小規模からの「アップスケーリング」

 デンマークの公的セクターでIT活用を進める際のマネジメントに関する様々な研究を行っている国立オールボー大学のニールセン(Nielsen)教授は、デンマークでヘルスケア領域にテクノロジーを活用するための様々な実証実験が立ち上がっており、国際的にもデンマークでこういった取り組みが多くあるという認識が広がりつつあるとする。その一方で、実態としてほとんどのプロジェクトは小規模で始まり、そのままスケールアップすることはなく消失していく現状があることも指摘している。

 小規模では興味深い結果が出ても、その後に複数のアクターによる長期的な協働を持続することは難しい。加えて資金繰りの面で規模を拡大するというフェーズへ進めないプロジェクトが数多くある。

 COPDプロジェクトに関しては、初めに期待されていた経済効果のすべては達成できなかったが、重症患者の再入院の減少など一定の効果を挙げ、より規模の大きいプロジェクトへアップスケールすることが検討された。大規模プロジェクトを実施するに至ることができたのはどのような要因によるものなのか。その移行過程で何が重要であったのかを分析したニールセン(Nielsen)教授ら研究グループの成果1)を基に、ここでは以下の3つのポイントを指摘したい。

(1)プロジェクトの進行に伴うリーダーシップを発揮する部門の移行

 小規模実証実験は大学の研究者によりリードされていたが、プロジェクトの拡大の検討とともに、医療のオペレーターである行政側のマネジメント層によるリーダーシップへと徐々に移行した。小規模実証実験から大規模なプロジェクトへスケールアップに至ったとき、発案した大学の研究プロジェクトチームはほぼ実質的にその担ってきた役割を終えている。

 大学の参加やプロジェクトに対する実権が薄まったことにより、「ラボで行われる実験的イノベーション」として捉えられていた活動は次第に、「人々の生活に有用なヘルスケアのサービス」を共創しているという認識へと変化していったことが、プロジェクトを継続していくうえで非常に重要であった。その渦中にいるとなかなか難しいことであるが、プロジェクトを主に率いている部門や組織はこの段階で誰であるべきなのか(もしくは、そもそもリーダーが必要な段階なのかも含めて)を、その段階で重要なリソースや資質に照らし合わせて柔軟に変えていくことの必要性を自覚し、また行動することが必要になってくる。

 このようなリーダーシップの移行は、もちろん簡単に起こったわけではなく、水面下で様々な交渉を経て、次第に実現されていった。