地元の飲食店や雑貨店が入居するコンテナの店舗が並び、店先の路地や店内では「朝市」が開かれており近所の人々で賑わう。――JR中央線の東小金井駅(東京都小金井市)から高架に沿って200mほど東に位置するコンテナを活用した店舗群「コミュニティステーション東小金井」はそんな施設だ。2014年11月にオープンした。

2015年2月1日に「コミュニティステーション東小金井」(コミステ)で開催された「はけのおいしい朝市」の様子。冬は寒いので店舗内がメーン会場となる(写真:加藤 康)
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 JR中央線三鷹駅~立川駅間の13.1kmの連続立体交差事業(連立事業)は、東京都が事業主体となって進められ、2010年11月に完成した。連立事業は、6市にわたり18カ所の踏切を立体交差化することで、交通の安全確保及び渋滞の解消を行った。連立事業によって生み出された高架下空間については、このうち利用可能な延長約9km、約7万m2について、JR東日本の100%子会社、JR中央ラインモールが活用を図っている。

 従来から進めてきた駅を拠点とする商業施設開発から一歩踏み出して、JR東日本では、沿線価値を高めていくために高架下スペースに着目し、活用を始めたのである。

 JR東小金井駅から東に約200m、コミュニティステーション東小金井(以下、コミステ)は、JR中央ラインモールから依頼を受けてリライト(東京都新宿区)が、企画立案、事業計画、リーシング支援までを行った高架下のコンテナ施設だ。

 コンセプトは「人が集まるオープンスペース」。街の魅力に出会える場所、同じ関心を持った仲間に出会える場所ということを念頭に置いた。リライトの籾山真人代表は、「地域の人の受け皿となるようなコミュニティステーションをつくりだすことを目指した」と説明する。

コミュニティステーション東小金井。JR中央線高架下に、コンテナを利用した店舗が並ぶ。施設全体のファサードとして遊歩道との境界に白い鉄骨フレームを設けた。セットバックした店舗とフレームとの間に路地空間を生み出している(写真:加藤 康)
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「地域の受け皿」目指す高架下施設

 こうした当初のコンセプトに沿って、コミステには、地元の作り手5人が集まったショップ「atelier tempo(アトリエ・テンポ)」が誕生した。食堂の「あたらしい日常料理ふじわら」、ペットグッズの「dogdeco HOME」、革小物の「safuji」などが壁で仕切られることなく共存している。ショップに工房が併設されていて作り手にも出会える。さらに、全国のフリーペーパーが閲覧できる「ヒガコプレイス」、カフェ「珈琲や 東小金井工房」も含めて、コンテナ店舗内を自由に行き来できる。アトリエ・テンポの5人は、地域で毎月定期的に行っているマルシェ「はけのおいしい朝市」のメンバーでもあることから、コミステも朝市会場としても使われている。

コミステは、JR東小金井駅から東に向かったJR中央線高架下「ヒガコ東」地区にオープンした(資料:リライト)
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 籾山氏は「人が集まる場のデザインを通して、新しい公共を示していこうというのが、われわれのビジョンです」と語る。それは、建築だけでも、ソフトだけでもなく、都市にまつわる全てのことに関わっていくことを意味するのだという。そのため籾山氏は、マーケティングなどを行うリライト、建築・不動産事業を行うリライトデベロップメント、印刷物・ウェブなどコンテンツのデザインを行うリライトwという3つの会社を立ち上げて、3社が連携してプロジェクトに当たる体制をつくった。マーケティング・コミュニケーション部門ではリライトの酒井博基氏が、建築不動産部門では建築士でもあるリライトデベロップメントの古澤大輔氏が、コンテンツ事業部のリライトwは編集者の井上健太郎氏が、外資系コンサルタント会社出身の籾山氏を支える。

 「中央線沿線ではこれまでも仕事をしていたが、東小金井近辺の土地勘はなかった。しかも計画地は駅施設から距離があることから大きな集客も見込みづらい。最初のうちは本当に人が来るのかと不安も感じたが、東小金井の商店会の夏祭りに参加したところ、若い子育て中のファミリーがたくさん集まっていた。これを見て可能性を感じた」――。リライトの籾山真人代表はコミステの開発当初をこう振り返る。

開業2年前から地域とのつながりを深める

 コミステの開業は2014年11月であるが、準備は2年前の2012年11月から始めた。籾山氏は、コミステの実現に当たって、時間軸のなかでロードマップを設定した。準備期間に「STEP1:種まき期」「STEP2:育成期」の段階を設けた。そして実際に施設整備後の利用が始まってからの「STEP3:刈り取り期」へとつなげる。

 こうした実験的ともいえる取り組みがJR中央ラインモールの事業として成立した背景には、同社の初代社長(前社長)である鈴木幹雄氏の存在も大きかったという。「施設を整備するだけでは、地域の人々に愛着を持って受け入れられるとは限らない。人々のつながり・交流を通じて、はじめて血の通った施設運営が行われるという思いがあった」と籾山氏は当時を振り返る。

 「STEP1:種まき期」では、エリアマガジン「ののわ」を創刊、同名のウェブサイトを立ち上げるなど情報発信するメディアを創り上げた。エリアマガジンの編集長には、地域在住のデザインディレクターを迎え、沿線の魅力を発信してきた。

 次いで「STEP2:育成期」は、沿線在住のクリエーターや文化人などによるトークイベントやワークショップを定期的に開催するなど、地域のアーリーアダプター(新しい潮流を比較的早く受け入れ、他の消費者・ユーザーに影響を与える利用者のこと)が参加できるイベントを開催。ソーシャルメディアの活用や、発掘した市民ライターによる発信力の強化などを仕掛けた。市民ライターには95人が登録し、トークイベントには毎回50人程度が訪れた。

エリアマガジン「ののわ」は毎月3万部発行、三鷹駅~立川駅の5駅構内を中心に周辺地域のお店など150カ所で無料配布していた。2014年末で当初の役割を終えたと判断し休刊(写真:村島 正彦)
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コミステの整備前から、地域の魅力を発見し、暮らし方や働き方を見つめ直すトークセッションを行ってきた。既に10回を数える。毎回、50人ほどの参加がある(写真:JR中央ラインモール)
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 地域の魅力に気付き発見する「巻き込む」時期(STEP1)、次いで、同じような好奇心を持つ仲間と出会う「つながる」時期(STEP2)を設けることで、このプロジェクトの目指す地域連携拠点としてのコミステの基盤を作り上げてきた。ここまでの期間は「地元で活動する作り手たちにここで開業してもらうための準備期間としても有効だった」と籾山氏は打ち明ける。

 運営面でも工夫をこらしている。東小金井駅~武蔵境駅間の高架沿道は、JRの送電施設があり道路が一部開通しておらず、2015年度中を予定している全面開通までは十分な人通りが見込めない。資金力に乏しい地元の小規模な作り手やクリエーターの参画にも配慮して、JR中央ラインモールでは段階家賃を設定した。

コンテナと外構鉄骨フレームでローコスト化

 コミステの施設計画については、リライトデベロップメントの古澤氏に聞いた。「まずコストを抑えるために、建物本体はコンテナとし、中国の工場で下地まで作ったうえで現場に持ち込んだ。また鉄道高架を屋根として捉え、コンテナ位置を高架端部から後方へ引いて、白い鉄骨フレームを高架端部の下に組んでコンテナとの間に雨に濡れずに利用できる路地空間・広場を作りだした。高架下と建物の間に空間を設けることで、向こう側の空が見える明るい開放的な場とした」と基本構成を説明する。

 コンテナの構造は鉄骨造の純ラーメンとしたこと、鉄骨フレームのファサードは、住宅の塀や門扉と同様に外構扱いで建築確認を要しないことから、コストや工程管理の調整が容易だった。設計施工段階には、入居予定のテナントやクリエーターの希望も聞きながら調整を行った。

コミュニティステーション東小金井の配置平面図(資料:リライトデベロップメント)
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コミュニティステーション東小金井の構成。店舗などの建築はコンテナで構成した。路地空間を介し、コミステ施設全体の顔となるファサードは鉄骨フレームで、構造としては縁を切った(資料:リライトデベロップメント)
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広場からコミュニティステーションを見る。高架が屋根となり高架下全体が半室内のような空間を形成する(写真:加藤 康)
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コンテナ店舗を遊歩道からあえてセットバックして路地空間を生み出した。白い鉄骨フレームは、遊歩道と路地空間をゆるやかに区切るとともに、ファサードにリズムをつくり出している(写真:加藤 康)
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路地空間や広場で用いるテーブルや椅子はコミュニティステーションの備品として備えている。これから暖かくなるともっと活用されそうだ(写真:加藤 康)
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地域活動から生まれる新しい公共のかたち

 そしていよいよ、オープンした活動の場であるコミステを通じて「動く」こと、つまり「STEP3:刈り取り期」の段階に入った。

 リライトは、コミステのおよそ半分の区画についてJR中央ラインモールと直接賃貸借契約を結び、クリエーターなどの5人の小規模事業者が入る「アトリエ・テンポ」や、全国のフリーペーパーを集めたライブラリーを併設した企画展示スペース「ヒガコプレイス」の運用などを行う。

右:リライトの籾山真人代表、左:リライトデベロップメントの古澤大輔氏。コミステに入居する「ヒガコプレイス」で撮影(写真:編集部)
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 コミステは商業施設でもあるが、地域に向けたコミュニティスペースとしての役割を果たすことも目指している。籾山氏は「アトリエ・テンポの運営だけでなく、店舗をセットバックしてつくった路地空間やコミステ内にあるカフェ東側の広場も使って、地域と連携したイベントを開催していく。開業からまだ3カ月余りだが、コミステへの人の流れも徐々にできてきた。これから暖かくなる春、夏に向けてイベントなど積極的に行い、地域の人たちに訪れてもらえるような存在になりたい」と語る。

 当面は籾山氏らの企画に沿って「朝市」や、これからのライフスタイルを考える「トークセッション」や、アートプロジェクトを行う。「こうした活動のなかで、われわれの考えるパブリックな空間、地域活動から生まれる新しい公共のかたちをつくりあげていければ」と語る。

 コミステなどを配した中央ラインモールの開発の場合、早い時期から駅間施設に関する情報発信を開始し、完成後は施設を拠点の一つとして人やコミュニティを育て、エリアの活性化を図っていく。駅周辺の情報発信を多様化させながら地域と連携してくというモデルだ。下図は、地域連携の様子を従来の駅ビル開発と比較した概念図だ。

駅ビル開発と高架下開発の地域へのアプローチの比較(資料:リライトの資料をもとに一部加工)
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 中央線沿線の高架下という特殊条件だから成立するのでは、という問いには、籾山氏はこう答える。

 「中央線は古くからの住民がいて、地域への愛着がある人が多い。こうした地域なら、今回のようなエリアマガジンやウェブなどのメディアと地域イベントを絡ませる手法は使えるのではないか。一方、新興住宅街や、例えば港区などのような都心部では、やり方を変えていく必要がある」

 「コミステのような、メディアだけ、建物だけでなく、両者をミックスしたパブリックな性質を持つ民間の施設の運営を今後も手掛けていきたい」と籾山氏は語る。さらに公共施設そのものの運営への進出も視野に入れている。「例えば公民館などのリノベーションと使い方の提案をして、我々が管理運営をしていくことも十分あり得るモデルだと思う。公共施設でも、地域の人々が自発的に取り組み、自分たちの地域を創り上げる活動につなげていければ理想的だ」(籾山氏)と意気込む。

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