住宅改修後の入浴の様子

 脱衣所と浴室の段差は、改修工事前は約16cmでした。工事後は6cm程度に収まるようにしました(写真5)。前述の手すりの効果も併せると、Aさんの脱衣所・浴室間移動は、身体を支えて介助しなくても、見守り程度でもできそうでした。

写真5 脱衣所と浴室の段差を改善

 浴室の改修工事を行うことで、Aさんも介助するご家族も、入浴のための重い労作と気遣いが不要になりました。Aさんは入浴動作に対する不安を徐々に解消し、入浴そのものの楽しさをよみがえらせました。安全な環境で、適切な介助による入浴を繰り返すうちに、Aさん自身が安全な入浴の方法を習得していきました。そして入浴そのものが生活リハビリテーションとなり、誰かが見守りや浴室の外から気配を確認するだけでも入浴できるようになりました。こうしてAさんも奥さんも娘さんも、徐々に以前の暮らしに近い自由度を取り戻していきました。

 入浴の目的は、身体を清潔に保つためだけではありません。特に日本人の場合、ゆったりと湯に漬かり、身体を温めてリラックスすることにこだわりがあります。ストレスの解消になりますし、身体のコリをほぐしたり、関節の痛みを和らげたりして、セルフケアの手段にもなります。自宅での入浴に自信が持てるようになれば、やがては「温泉にでも出かけてみようか」などと、行動半径を拡げることにもつながります。

 脳血管疾患の後遺症では、片側の上下肢に麻痺が残り、日常生活動作に大きな支障を来すこともあります。自宅での入浴は、介護を担うご家族の事情で回避されることも多いものです。「デイサービスでお風呂に入ってきて」と言われることも少なくありません。障害を抱えたご本人は、「そんなの嫌だなあ」と思っても、ご家族に押し切られれば、仕方なく受け入れることが多いようです。それはそれでもよいのですが、住宅改修によって不便さを改善することで、自宅での入浴も可能になるものです。そしてそれは、必ず他のご家族にも安全と安心、心地よさを提供できるものです。

 Aさん一家は、住宅改修を行った年末に、県内の温泉旅館に一泊してきました。障害者用の設備がある個室での入浴でしたが、今後は大浴場にも挑戦したいと言っておられました。そして現在のAさんは、デイサービスではなく、近所のスーパー銭湯通いをしています。ケアマネジャーの私は、今はほとんど登場するチャンスがありません。とても喜ばしいことだと思っています。

 なお、浴室の改修費用ですが、前回述べたように、トイレの改修なども含め総額で約200万円ほどでした。一部は介護保険でまかないました。

■溝口氏のコメント
 入浴は、日常生活動作(ADL)の中でも、最も難しいと言われています。裸で脱衣室から浴室への段差移動や、濡れて滑りやすい洗い場の移動。また、扉の開閉や浴槽への出入り、洗体、水栓金具の操作など複雑で様々な動作が求められます。高齢者が安全に快適な入浴を行い、身も心もリフレッシュするには、ご本人の身体状況の確認や要望を伺うなど細かな配慮が必要です。時には介護者が必要か否かの確認や、入浴動作を1つひとつ確認することも求められます。

(タイトル部のImage:Ivan Kruk -stock.adobe.com)