「FANGMANTのヘルスケア戦略」と題して、世界経済の中心に座りつつある、米国主要テクノロジー企業8社のヘルスケア領域における「現状断面」の取り組みを整理する本企画。1社目の「Facebook」に続き(関連記事:Facebook、デジタルプラットフォームという「お化け」)、今回は「Amazon」を掘り下げる。
顧客基盤? 革新技術? オペレーションモデル? ヘルスケアにおける将来の事業領域を定める起点の取り扱いは、新規事業開発の検討プロジェクトで最初に挙がる論点だ。さて今や通年売上高換算でウォールマートを抜き、時価総額180兆円近くとなった世界最大手の小売企業であるAmazonの場合は? 同社は現在最も急速にヘルスケア市場への参入を進めている会社のように見受けられる。その沿革を振り返ることから始めたい。
巷を賑わすモデルナワクチンの上市にも寄与
Amazonは1994年にジェフ・ベゾスによって設立された。Eコマースのなかでも書籍に目を付けたジェフは、転住したシアトルのガレージから事業を開始した。

株主からも懐疑的なコメントが寄せられていたほど、立ち上がり時期の事業収益は厳しかった。一方、これはジェフ自身がAmazonのシンプルだが大掛かりな「プラットフォーム」ビジネスを描いていたときに予見していたことだった。実際、2000年初頭のドットコム・バブルの最中、2001年には黒字化を達成している。同社は事業拡大を続け、2021年第1四半期の同社のネット売上高は24兆円に至り、今やそのロゴを知らない生活者は存在しないほどの一大企業となった(図表1)。
事業拡大のなかでも、2000年初頭に開始したAWS(アマゾン ウェブ サービス)の役割は大きかっただろう。EC事業を補完するものとして、更にはEC事業を超克した世界を跨るIT情報基盤の必要性を先見したうえでの取り組みだった。AWS自体も予期していなかったかもしれないが、同社のオンラインのクラウドサービスが無ければ、米国の一バイオテックであるモデルナの研究開発体制の基盤は構築されず、現在巷を賑わせるワクチンが上市をすることも無かった。国内においても先端的ヘルステックが同社のサービスをつとに利用している(関連記事:パブリッククラウドの視点で見るヘルスケアスタートアップ)。
また、Amazonは多数のM&Aを実施することでも有名だ。2018年以降、100件以上の完全買収を実施しており、部分出資を入れると更にその数は増える。製品、カスタマー、コンテンツ、テクノロジー、時間、人財、買収の目的はさまざまであるが、ヘルスケア領域においては、消費者あるいは生活者に健康を届けるための一つのストーリーを持って事業展開をしていることが伺える(図表2)。