これからの東京に必要なのは技術と世の中をつなぐ人材

望月 ちょっと話題を変えます。いろいろな人が世界中から集まってくるとなったときに、テクノロジーの進化は東京という都市にどんな影響を与えるのか。以前は、テクノロジーの進化とビジネスとの距離は、すごく遠かった。いくらテクノロジーが進化したところで、ビジネスは従来通り回っているという感覚でした。

 ところが最近、テクノロジーが指数関数的に進歩しているように、ビジネスも指数関数的に変わり始めたのではないかと感じています。例えば自動翻訳。東京の弱点の一つである「言語の壁」は、東京オリンピック・パラリンピック(以下、オリパラ)が開催される頃には相当解消されています。10年後というスピード感ではもうない。なぜなら、AIスピーカー(*2)によって、みんながしゃべる言葉が全部データ化されるから。このデータが増えれば増えるほど、一気にAIの学習が進みます。

 それと、AIの典型的な出口として、自動運転があります。自動運転車が普及すると、街自体が変わっていく可能性がある。まず信号がいらなくなります。

徳永 太郎 日経BP総研 ビジョナリー経営研究所長

徳永 太郎(とくなが・たろう)

日経BP総研 ビジョナリー経営研究所長
不動産流動化・賃貸オフィスマーケット分析や都市開発、ワークスタイル変革などの分野に関する調査・分析、講演活動の実績多数。ワークプレイスの生産性向上に関する研究会などにも参加

徳永 一方で、自動翻訳や自動運転車が普及する頃には、仕事のやり方も変わっているかもしれません。将来、仕事で通勤する必要があるのかも分からないですし。

河井 「技術の進化で街が変わる」ということよりも、「技術によって街をどうつくるか」を考えないと、「東京じゃなくてもいいよね」という話になっていく。

安達 そのときに、例えばキンシャサ(コンゴ民主共和国)やラホール(パキスタン)といった新しい都市の方が、東京よりも新しいテクノロジーを実装しやすい。ゼロからつくるのと、既にあるところを変えるのとを比べれば、やはり後者の方が難しいですから。

 Uberが分かりやすい例で、日本の場合、規制を変えるための議論をここ2〜3年ほどずっとしていて、いまだにUberは本来の形でのサービスを提供できていません(*3)

望月 テクノロジーを取り込んでイノベーションを起こすと同時に、規制緩和やルールの変更などが必要になってきます。つまり、国や自治体が変わっていかなくてはいけない。

河井 保博 日経BP総研 クリーンテック研究所長

河井 保博(かわい・やすひろ)

日経BP総研 クリーンテック研究所長
センサーネットワーク、オープンデータ/ビッグデータなどICTの観点から、世界のスマートコミュニティを調査・分析・提言する活動実績多数。スマートな社会を支えるビジネスづくりを考える研究会も推進

河井 NECは米国のワシントン・ダレス空港で顔認証の実証実験をしているし、ホンダは渋滞緩和に向けた実証実験をベトナムで行っている。日本ではハードルが多過ぎるからです。

徳永 新しくスクラッチでつくる都市と同じことができるぐらいまで規制を緩和していくということを、国や自治体は考えなくていけないでしょうね。

安達 社会システムを運用する側の受容性、寛容さみたいなものが求められてくる。それとチャレンジ精神。

河井 都市に人を集めるためには、エンタテインメントでちょっと違った体験ができるようにすることも大切だという話を冒頭でしましたが、規制緩和の必要性はこの点にも通じる話です。例えば、渋谷のスクランブル交差点で車を止めてイベントができるようになったりしていますが、ああいったことをもっとやれるようにしていきたいですよね。

徳永 特区はそのための実験場であるわけです。せめて特区ぐらいはそれをやらないと話にならない。

安達 オリパラの開催はチャンスです。開催に合わせて、特区を活用しながら東京をショーケースにしていかないと。見本市として世界に東京全体をお披露目する場なんて、ほかにはなかなかありませんから。

河井 そこで何をお披露目するのかが重要になってきますよね。だから、大事なのはテクノロジーじゃないような気がするんです。テクノロジーは手段であって、結局、それを誰がどう使って、どういう街をつくるかを考える人がいないと。東京の未来を本当に考えるなら、まずそれを考える人が必要になってきます。

安達 特に、テクノロジーの導入は費用対効果の判断が微妙です。コンピュータの処理能力はどんどん上がっていくので、今やるのと1年後、2年後にやるのとではコストが大きく違ってくる。

望月 つまり、制度設計をするのは、10年先にテクノロジーがどうなっていくのかを理解していて、一方で、どうしたら世の中が動くのかということが分かっている人。そして、その両者をつないでいくことができる人じゃないとだめということです。

河井 そのときに、強引にグイグイ引っ張っていく人。「いいね」「お金が生まれそうだよね」と思わせることができたら、みんながついていきます。

徳永 オランダのアムステルダムに「THNK(シンク)」という組織があります。インターナショナル・スクールやシンクタンク、インキュベーターといった機能を併せ持つ官民連携の事業体なのですが、ここでは、大きな社会問題を創造的に解決するイノベーション人材を「クリエーティブ・リーダー」と呼び、育成するプログラムを持っています(*4)

望月 求められるのは、ビジョナリストとアーキテクトの資質を兼ね備えたリーダーということですよね。

河井 東京は、そういう人が競って集まる場にならないといけませんね。

*2 [AIスピーカー]

対話型の音声操作に対応したAIアシスタントを搭載したスピーカー。スマート・スピーカーとも呼ばれる。パソコンやスマートフォンのキーボードやタッチパネルを介することなく、話しかけるだけで、質問への回答や音楽の再生、ニュースの読み上げ、タイマーやアラームのセット、部屋の照明のコントロールなどができる。

Amazon echo(アマゾン・エコー)

先行して普及が広がる米国で最も販売実績があるAIスピーカー「Amazon echo(アマゾン・エコー)」(写真:アマゾンジャパン)

*3 [Uberの日本での取り組み例]

2015年2月に福岡市で開始した相乗り(ライドシェア)サービスの実証実験(産学連携機構九州と提携して実施)を、国土交通省の指導により3月に中止。16年2月には、富山県南砺市がUberと市民ドライバーの自家用車による無料送迎の実証実験を行うと発表したが、バスやタクシーの事業者との議論不足を理由に見送りに。京都府京丹後市では、Uberの仕組みを使って移動弱者救済のための有償輸送「ささえ合い交通」を展開している。ただし、「公共交通空白地有償運送」の枠組みで実施しているため、乗車は丹後町のみ、降車は京丹後市全体という条件付きだ。

「ささえ合い交通」に登録した自動車(写真:元田光一)

「ささえ合い交通」に登録した自動車(写真:元田光一)

*4 [THNK]

2010年設立。スタッフ、教員、参加者はこれまでに50カ国以上におよぶ。バンクーバーとリスボンにも拠点を持つ。

THNKのウェブサイト(https://www.thnk.org/)

THNKのウェブサイト
https://www.thnk.org/)