人口3万4000人弱の町の駅前施設に年間80万人超の人が集まる。岩手県紫波町のオガールプロジェクトの構想を描いた中心人物が、オガールプラザおよびオガールベース代表取締役の岡崎正信氏だ。「消費を目的としない人を集める」「補助金に頼らない」という従来の常識からかけ離れたまちづくりのコンセプトが生まれた背景を聞いた。
――オガールプロジェクトで、まず最初に「消費を目的としない人」を集めようとした理由を教えてください。
人口減少の局面で、商業を中心に据えた中心市街地活性化や区画整理はうまくいかないという確信があったからです。人が減っていく時代に、再開発ビルをつくって、床をつくって、商業施設をつくって……。そんなことばかりしていったら床で稼げる単価がどんどん下がっていくのは明らかです。
まちづくりというのは、不動産の価値を上げることです。けれど、商業を中心とする手法は人口増を前提としているので効果が出ないんです。
それともう一つ、商業による集客というのは普遍的な集客でありません。このことは誰もが分かっているはずのに、誰も言いません。
紫波町に住んでいる人たちは、平気で、何のためらいもなく盛岡に買い物に行きます。もっと言えば、アマゾンで買うわけです。「地元の駅前だから買おう」なんてことは、基本的にはないんです。地方の小売店がアマゾンと戦って勝てるわけないじゃないですか。小売りは本当に厳しい状況だと思います。
けれど、マーケットが大きくならなければ不動産の価値は上がらない。それも確かです。では、マーケットは何によってつくられるかというと、それは「人気」です。そのために何をするのかを考えた結果、まず普遍的な集客装置、つまり、どんな時代になっても必ずここに人が集まるという仕掛けをつくろうと思ったんです。
普遍的な集客装置とは、消費を目的としないパブリックな場のことです。そこで最初に、紫波町には図書館と役場庁舎の設置・移転をお願いしました。足りない部分は我々が営業活動をして、岩手県フットボールセンターというスポーツコンテンツを誘致しました。紫波町の人口の約10倍の30万人、消費を目的にしない人を呼び寄せることを目標としました。
普遍的な集客装置をつくって人が集まれば、おのずとカフェ、居酒屋、ギャラリー、ショップなどのサービス業がそこに投資をするはずです。商業やサービス産業が生まれてくれば、おもしろい人や訪問者が増え、エリアにお金が落ちる。そして地域の不動産価値が上がっていく。そんな循環を意識しました。
「稼ぐ施設」で持続的な公共サービスを
――図書館という施設は、どの都市でもそれなりに大きな集客力を持っている公共施設ですよね。
大事なのは、どこにでもあるような図書館ではだめだ、ということです。従来のような図書館には、用事がある人しか来ません。それでは周りに投資なんて絶対に起きないわけですよ。駅前にそんな施設をつくっても衰退するだけです。だから私は「紫波町の責任で人が来る図書館を企画してくれ」と町に要望しました。
そもそもオガールプロジェクトは何のためにやっているのかというと、「雇用と産業をきちんとつくりましょう」ということなんです。しかも従来のような工業団地をつくって企業を誘致して雇用を生もうという発想じゃなくて、都市生活者の方々のために都市的な暮らしを提供することで雇用を生んでいきましょう、と。要は、ここに住んでよかったと思えるような街をつくって、そこで雇用を生んでいきましょうという発想です。
だから図書館もビジネス支援というコンセプトを持っています。紫波町のビジネスは何かといえば、農業です。人口の25%くらいが農家なので、農業がもっと元気になれば紫波町は元気になります。紫波の図書館はレファレンス機能の充実と、あと蔵書については農業というカテゴリーをすごく多くしていて、ここで農家をやりたい、農業を営みたいという人に対して積極的にビジネス支援をしていくという方針を打ち出しています。
――ビジネス支援に加えて、図書館ではBGMを流したり、飲料を持ち込めるゾーンを設けたりと親しみやすい雰囲気を演出しています。キッチンスタジオや音楽スタジオもあって、いわゆる「本好きの人」だけを意識した施設ではないことが感じ取れます。
スタジオなどを備える地域交流センターと図書館を一体化して「情報交流館」として運営しています。ここでは「サタスト」というイベントが毎週土曜日の夕方に行われていて、地元バンドのライブハウスと化してますよ。
オガールプラザという建物の主たるコンテンツは図書館なんです。こうして図書館にいろんな人が集まって、そのことがテナントの利益につながって、そして我々にきちんとテナント料が入ることで、地代と固定資産税が紫波町に支払われるという循環ができてくるわけです。

そもそも図書館というのは、非採算で、しかも維持費の高い公共事業です。だから町の財政が危うくなったときには真っ先に閉鎖が検討される。だからこそ、「稼ぐ」という発想を持って取り組まなくてはいけないんです。
――人口が減り、自治体の財政も厳しい。そうした中で住民ニーズの高い図書館をどうやって持続的に運営していくか。紫波町に限らず重要な問題です。
従来の自治体が考える箱物の再整理は、2種類しか選択肢がありませんでした。「つぶす」と「合わせる」の2つです。要するにリストラです。民間からは、この2つに加えて「稼ぐ」という発想が出てくるんです。そうすることによって、持続的に低コストで図書館サービスを提供できるようになります。
コストを削ってもダサくしたらダメ
――だからこそ、民間の商業施設部分にはシビアな事業計画が求められるわけですね。
「絶対家賃」と我々は呼んでいるんですが、オガールプラザに入居する9テナントが払ってくれる賃料は、誰が何と言おうと変えられない数字なんです。一方で、出資してくれる民間都市開発推進機構(MINTO機構)からは10年以内に配当を出せという条件が、融資してくれる東北銀行からは10年間で返済を完了するという条件が出たわけです。この絶対家賃をベースにして、金融機関のこの厳しい条件をクリアして稼ぐためにはどうすればいいか。答えは一つで、投資額を下げるしかない。
オガールプラザを木造にしたのも、コストが安く償却期間も圧縮できる木造建築でなければ、10年以内に配当を出すことができなかったからです。木の雰囲気を生かした意匠や環境配慮といったことは目的ではありませんでした。
一言で言うと面倒くさい仕事です。今までまちづくりの世界では、面倒くさいからみんな補助金を取りに行っていたわけですよ。でも我々は決めたんです。補助金をもらった結果として事業計画が甘くなり、地方にとって過大なものをつくってしまうようなことはやめよう、と。
過大なものをつくって空き家だらけのビルになってしまったら、新たな投資は呼び込めません。誰しも空き家ばかりの街に家を建てて住みたいと思いませんよね。それと一緒です。
――コストは削りましたが、デザインは重視しています。
一番の訴求ポイントはデザインです。まず最初に専門家を呼んで「紫波町オガール・デザイン会議」をつくり、オガール地区のデザインガイドラインを定めました。紫波町を中心とした半径30km内には、60万人の人が住んでいます。この都市圏の中で「やっぱりあそこに行ってみたいよね」と思われるような場所をつくらなくてはいけない。ダサいところには人は集まってこないし、住みたいとも思ってくれません。
――そういえば、情報交流館には、会議室(スタジオ)があったり、いろいろな講座が開かれていたりと、いわゆる「公民館」的な機能もあると思いますが、空間のイメージは公民館とは全然違います。
情報交流館には音楽スタジオがあって、そこに軽音楽部が夕方から来て練習をしたりとか、真っ昼間はおやじバンドが来てエレキギターをガンガン鳴らしたりとかしています。そういうことは公民館では起こらないでしょう? いろいろな人が集まってくるのは、ダサいものをつくらなかったからですよ。
――まちづくりにおいて、「ダサいのはダメ」という指摘は重要な論点の一つかもしれません。今日はありがとうございました。
オガールプラザ代表取締役/オガールベース代表取締役
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