「バーチャル東京」で世界から知恵を集める

望月 今、オリパラを機に東京をショーケースに、という話が出ました。そのときの東京の強みは何か。何を見せていくべきなのか。

 東京の規模だと、小さな都市のように「医療」や「特産品」といった特徴を強調しての一点突破は難しい。そうなると、メガシティにおける課題解決のために、「10万人、100万人規模でイノベーションを実証できるような都市になっていく」という方向が一つあると思うのですが。

安達 功 日経BP総研 副所長 同 社会インフラ研究所長

安達 功(あだち・いさお)

日経BP総研 副所長 同 社会インフラ研究所長
国土交通省住宅産業ビジョン研究会委員、住宅省エネシステム検討委員会協力委員など政府委員多数。著書に『東日本大震災の教訓 震災に強い家』『家を動かせ! 眠れる5800万戸のストックを宝に変える9つの法則』など

安達 社会システムやインフラは、基本的にリアルなもの、フィジカルなものを前提にこれまでは考えられてきました。これからは、実装前まではバーチャルで相当いろいろなことができるようになるということを前提に考えていった方がいいと思います。

 実際、シンガポールでは「バーチャル・シンガポール」と名付けたプロジェクトが進んでいます(*5)。シンガポールの全土の情報を3Dデータとして取り込んで、そこの中で例えば工事のシミュレーションや、自動運転車が普及したときの交通シミュレーションができるというものです。

河井 デジタルツイン(*6)を都市レベルでやっている。

徳永 今、東京は世界一の人口集積都市で、高齢化が進んでいて—。要するに課題として解決しなければいけない問題が非常に多い。いわゆる「課題先進都市」です。だからこそ、世界に先駆けてその課題解決に取り掛かれる。

 これまではそれをリアルの場で解決しようとしてきましたが、これからはモデル化した世界でシミュレーションをして、それをリアルの場に持っていく方が、コストも時間も掛からないということになっていくと思います。

望月 「バーチャル東京」を今からでもつくるべきだ、と。

河井 ただ、シンガポールと違って、今の東京はステークホルダーが多過ぎてデータを集めるのが難しいのが実情です。最初から東京全体で、というのは無理かもしれない。けれど、それをつくらないと、テクノロジーは集まってきません。

望月 そうなんです。誰かが「やるぞ」と宣言すれば、ツールは集まってくる。すると、人も集まってくる。「どうなりたい」ということを誰かが示して、そこに放っておいてもテクノロジーが集まってくるような流れにしていかないと。

 我々は今、ちょうど「やるかやらないか」という分かれ目にいる。シンガポールはやる方を選んだということです。

 では、東京はどういう宣言をするのか。どんなポジションを取るのか。それをどう決めるかによって、世界中から英知を集められるかどうかが決まってきます。

徳永 1つ付け加えるとすれば、これはテクノロジーだけの話ではないということです。

 例えば、東京の道路の渋滞問題は全然解決していない。そんな中で、いかに効率的に人が移動できるかを考えていこうとすれば、そこでは自動運転技術のようなテクノロジーの話だけでなく、シェアリングエコノミーのような経済の話も必要です。

 そうしたときに、「バーチャル東京」みたいなものがあったら、きっとそこに集まってくる人は、いわゆる技術者だけではなく、経営者も来るし、自治体も来るということになるはずです。

望月 まさに、街自体をオープンイノベーションに基づいてつくり上げていこう、ということですね。

*5 [バーチャル・シンガポール]

シンガポール全土の地形や建物の3次元のモデルを構築し、そこに自治体の各システムや街中の様々なセンサーから送られてくるデータを連携させる、「国土まるごと3D化」ともいうべきプラットフォーム。シンガポールの政府機関、国立研究財団 (NRF)が主導してプロジェクトを進めている。公共交通や電力などのインフラ管理、災害対策、衛生管理、環境保護などに関する政策立案・実行に必要なシミュレーションや分析を行うことができる。政府だけでなく、企業や市民の利用も想定している。2018年完成予定。

バーチャル・シンガポールの画面例(資料:ダッソー・システムズ)

バーチャル・シンガポールの画面例(資料:ダッソー・システムズ)

バーチャル・シンガポールの画面例(資料:ダッソー・システムズ)

*6 [デジタルツイン]

主に製造業で始まった取り組みで、リアルなものと同じ動きをする「双子」をデジタル空間に再現すること。ある条件下で何が起こるかをシミュレートしたり、過去に起こった出来事を再現したりできる。これにより、効率的な運用・保守が可能になる。機器だけでなく、交通状況、都市なども対象にできる。