毎年2月、都心を3万人超のランナーたちが駆け抜ける。その経済効果は約270億円とも言われる東京マラソンは、まさに東京という巨大都市のパワーを顕在化させたスポーツイベントだ。社会や経済にも大きな影響を与える存在となるに至った東京マラソンの軌跡を振り返り、見据えるその先に迫る。

 東京マラソンには、近年では毎回30万人以上の応募がある。抽選により出場する権利を勝ち得るのは約12人に1人。その狭き門は、ランナーたちの「走りたい」欲求を募らせる。

 ニューヨークやボストンなど、世界的に有名なマラソン大会の視察を重ねて大会がスタートしたのは2007年。大会運営を担う東京マラソン財団事業担当局長の早野忠昭氏は、「開始当時のマラソンは、ねじり鉢巻きで走るような野暮ったいイメージだった。オシャレさを前面に出し、若者の参加を促すなど、ランナーの意識改革から始めた。軌道に乗ってからは、一過性のブームで終わらせないため、戦略的に新しいコンテンツを発信し続けてきた」と話す。

 10年にはチャリティー事業を開始。一般抽選とは別に、10万円以上の寄付で希望者が出走できる仕組みを設けた。寄付先は震災復興支援や子育て支援など15事業から選べる。チャリティー金額は年間約4億円に上る。

多方面から力を結集、運営を支える

 11年にはオフィシャルクラブ「ONE TOKYO」を創設、現在の会員数は約49万人に及ぶ。ランニングに関するさまざまな情報発信やイベント開催により、通年でのランナーのモチベーションアップに寄与している。海外での認知度を上げるため、12年には世界の有力大会と肩を並べて「アボット・ワールドマラソンメジャーズ」に参加。また、17年にはコースを大きく変更するなど、ランナーを魅了し続けている。

 東京マラソンの運営費用は、主にランナーの参加費と協賛企業31社からのスポンサーフィーで成り立っている。「健康のためや仲間づくりのためなど、ランナーの数だけライフスタイルがある。それぞれの強みでランナーのライフスタイルに貢献できる企業にオフィシャルパートナーになってもらう」と早野氏は話す。

 また、大会当日のマンパワーとして欠かせないのが、給水や走路誘導などでランナーたちを支える、1万人を超えるボランティアだ。ランナーとボランティア、幅広い分野のオフィシャルパートナーが三位一体となり大会を支えているため、景気変動に強い、盤石なビジネスモデルが出来上がった。そのため、年々新たな事業にも挑戦できており、好循環を生んでいる。

 東京マラソンには海外からも約6000人が参加する。特に大きな宣伝はしていないが、大会に参加した人たちが地元に戻り、「楽しかった」「素晴らしい大会だった」と感想を伝えることが、何よりの宣伝になるという。人気ぶりでも規模でも、アジアでは他からモデルとされるイベントとなっている。

 2020年の東京オリンピックでは、組織委員会と財団が協定を結び、マラソン運営やボランティアなどをサポートする予定だ。しかし、「本当に大事なのは20年以降」と早野氏は指摘する。オリンピック後の東京を盛り上げていくため、スポーツレガシー事業を立ち上げた。寄付を集めて若手アスリートを育成するなど、「建物などの有形のレガシーではなく、人々の心に残るレガシーの創造と継承に力を注いでいきたい」と早野氏は話す。

 行政とも連携し、健康寿命の延伸や医療費削減も目指す。企業の社会的な評価や社内の人事考課に、社員の健康を加えるなどの施策も検討しているという。「企業が社員の健康を本気で考えれば、日本の医療費は大幅に削減できるはず。東京マラソンによって社会課題を解決し、参加した人が誇りに思えるような、世界一の大会にしたい」と早野氏は意欲を見せる。

 東京マラソンは今後、スポーツイベントの枠を超え、社会の仕組みや働き方までを変える存在になり得るだろう。

東京マラソンの歴史

東京マラソンの歴史