東京がアジアの中心になれば人口減少は怖くない

──星野さんは、これからの100年にどんなビジョンをお持ちですか。

星野 今後の100年で最も大きな影響があるのは、私は人口減少だと思っています。東京は、過去100年で良いものを壊したかもしれませんが、何だかんだ言っても日本の中心でした。しかし、このまま日本の中心にいるだけでは、人口減少に転じたときのインパクトが非常に大きい。事業者としては怖さがあります。やっぱり、会社をグローバル化させなくてはいけないという発想になる。

 ですから私が東京に期待するのは、日本の中心からアジアの中心に舵を切れないかということなんです。アジアの中心になるためには、マルチナショナルな都市にならなければいけないと思っています。

 そこにはすごくマイナスの面もあるでしょう。テロや失業、それに伴う排他的な動きなども出てくるかもしれない。それらを乗り越えて、東京がアジアの中心になるという“覚悟”を持てないだろうか。もし持つことができれば、(グローバル化するより)この国でしっかり事業をする方がいいかもしれないと思えてきますよね。

東京・大手町で、超高層オフィスビルに囲まれた日本旅館「星のや東京」外観

東京・大手町で、超高層オフィスビルに囲まれた日本旅館「星のや東京」が2016年7月にオープンした。上の写真は外観、下の写真は客室。客室は畳敷きだが、床に座らずに過ごせるように低い椅子を備えている。“現代の都心における高級旅館”という新たな宿泊施設のカテゴリーを星野リゾートが生み出した。東京を出発点に、海外都市での展開を目指す(写真=吉田 誠)

東京・大手町で、超高層オフィスビルに囲まれた日本旅館「星のや東京」客室

──そのときに、東京はアジアの勢いのある都市に勝てますか。

星野 北京や上海というのは、ネットの規制であるとか意外に閉鎖的なところがあります。こうしたことは東京に有利に働くはずだと思うんです。私は、一番の強敵はシンガポールだと思っています。税金が低いということで人が集まってきている。ただ、私の友人の事業者で税金のためにシンガポールに引っ越した人もいるんですが、帰ってくる人も結構います。なぜかというと、自然がないって言うんですね。

 東京のすごさとして、背景に自然があるということがいえますが、実は背景の自然というのは、都内の自然だけではないと僕は思っています。長野や東北に新幹線でサッと行けたり、伊豆に行くと温泉があったり、海の幸がめちゃくちゃ美味しい千葉県があったり──。つまり、シンガポールという競合にもできないことが、我々にはできるということです。

 そう考えると、東京を特区として捉えて、「アジアの中心になることを目指すぞ」という発想になれば、私は人口減少が怖くなくなるんです。

山村 ベトナムのハノイや、フィリピンのマニラなどで、日本のような都市鉄道交通体系をつくりたいという希望は多いですし、私自身の経験からは、アジアの国々の日本に対する心理的な抵抗感は小さいと思います。

 我々の事業としては、今、銀座線のリニューアルや日比谷線虎ノ門新駅(仮称)の整備といった大きなプロジェクトが進行中です。こうした事業を通じて、交通の利便性を高めるだけでなく、そこで新しい経験が得られるような場を提供しようとしています。東京における豊かなアジアの交流拠点にもなっていけると思っています。

田中 実は、大学もアジアや世界を見ています。法政大学は「スーパーグローバル大学」に選定されていますが、つまりは「世界の大学になる」と宣言しているわけです。今の日本の主要な大学は、既にそういう意識を持っていますし、日本語ができない留学生もどんどん受け入れています。

 ただ、世界から若者が集まってきたとき、単に大学に通っておしまいではなく、東京の魅力をしっかり伝えることが大切だと思います。さらに、東京にいるからこそ日本の各地の素晴らしさが分かるような仕組みを、もっとつくっていく必要があると思うんです。そして、アジアから多くの大学生がやって来ることによって、やがて彼らが東京を、日本を活用するようになる。そういうことを考えると、確かに少子化は怖くありません。

安達 功 日経BP総研 副所長 同・社会インフラ研究所長

安達 功

日経BP総研 副所長
同・社会インフラ研究所長

Impressions
「魅力」と「もてなし」で世界から新たな需要を呼び込む

 刺激的な座談会でした。第一線の専門家が交わり合い、異なる専門領域の知見をぶつけ合うことで化学反応が起こり、斬新なキーワードがあふれ出てきました。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を契機に、東京は大きく変容しようとしています。さらにその先の100年、東京はどのように変わっていくべきなのか―。過去の振り返りを補助線に未来を見通すことで、道程が浮かび上がってきました。

 今後の東京を考えるうえで必要なキーワードとして、江戸システムの再評価、集積によるホットスポット化、インフラ複合化などの言葉が出てきました。民間のフロンティアスピリッツ活用は不可欠であり、これからのインフラは、東京の魅力を伝える案内役として「コト運び」も担う存在になっていきます。

 これまでの100年は、いわば「開発と利権」をエンジンにして需要を消費する時代でした。しかし、少子化や人口減少によって需要が減じていくこれからの100年は、「魅力」と「もてなし」で世界から需要を呼び込む時代になります。縮小する未来に戦々恐々とするのではなく、アジア、そして世界の需要を呼び込む視点を持てば、新しい未来像を描くことができます。

 一方で、それは東京が新たな都市間競争にさらされ、差別化が問われることも意味します。たやすくはありませんが、大きな旗を掲げ、各分野の知を集めれば不可能ではありません。それが未知のつながりから飛躍を生む共創型オープンイノベーションの力です。今回の座談会からも共創の力を垣間見ることができたのではないかと思います。

 今回の特別座談会では、誌面に収録し切れなかった魅力的なやり取りも多々ありました。個人的には、東京の次の100年を考えるキーワードとして田中優子法政大学総長が挙げた「包摂(ほうせつ)」という言葉が印象に残っています。境界領域を曖昧にして、社会が包容力を持って外部環境の存在を取り込む、といった意味合いですが、田中氏はこの言葉を「抱きしめること」と素敵な意訳をしてくれました。

 日本の首都・東京は、世界でもトップレベルの治安の良さ、医療体制、公共交通網などを誇る一方、これからさらに進む高齢化、世界の中での都市間競争、首都直下型地震への備えなど、乗り越えるべき多くの課題に直面します。社会システムを構築・運用する側にも受容力や寛容さ、何よりまずはやってみようというチャレンジ精神が求められます。