日本最大規模の「駅デザインコンペ」

 リニューアルのもう一つの目玉は、全駅の改装である。東京メトロは外部から広くアイデアを募集する「駅デザインコンペ」を、2012年12月から17年2月にかけて実施。コンペは全線を5つのエリアに分け、エリアごとに計5回行った。コンペの募集要項には「望ましい経験ができること」という一文を加え、リニューアルの意図やコンセプトが維持されるように工夫した。

 応募されたコンペ作品の総数は、海外作品も含め約700点に上る。実施期間や対象物の規模、作品点数で、国内最大規模のデザインコンペとなった。

 コンペを採用した理由は、沿線地域の関係者、社外の専門家など「外部の視点を取り入れ、銀座線をより愛される路線にするため」と野焼常務は話す。その上で主幹部門である工務部だけでなく、東京メトロの一般社員も審査プロセスに加われるようにした。

 審査委員として加わった紺野氏は「経営陣がコンペを事業活動の核に据えたことが成功の要因」と高く評価し、「コンペを外部に丸投げしたり、中止したりする企業があるなか、大規模なコンペを、最後まで勢いを保ったまま行えたのは特筆すべきこと」と指摘する。

 初期に審査を終えた浅草駅や上野駅など「下町エリア」のリニューアルは、2017年12月までに完了する見込みだ。

銀座線のDNAを生かし新たな挑戦

 「銀座線開業時から培ってきている新技術への挑戦、街や沿線との連携が東京メトロの原点にある」と野焼氏は語る。「このDNAを大切にしつつ、時代の要請に応じて事業を展開していくことが、課せられたテーマ」だ。

 その実践例の一つが東京都港区の虎ノ門地区で進める日比谷線の新駅開業プロジェクトだ。虎ノ門地区は国家戦略特区に位置付けられ、より利便性の高い交通アクセスが期待される。「地域と連携しながら時代に求められる新しい駅空間を整備していく」(野焼氏)。この新駅プロジェクトは、2020年までの開業を目標に進行中だ。

 その構造上、東京の歴史と密接に関わりながら発展を遂げてきた東京メトロの地下鉄路線。その新しい施策が、未来の東京にどのようなインパクトを与えるのか。市民やビジネスパーソンなどの利用者目線、都市開発の観点など、さまざまな角度から興味深いチャレンジがそこに見てとれる。

銀座線・駅デザインの「昔と未来」
伝統を踏まえて先端的なデザインにリニューアル

銀座駅

【銀座駅】
銀座の上質な雰囲気を描き出したリニューアルデザイン(右)。線路側の壁にはかつての銀座の街並みを描き、歴史と伝統を演出する。左の写真は、1934(昭和9)年に撮影された銀座4丁目交差点の地下鉄駅出入り口。同年3月には日比谷線も開通した。

上野駅

【上野駅】
コンセプトは「美術館のある街」。複数の美術館のある土地柄を踏まえ、ホームは石造りの美術館を想起させるデザインに(右)。左は上野駅地下道に日本で初めてできた地下商店街(1930年撮影)と、かつて利用されていた「デパート巡り乗車券」
(資料提供=地下鉄博物館 写真=合田和弘)

浅草駅

【浅草駅】
コンセプトは「祭りの街」。浅草の中心スポットである浅草寺を意識して、浅草寺のべんがら色を駅出入り口(右)やホーム壁面のベースカラーに採用する。左は1929年に撮影された浅草駅出入り口。後ろに見える建物は地下鉄直営食堂の入った浅草雷門ビル