されていて作り手にも出会える。さらに、全国のフリーペーパーが閲覧できる「ヒガコプレイス」、カフェ「珈琲や 東小金井工房」も含めて、コンテナ店舗内を自由に行き来できる。アトリエ・テンポの5人は、地域で毎月定期的に行っているマルシェ「はけのおいしい朝市」のメンバーでもあることから、コミステも朝市会場としても使われている。

コミステは、JR東小金井駅から東に向かったJR中央線高架下「ヒガコ東」地区にオープンした(資料:リライト)
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 籾山氏は「人が集まる場のデザインを通して、新しい公共を示していこうというのが、われわれのビジョンです」と語る。それは、建築だけでも、ソフトだけでもなく、都市にまつわる全てのことに関わっていくことを意味するのだという。そのため籾山氏は、マーケティングなどを行うリライト、建築・不動産事業を行うリライトデベロップメント、印刷物・ウェブなどコンテンツのデザインを行うリライトwという3つの会社を立ち上げて、3社が連携してプロジェクトに当たる体制をつくった。マーケティング・コミュニケーション部門ではリライトの酒井博基氏が、建築不動産部門では建築士でもあるリライトデベロップメントの古澤大輔氏が、コンテンツ事業部のリライトwは編集者の井上健太郎氏が、外資系コンサルタント会社出身の籾山氏を支える。

 「中央線沿線ではこれまでも仕事をしていたが、東小金井近辺の土地勘はなかった。しかも計画地は駅施設から距離があることから大きな集客も見込みづらい。最初のうちは本当に人が来るのかと不安も感じたが、東小金井の商店会の夏祭りに参加したところ、若い子育て中のファミリーがたくさん集まっていた。これを見て可能性を感じた」――。リライトの籾山真人代表はコミステの開発当初をこう振り返る。

開業2年前から地域とのつながりを深める

 コミステの開業は2014年11月であるが、準備は2年前の2012年11月から始めた。籾山氏は、コミステの実現に当たって、時間軸のなかでロードマップを設定した。準備期間に「STEP1:種まき期」「STEP2:育成期」の段階を設けた。そして実際に施設整備後の利用が始まってからの「STEP3:刈り取り期」へとつなげる。

 こうした実験的ともいえる取り組みがJR中央ラインモールの事業として成立した背景には、同社の初代社長(前社長)である鈴木幹雄氏の存在も大きかったという。「施設を整備するだけでは、地域の人々に愛着を持って受け入れられるとは限らない。人々のつながり・交流を通じて、はじめて血の通った施設運営が行われるという思いがあった」と籾山氏は当時を振り返る。

 「STEP1:種まき期」では、エリアマガジン「ののわ」を創刊、同名のウェブサイトを立ち上げるなど情報発信するメディアを創り上げた。エリアマガジンの編集長には、地域在住のデザインディレクターを迎え、沿線の魅力を発信してきた。

 次いで「STEP2:育成期」は、沿線在住のクリエーターや文化人などによるトークイベントやワークショップを定期的に開催するなど、地域のアーリーアダプター(新しい潮流を比較的早く受け入れ、他の消費者・ユーザーに影響を与える利用者のこと)が参加できるイベントを開催。ソーシャルメディアの活用や、発掘した市民ライターによる発信力の強化などを仕掛けた。市民ライターには95人が登録し、トークイベントには毎回50人程度が訪れた。

エリアマガジン「ののわ」は毎月3万部発行、三鷹駅~立川駅の5駅構内を中心に周辺地域のお店など150カ所で無料配布していた。2014年末で当初の役割を終えたと判断し休刊(写真:村島 正彦)
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コミステの整備前から、地域の魅力を発見し、暮らし方や働き方を見つめ直すトークセッションを行ってきた。既に10回を数える。毎回、50人ほどの参加がある(写真:JR中央ラインモール)
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 地域の魅力に気付き発見する「巻き込む」時期(STEP1)、次いで、同じような好奇心を持つ仲間と出会う「つながる」時期(STEP2)を設けることで、このプロジェクトの目指す地域連携拠点としてのコミステの基盤を作り上げてきた。ここまでの期間は「地元で活動する作り手たちにここで開業してもらうための準備期間としても有効だった」と籾山氏は打ち明ける。

 運営面でも工夫をこらしている。東小金井駅~武蔵境駅間の高架沿道は、JRの送電施設があり道路が一部開通しておらず、2015年度中を予定している全面開通までは十分な人通りが見込めない。資金力に乏しい地元の小規模な作り手やクリエーターの参画にも配慮して、JR中央ラインモールでは段階家賃を設定した。