慢性疾患、精神障害、認知症、がん治療など、ヘルスケアの様々な場面でテクノロジー(ヘルステック)の導入が進んでいる。こうした中、デンマークを含めた欧州では「テクノロジーの導入」という点から一歩進んだ議論に視点が移っている。それは、新たなテクノロジーに基づくサービスを「日常に定着させる」ための方法についてである。

 新たなテクノロジーの定着にとって重要だとされているのが、病院や自治体、民間事業者など技術を実際に導入しサービスを提供していく組織内のマネジメント体制だ。それを既存のものからどう転換していくべきなのか──。

テクノロジーの理解20%、マネジメントの重要性が80%

 デンマークでは、童話で有名なアンデルセンの生誕地でもある第3の都市、オーデンセ市がヘルステック産業で国際的に知られる場所として注目を集めてきている。デンマークの首都、コペンハーゲンのあるシェラン島およびドイツと地続きであるユトランド半島に挟まれたフュン島という島に位置しており、元々は海運世界最大手のデンマーク企業であるマースク(Mærsk)を支えてきた造船業を中心に発展した都市でもある。

 市はヘルステック産業に注目し、10年ほど前からその発展に注力してきた。南デンマーク・ヘルスイノベーションセンター(Health Innovation Centre of Southern Denmark)という国際的によく知られるリビングラボがあり、行政、企業、病院など、多様な主体による共創が取り組まれている。

 この南デンマーク・ヘルスイノベーションセンターは、ヘルステックの社会実装に関して、「テクノロジーそのものに対する理解の重要性が全体の20%、残りの80%を占めるのはテクノロジーを活用するためのマネジメント体制を構築することの重要性である」という見解を示している。

 後者には多大なエネルギーと時間がかかり、プロジェクトがやっと軌道に乗ったころには、採用しようとしていたテクノロジー自体がもう古いものとなってしまっているとの指摘もあるほどだ。ある事例では、定着までに17年を要したことが言及されている1)。それは、実証実験の期間も含め、現場のスタッフとマネジメントサイドが幾度も試行錯誤を繰り返し、やり方を変えながら安定した方法へたどりつくまでに要した時間である。

 初期のプロジェクトでは試行錯誤を繰り返しながら進めるため、全期間としてこのように非常に長い時間がかかったという面がある。従って、その後に続くプロジェクトでは短期化が見込まれる。ただし、総じてある特定の技術・製品やサービスを導入した後、実際に使用し成果を出すまでのプロセスの加速化は、欧州の各国共通で課題として認識されている。