第1回は「人間の尊厳にかかわるトイレ」に焦点を当てます。私はこれまでに、多くの仲間たちと高齢者にふさわしい住環境の実現に取り組んできました。仲間の1人であるケアマネジャーのつつみいくみさんは、トイレの問題に悩んでいたAさんと向き合い、家族と話し合いながら互いに問題を解決していきました。(溝口千恵子)

 ケアマネジャーのつつみいくみです。住環境を整えることで、介護をする時間、あるいは介護をされる時間を減らせた事例を紹介します。私が住宅改修に携わって16年の月日が過ぎました。この間、住まい手の健康と住居との間には、切っても切れない深い関係があるのだと思い知らされることが何度もありました。

 私はケアマネジャーという立場上、要支援、要介護の認定を受けた方やそのご家族からの相談をきっかけに、介護保険を活用した住宅改修という課題と出会います。

 住宅改修の希望があると、まずご自宅を訪問して、実際にどのような暮らしにくさがあるのか詳しくお話を伺います。何度かご自宅を訪問し、実際に動作をしていただいたり、家族にいつも行っている介助を再現してもらったりすることもあります。

 そうしているうちに、介護が必要になるもっと前の段階から、住宅そのものに起因する「暮らしにくさ」が見えてきます。そしてこれが、ジワジワと心身にストレスを与えていたと気づかされることもあるのです。暮らしにくさを長期にわたって我慢したり放置したりすることで、介護が必要な状況が生み出されたことも、決して少なくないと分かってきました。

 今回お話しするのは、介護認定以前から、トイレ問題を抱えていたAさんの例です。

夜中のトイレが多く困っていた

 Aさんは60歳代の男性で、30歳代で建てた戸建て住宅に、奥さんと娘さんの3人で暮らしていました。Aさんは60歳半ばごろからトイレの回数が増え、夜中にも5~6回は行っていました。和室に敷いた布団から出て、1階北側の玄関脇にあるトイレまで、別室と廊下を通り抜け、近道をしても合計6メートルほど歩かなくてはなりませんでした。

 トイレの床や壁にしぶきがはねて、臭いの原因になるので、家族から座って用を足すように言われていました。一時は抵抗していたAさんですが、近頃は家族の意向に従っていました。トイレに入って座って用を足し、終わって無事にトイレから出てくるまで、実に多くの細かい動作が連続して行われています。このことに健康なときは誰も気がつきません。ここでAさんの発病以前の、排泄に関する動作を振り返ってみます。

 Aさんのお宅のトイレは、便器の正面にドアがあります。トイレに入るときは、これから開けるドアとぶつからない位置に立ち、ちょうど身体がすり抜けられる分だけドアを開けて、滑り込むようにトイレに入ります。その後、身体の向きをほぼ半回転させて便器の前に立ち、ドアを閉めてからズボンを下ろし、便器に座ります。用を足し終わったら立ち上がり、両手でズボンを引き上げて半回転し、トイレタンク上部の吐水口で手を洗います。次に、壁に掛かっているタオルで手を拭き、またもや半回転してトイレの中からドアを開け、トイレの外に出ます。そして再度、身体の向きを変えてドアを閉め、またもや身体の向きを変え、元来た道を引き返します。何と半回転や身体の向きを変えることが多いことでしょう。

 温暖な季節はさほどではないのですが、冬は夜中のトイレが苦痛で仕方なかったそうです。トイレと寝室を往復する間に、すっかり身体が冷えてしまい、布団に戻ってようやく温まった頃には、またトイレに行かなければならないのでした。トイレに暖房をつけたのでトイレの中は多少暖かいのですが、道中の寒さはこたえます。泌尿器科の薬を飲んだり、夕方から水分を控えたりして工夫していたそうですが、夜中のトイレ回数が減ることはありませんでした。