介護保険の住宅改修の適用項目に「床材の変更」があることをご存じでしょうか。床材を変えるだけで杖歩行の方の外出頻度が高まった事例を、二級建築士で福祉住環境コ―ディネーター2級である高齢者住環境研究所の松浦高寛さんに紹介してもらいます。(溝口千恵子)

 80歳代の女性Sさんは脳梗塞を患い、重度の麻痺はなかったものの、左下肢に違和感があって力が入りにくい状況です。発症前は独居生活を楽しんでいたのですが、現在は長男家族と同居されています。元々外出が好きだったSさんですが、段々と家に閉じこもるようになり、外出の頻度も減ってしまっていました。デイサービスでリハビリテーションを継続されており、少しずつ歩ける範囲を拡大することを目標としていました。現在は、一人での外出は困難なため、家族やヘルパーが付き添います。屋外の移動の際は杖を使用しています。

 私は以前、Sさんの室内歩行のために、数カ所に手すりを取り付けさせていただきました。福祉用具との併用で室内の環境は整えたのですが、今回は外構(アプローチ、塀、柵、垣根などの構造物)の相談でした。

 Sさんの家は、傾斜地に建っており、北側にある玄関は道路から15段ほど階段を上ったところにあります。発症後のSさんは、階段の昇降が少ない南側の庭に面した道路から外出しています。

写真1 雨の日は滑りやすく危ない状況になる南側の庭

 ところが南側の庭は、住宅が密集している立地にあり、大きな樹木に囲まれているため、日当たりが悪いのが難点でした。雨が降った後の水はけが悪く、地面はぬかるんでしまいます。このため、デイサービスの際の外出や庭へ出る際は、非常に滑りやすく危ない状況になるのでした(写真1)。

 また、犬を飼っているので、犬が家の中に泥をつけたまま入ってきてしまうことも気になっていると話していました。

低予算で工期のかからないブロック敷設

 外構床の工事では、コンクリートを打設する工事がごく一般的なのですが、今回のように水はけの問題がある場合、コンクリートなどの舗装工事に併せて排水工事も行う必要があり、そうなると予算も工期も大きくなってしまいます。そこで、今回は、なるべく低予算で工期のかからない施工方法として、既存の土壌地面の上にブロック材を敷き詰める工事を提案させていただきました。工事費は50万円ほどでした。介護保険では、20万円を上限に住宅改修費が支給されます。Sさんの場合、室内の移動用に手すりを付けましたので、その費用として6万円を支給されていました。残りは14万円でしたので、自己負担分(Sさんの場合は1割)を差し引いた12万6000円が床材の変更用に支給されました。

 このブロックは、ブロック自体に透水性の機能があり、雨水はそのまま透過させますので、降雨の日でもブロック表面上に水がたまってしまうことはありません。雨の日でも滑りにくいので、高齢の方にも安心です。

 また、遮熱効果も高いため、コンクリートやアスファルト、その他の舗装材で施工するよりも路面温度の上昇を抑えることができ、特に南面の庭には適しています。見た目については、多数の色や異なる大きさのブロックがあるので、デザインの自由度も高く、お客様の好みに応じて選べる利点があります。

滑ることなく安全に移動

 ブロック材を敷き詰めたことで、コンクリートを打設しただけよりも見栄えも良くなりました(写真2)。また、杖を使用して外出する際も、滑ることなく安全に庭を移動できています。また、Sさんご本人はもちろん、介助者となる家族やヘルパーの負担も軽減されました。

写真2 ブロック材を敷き詰めた南側の庭

 筋力低下に伴い、年々外出の機会が減ってきてしまっていたSさんですが、この工事を機会に、外出頻度が高まり、庭での時間も安全に過ごせるようになりました。

 また、Sさんご本人だけではなく、家族やペットもぬかるみの中を通らずに庭での時間を楽しめるようになりました。家族全員が快適な外構を実現でき、毎日の生活の中に活かされています。

■溝口氏からのコメント
 車いすや杖歩行の方にとって段差だけでなく、床(地盤面)の状態や摩擦の有無、ちょっとした傾斜などが移動時に大きな影響を与えることがあります。畳の目の方向、ビニル系シートのテクスチャー、雨天のタイルなどです。今回の事例は、歩行に不適切な性質の土の地面をブロック材に変えることで、歩行の容易性や安全性を高めています。バリアフリーの設計では、材質の特性をよく理解し、適材適所に使用することが大切なポイントとなります。

(タイトル部のImage:Ivan Kruk -stock.adobe.com)