AI(人工知能)をはじめとするデジタル技術が大きく発展し、医師の診断・治療にも使われ始めました。海外では、それらのデジタル技術が日常診療をどこまで変えるのか、その効果を検証する臨床研究が多数行われています。本連載では、欧米の医療事情や医療機器の研究開発に詳しい田村氏が、最新のデジタル機器がどこまで日常の診療に役立っているのか、そのエビデンスを紹介するとともに、その結果見えてきた課題を考えていきます。(編集部)

 モバイルアプリ、ウェアラブル機器、AI診断などのデジタルヘルス技術が医療を大きく変えようとしている。以前のデジタル技術は、電子カルテをはじめ、医療機関内のワークフローの効率化に資するものが多かったが、近年は、患者の診療に使われるデジタル技術が盛んに導入されてきている。

 こうした動きを背景に、2018年4月の診療報酬改定では、遠隔診療(情報通信機器を用いた診療)に対する診療報酬、中でも、医師対患者(D to P)の診療報酬としてオンライン診療料、在宅酸素療法、在宅CPAP療法に対する遠隔モニタリング加算等が新設・拡充された。

 これに先立って、2014年から医薬品医療機器等法により、単体ソフトウェアが医療機器プログラムとして承認申請の対象になった1)。そして、医療機器プログラムとして承認されたものが一部保険収載されるようになってきている。

 昨年は、ゲノムDNA中の遺伝子変異を検出し、乳癌患者への適応を判定するための医療機器プログラム「BRACAnalysis 診断システム」が6月に、また、心臓CTデータの数値流体力学解析を行うことにより冠血流予備量比値を算出し、冠動脈疾患の診断を支援するプログラム「ハートフローFFRCT」が12月に保険収載された(いずれも特定保険医療材料ではなく、技術料としての保険収載)。双方の技術とも、国内で収集した臨床データを海外に送り、その分析結果を国内の臨床現場に送り返す一連のプロセスが医療機器プログラムとして承認され、それが保険収載されるという、以前にはとても考えられなかった仕組みのものである。

膨大な臨床研究・エビデンス

 このようにデジタルヘルス技術をめぐる状況は急速に変化を遂げている。その技術のエビデンス構築の必要性が日本でも指摘され、その方法等についての提言もされている2)。実際に、世界中でデジタルヘルスのエビデンス、なかでも、診療に用いられる技術について、有効性を検証する臨床研究が盛んに行われている。

 有効性に関する「個々の」臨床研究は膨大にあるが、それらをまとめた「システマティックレビュー」(注1)や「メタアナリシス」(注2)の論文もまた膨大にあり、PubMedで筆者が検索したところ、2018年だけで優に30を超える。システマティックレビューやメタアナリシスで対象としているのは、多くの場合、10〜20のランダム化比較試験(RCT)で、対象者は合計すると1万人に及ぶものが多い。

注1)システマティックレビュー:系統的レビューともいう。ある課題に関して過去に行われた研究を、文献データベースなどに基づいて網羅的に検索し、該当する文献の評価を行った上で一定の水準を満たす文献のみ抽出し、結論を得るための検討対象とする作業を指す。

注2)メタアナリシス:同じ治療や予防法、検査法、危険因子などを検討した幾つかの研究がある場合、それぞれの結果を一つの指標で統合し、まとめた研究のこと。多数の試験結果を合算して分析したものであるため、ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスの結果は、治療効果を検討する上で特に重要となる。

なぜ厳格なエビデンスが求められるのか

 分野としては、心不全や糖尿病、精神疾患、皮膚科診療、慢性疾患管理、あるいはリハビリテーションといったデジタルヘルス技術が多く使われるようになっている領域が中心であるが、疼痛管理や認知症患者向けのペットロボットなど、あまり一般的とは思われないようなもののシステマティックレビューまであり驚かされる。デジタルヘルス技術は、従来の技術に比べると、技術の利用状況など、データ収集が比較的容易であることが背景にあるとみられる。

 ポジティブな結果のものしか出版されないというバイアスも疑われるが、これまで見たところ、デジタルヘルス技術の有効性が既存技術を上回っているという結果が比較的多い。ほとんどの論文(システマティックレビュー/メタアナリシス)では、コクランのrisk of biasの方法に基づき評価がなされている。

 有効性に関する研究が膨大に存在するのに対し、経済性(医療費)に関わる研究はさほど多く見られない。経済性の方は、デジタルヘルスの方が既存技術に比べて優れているとするものと3) 、そうでないもの4)がミックスされているように見られるが、有効性の存在が経済的評価を行うというのが大原則であるとすれば5)、有効性が確認された分野で経済性に関わる研究が順次行われていくのであろう。

 技術進歩が極めて速いスピードのデジタルヘルス技術の有効性検証においても、医療機器や医薬品並みの質の高いエビデンスが必要だろうかという疑問が呈されたが、現時点では、医療機器や医薬品と同様に、医療保険から支払いがなされるのであれば、同様なエビデンスを求めるべきという意見が有力である6)。デジタルヘルスでは、比較的速いスピードでの患者受け入れができ、また盲検も不可能ではなく、デジタルヘルスを例外にする必要はないとされる7)

 昨年12月には、英国NICE(The National Institute for Health and Care Excellence)から「デジタルヘルス技術のエビデンスに関わる標準的フレームワーク」α版<試作品>が発表された8)。そこでは、デジタルヘルス技術を、患者のアウトカムに直接影響を及ぼさないTier1から、患者にとって便益がある治療・診断・モニタリングを行うTier3bまでに分類し、それぞれ必要なエビデンスレベルが示されている。Tier3bでは、RCTレベルまたはそれに準じるようなエビデンスが求められている。

 次回の本コラムから、これまで蓄積されたデジタルヘルス技術の有効性に関する膨大なエビデンスを順次紹介し、その課題、さらにはデジタルヘルス技術の開発方向等について探ってゆきたい。


[参考文献]

1)厚生労働省・薬食機参発1121第33号、薬食安発1121第1号、薬食監麻発1121第29号、平成26年11月21日 「医療機器プログラムの取扱いについて」

2)長谷川高志、他. 遠隔診療の有効性・安全性に関するエビデンスの飛躍的な創出を可能とする方策に関する研究. 日本遠隔医療学会雑誌. 2018; 14(2): 74-77.

3)例えば、Akiyama M, et.al. A Systematic Review of the Economic Evaluation of Telemedicine in Japan. J Prev Med Public Health. 2016 Jul;49(4):183-96や、Delgoshaei B, et.al. Telemedicine: A systematic review of economic evaluations. Med J Islam Repub Iran. 2017 Dec 20;31:113.

4)例えば、Ashwood JS, et.al. Direct-To-Consumer Telehealth May Increase Access To Care But Does Not Decrease Spending. Health Aff (Millwood). 2017 Mar 1;36(3):485-491

5)Drummond MF, et.al. Methods for the Economic Evaluation of Health Care Programmes (4th edition). 翻訳:保健医療の経済評価(篠原出版社)2017

6)Greaves F, et al. What is an appropriate level of evidence for a digital health intervention? Lancet. 2019 Dec 22;392(10165):2665-7.

7)Espie CA, et.al. Digital medicine needs to work. Lancet. 2018 Dec 22 2018;392(10165):2694.

8)NICE. Evidence standards framework for digital health technologies. December2018 (https://www.nice.org.uk/about/what-we-do/our-programmes/evidence-standards-framework-for-digital-health-technologies から2019年2月24日にダウンロード)

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