足腰の衰えていく高齢者にとって、自宅の「階段」は転倒の不安が大きい場所の1つです。安全に昇降できるように、手すりと階段昇降機を駆使した住宅改修例があります。二級建築士で福祉住環境コ―ディネーター2級の資格を持つ高齢者住環境研究所の内間千雪さんに紹介してもらいます。(溝口千恵子)

 90歳のOさんのお宅は2階一戸建てで、奥さんと2人暮らしでした。普段、日中は1階で過ごされております。寝室や洗濯干し場が2階にありますので、ご夫婦ともに1日に何度かは、階段の昇降を行っています。

 Oさんは日常生活動作(ADL)や筋力低下が著しく、要介護2の状態です。自宅の階段はつかまるところがなく、いつも転落の不安を抱えていました(写真1)。体調の良い日は壁を伝いながら階段の昇降を行えるのですが、体調の悪い日は階段の昇降の際、ふらつきが強く、奥さんが後ろから見守っていないと危険な日もあるそうです。奥さんもご高齢のため、ご主人が階段昇降で、ふらついた際に介助することもできず、転倒・落下の不安を抱えていました。

写真1 改修前の自宅の階段

 奥さん自身、洗濯物を干す際に、重い洗濯物や荷物などを持ちながら昇降するのですが、そんなときは転落の不安を感じていました。

 これまでは、階段昇降も筋力を維持するためのリハビリテーションになると考えていました。また、長年手すりのない階段を昇降していた慣れも手伝い、不安を抱きながらも日々の生活で階段を利用していました。しかし、転倒・落下の不安から、心の安らぐ生活が難しくなっていきました。

手すりと階段昇降機の組み合わせで

 階段の不安を解消したいとの相談に、今回は、ご自宅の階段幅が広いこともあり、ご主人の体調に波があることも考慮して、階段昇降機と手すりの設置の両方を提案しました。

 片側に階段昇降機、反対側に手すりを設置しても、問題なくスペースを確保できたため、どちらも設置することになりました(写真2)。

写真2 改修後の階段

 Oさんは、体調の良いときには手すりにつかまり、リハビリ、筋力維持のために階段昇降を行います。体調の悪いときや荷物のあるときには、階段昇降機を利用して階段昇降するという生活が送れるようになりました(写真3)。

 若い頃はなんとも感じなかった手すりのない階段ですが、高齢になり、下肢筋力の低下を感じ始めるとご夫婦ともに、不安・恐怖の場所でしかなかったそうです。今回、住宅改修をしたことでOさん夫婦は、「1階から2階へ安全に行き来できるようになりました。冬は日中、日当たりのいい2階で過ごすこともできるようになりました」と大変喜んでおられました。

写真3 手すり(左)と階段昇降機(右)を駆使した階段の改修

 このように、高齢の方の中には進行性の病気や、日々体調に変化のある方も多くいらっしゃいます。また介助者も高齢で、見守るだけで精一杯というケースも多いのです。どのような体調であっても、ご本人はもちろん、見守る家族も安心して快適な在宅生活を継続できる住宅改修を心掛けるべきです。

 なお、費用ですが、手すりは自己負担が1万円ほどで9割は介護保険で賄いました。階段昇降機は約180万円で、こちらは全額自費でした。

■溝口氏のコメント
 近年の新築住宅は、階段の手すりは設置されていますが、私たちがお邪魔する築年数の経過したお宅では手すりのない階段が多く見受けられます。手すりを設置するだけでも安全への第一歩、上下階を有効に利用し続けることが可能になります。階段昇降機があれば、さらに長く同じ住まい方を継続できます。今回のように有効幅の広い階段の場合はもちろんですが、昇降機も日本の木造住宅のモジュールでも利用できる機種がたくさんあります。自治体によっては、介護保険以外にも昇降機に対する助成を行っているところもあるので、積極的に利用してはいかがでしょうか。

(タイトル部のImage:Ivan Kruk -stock.adobe.com)