上場企業のIRライブラリーには「プラットフォーム」の文言が溢れかえっている――。

中計立案における新規事業開発担当者とオンライン会談を開始する。第一声は「プラットフォーマーになりたい」。しかしどうやら話を伺ってみると、プラットフォームとは何かについて具体的イメージが持たれていることは少ない。第二声は、「GAFA」あるいはFANGMANT(Facebook、Apple、Netflix、Google、Microsoft、Amazon、NVIDIA、Tesla)とも呼ばれる米国テクノロジー企業群の動向について。そして第三声は「どうすればプラットフォーマーになれるのか?」。一時間のオンライン会談の終了時間が近づいてきた。

さて、我々はプラットフォームという「お化け」にどのように対峙すればよいのだろうか。本稿から8回に渡り、「FANGMANTのヘルスケア戦略」と題して、世界経済の中心に座りつつある、米国主要テクノロジー企業8社のヘルスケア領域における「現状断面」の取り組みを整理する。終了時にはまたその趨勢が変わっているかもしれない。大型のM&Aやアライアンスを通じて「電光石火」でそのプラットフォームの拡がりが変化しているからだ。一方、企業ごとの差異や特徴も垣間見られる部分があり、それが環境変化の予見と対応に役立つことを期待しつつ、1社目の「F」から始めよう。

Facebookの非有機的成長と業績

(写真:AFP/アフロ)
(写真:AFP/アフロ)

 Facebookは、マーク・ザッカーバーグと3人の共同創業者によって、2004年にハーバード大学やその他の米国の学生間コミュニティサイトとして設立された。並行して投資家の支援も得つつ、学生以外、更には米国外にも門戸を開いてユーザー数を拡大した。

 自社開発の機能のみならず、InstagramやWhatsAppなどの大型のM&Aを実施してサービスを拡大しており、現在では正規従業員5万8000人、時価総額9026億ドル(約98兆円)を超える巨大企業となっている(図表1)。

図表1●沿革(Facebook)
図表1●沿革(Facebook)
Facebookの沿革における主要イベント。買収年度は発表タイミングに基づく(出所:企業決算資料・企業ウェブサイト・Google Finance等を基に筆者作成)
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 小規模なものを含めて多数のM&Aや事業提携を実施しており、ときに既存事業との飛び地領域への進出を想像させることもある。例えば、2014年のAR/VRのヘッドマウントディスプレイを展開するOculus社の買収、2019年のブロックチェーン技術を活用した仮想通貨を展開するLibra Associationのコンソシアム設立と(2020年にはNoviへの社名変更した)Calibra社の設立。

 一方で、買収や提携後にも一貫しているのは、Facebookの既存事業への統合だ。ときにブランドを残したままAPI(Application Programming Interface)でつなぐ形で、ときにエンジニアの人財獲得とプラグインを通じて、買収したアセットを統合する。現状断面でFacebookは広告収益事業の拡大に資するアセットへ注力的に投資していると見てよさそうだ。

 直近の業績も好調だ。売上の大半を占める広告収入がドライバーとなり、過去5年間で年率30%以上の成長を達成している。コスト構造の観点からは、営業利益率40%を越える収益性とともに、研究開発費に対して対売上高で約20%を投下している点に着眼したい(図表2)。ライフサイエンスの領域においても同社は探索的な取り組みを見せている。

図表2●業績とコスト構造(Facebook)
図表2●業績とコスト構造(Facebook)
年次売上高推移(ドルM)(左)とコスト構造(右)(出所:企業決算資料・企業ウェブサイト等を基に筆者作成)
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Facebookブランドで最先端の技術開発に取り組む

 Facebook AIというブランドにおいて、人工知能技術の各種研究に取り組んでおり、2021年4月にはドイツのヘルムホルツ協会研究センターとのがん領域におけるドラッグリポジショニングの共同研究の開始を発表した。

 薬剤相互作用だけを取り出して考えても、組み合わせ論の課題が発生する。仮に100剤の医薬品が手元にあったとして、創薬における研究者は「マニュアル」で5000から190億の種類と用量の組み合わせを考えなければいけない(なお、日本で承認されている医薬品の数は約2万品目程度である)。

 同研究では、既知の薬物相互作用の学習用データセットから、未知の薬剤の組み合わせにより生じる相互作用の結果をCompositional Perturbation Autoencoder (CPA)と呼ばれるオープンソースで外挿するAIモデルの構築を試みている。

 将来には、患者(あるいは標的細胞)ごとに最適な種類、最適な分量、最適な投与タイミングを予測するモデルにより「ドラッグカクテル」をin-silicoで構築し、有効性、安全性、副作用の予測、その先の併用薬剤の同定にとどまらず創薬や新しい治療手段を通じたオーダーメード治療に繋げる企てだ。

 2019年に約1000億円で買収され、現在ではFacebook Reality Labsへと統合されたコロンビア大学発スタートアップCTRL-Labsのテクノロジーをみてみよう。

 当該ラボが眼前に実現しようとしているのは、HMI(Human Machine Interface)によるxR(Cross Reality)の実現だ。現在利用しているのは、独自のEMG(electromyography;筋電図検査)のヘッドセットとリストバンド。思考によって発生し、EMGから読み取られる微妙な神経信号を動作に変換することができる。リストバンドはハプティック(触覚応答)も発生させる。手指の最小ジェスチャー – Facebookは”Clicks”と呼ぶ – だけでスワイプもキーボードのタイピングもゲームもできるようになる。

 当該技術は、全身不随や筋萎縮性側索硬化症(ALS)を抱える患者さんへの福音になるかもしれない。そしてさらにその先には”Personal” Computerから”Personalized” Computerへ、”Clicks”さえ不要で「考えただけで表現できる」世界を想像しているようだ。

Facebookの事業展望

 ひるがえって、これらの“Moonshot”な研究開発や一連のM&Aは、Facebookの事業収益に何をもたらすのか。HMIは、SNSという一つの経済空間において、ユーザー体験の抜本的転換を見込んだ投資とみることができる。ドラッグリポジショニングについては、機能増強に必要なAI研究のテストベッドとして創薬領域を選定したという見方もできる。また、現状断面では全体売上高の10%未満である「Others」セグメントにおける将来の新たな収益ソース獲得のための先取り投資と視ることもできる。

 いずれにせよ、コアとなる技術基盤を獲得した人財やアセットをFacebookという一つのブランドへ統合しているのは特徴的だ。対照的に、InstagramやWhatsAppなどは顧客基盤と付随するサービスや機能の獲得による既存事業とのシナジー創出を達成している(図表3)。

図表3●事業ポートフォリオ
図表3●事業ポートフォリオ
現状の売上高構成(左)とFacebookの投資領域(アンゾフの成長マトリックス)(右)(出所:企業決算資料・企業ウェブサイト等を基に筆者作成)
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 なお、投資をすぐに成功させているわけでもない。2014年のOculusの買収はFacebookがAR市場を牛耳ることを予見させ、2016年の「AR元年」をもたらした。しかし現段階において少なくともヘッドセットとタッチコントローラーについては、ザッカーバーグが期待していたほどの事業貢献をしていない。市場からのフィードバックを踏まえて、2019年にはスタンドアローン型3DoF(three degrees of freedom)のヘッドセットシリーズOculus Goの販売中止、スタンドアローン型6DoFのOculus Questシリーズへの展開を示している。

 (訴訟すら辞さない!)幾度とない失敗から学び、アジャイルにその歩みを変えることを同社は体得している。その速度に産業界はどのように対峙すればよいのか。次のオンライン会議がまたスケジュールされようとしているが、蓋し会議のアクションリストを実践に移すことの方に意味があるのかもしれない。

(タイトル部のImage:yoshitaka -stock.adobe.com)