(2)医療と行政の対立と利害調整

 初期段階で医療側と行政側で意見が割れ緊張関係が生まれる場面があったと言及したが、プロジェクト進行中にこの対立は度々起こっている。前者は遠隔医療を「治療ツール」と見る一方で、行政側は「リハビリ」にフォーカスしすぎており、双方の利害がなかなか一致しなかった。

 加えて、急性期病院の医療関係者に比べ、かかりつけ医の協力を得ることに難航した。再入院を防ぐなど、急性期病院にとっては目標が分かりやすい一方で、かかりつけ医にとってはプロジェクトが自分たちの立場に何をもたらすのか今ひとつ見えにくかったことによる。

 その際に有効であったのは柔軟なビジョンを改めて作り直し、参加者それぞれが達成可能なプランを実行することである。この点は文字にすると容易に行われたようにも見えてしまうが、実際には簡単ではない。このプロジェクトは誰のために何を実現しようとしているのかという大きな目的が共有されていないと、この過程で簡単にプロジェクトは頓挫してしまう可能性も大いにある。

(3)専門職間での信頼関係の揺らぎと再構築

 最後に、研究の要素が強かった当初のプロジェクトからサービスとして実践することを強く念頭に置いたものへ移行するにあたり、現場で医療に従事する専門職の協力も必要不可欠となってくる。テクノロジーという新たなツールの登場により、タスクの分割と共有の仕方や、職員間でのお互いの能力に対する信頼関係が揺らぐなどの問題が出てきた。

 現場でのこういった緊張関係を解消するには、やはりビジョンや目的といった理論的な思考に実践をつなぎ、行為の意味を一人ひとりが納得しながら進めていく必要がある。つまり、どのステークホルダーにとっても何度も大目的を確認し、自らの役割がそのための何に貢献しているのかの意味づけがしっかりしていることが非常に重要だということである。

 COPDのプロジェクトを追っていくと、デンマークの遠隔医療実践にも紆余曲折があり、簡単には進んでこなかったことが分かる。アップスケーリングを進めるには、まず、それが単にプロジェクトの範囲や規模を拡大するだけではないことを認識する必要がある。

 求められるのは、規模を大きくしていくための正当性をしっかりと築くこと、そして組織連携におけるダイナミクスを調整することや新しいツールを使用しての協働を進めるにあたって求められる信頼関係構築を含めたマネジメントの性質の転換である。これはデンマークに限らず、日本を含めた様々な取り組みに有効な視点を与えている。



1) 研究チームが成果を学会で発表した論文は以下のとおり。
Christensen, J. K. B., Nielsen, J. A., Gustafsson, J., & Seemann, J. (2016). Scaling up Telemedicine: Political Behavior in Innovation, Translation and Theorization. Paper presented at Academy of Management, Los Angeles, 2016.

(タイトル部のImage:著者が撮影)