デジタルヘルスのキーとなる特質は、「患者のエンパワーメント」「医療従事者の能力向上」「診療管理の方法変革」とされる1)。本コラム2回目に取り上げた「心不全」は、患者の状態を絶えずモニターし必要に応じて介入するという意味で主に「診療方法の方法変革」に該当し、前回の「糖尿病」は、患者が自分の状態を絶えず理解し行動につなげていくことが期待されるという意味で主に「患者のエンパワーメント」に当たるだろう。今回取り上げる「健康行動」は「糖尿病」と同様、患者・受け手のエンパワーメントを目指すものであり、患者・人々の行動変容をしやすくすることが期待される。

 健康行動とは、人々の健康に関わる行動であり、非常に幅広い。まずは、アルコール依存症から、自殺予防、減量プログラムまで、健康行動変容のためのモバイルアプリの有効性を検証した20のランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューを見ていく2)(表1)。

表1●保健(健康)行動変容のためのモバイルアプリ有効性のシステマティックレビュー(20RCT)

 20のRCTのうち、16は従来のものに比べて高い有効性が見られていた。スマートフォンアプリにより、「平均歩数が増えた」「アルコール依存症にとってリスクとなる飲み方の日数が減った」「薬剤アドヒアランスが高まった」「疾病に対する知識が深まった」「禁煙を始めた人の喫煙再開率が低かった」等々である。

 一方で、有効性が見られなかったものは4つあり、1つは肥満者に対する減量プログラム、2つのCPR(心肺蘇生法)教育プログラム、もう1つは神経筋トレーニングのプログラムであった。心肺蘇生法(CPR)と神経筋トレーニングは、プログラムの中身が複雑でスマホのアプリでは難しかったのではないかとみられる。プログラムの中身によっては、対面やDVDでの教育の方が適しているということであろう。

結果が分かれる減量プログラム

 表1に示した2つの減量プログラムにはポジティブなものとネガティブなものがあったが、2016年に行われたSemperのシステマティックレビュー、そして、最近発表された2つの減量プログラムにも、ポジティブ・ネガティブ双方があるので、結果を分ける原因・背景について探っていきたい。

ネガティブな結果となった原因・背景

 まずネガティブな研究から見ていく。

 Laingらの研究3)で使われたスマホアプリは、現在体重と目標体重から日々の目標カロリーを算出し、それと毎日の摂取カロリーの状況が比較して示されるものであった(食事の写真を撮るなどして摂取カロリーが算出される)。さらに、ソーシャルネットワークの仕組みもあり、同様に減量プログラムに取り組み人たちとの関係により、モチベーションが上がる仕組みも導入されている。

 結果は、3カ月では、対照群は0.54ポンド上昇、介入群(アプリ)は0.06ポンド減少であり、有意差は見られなかった(6カ月もほぼ同様な結果)。効果が見られなかった原因は明確で、介入群がアプリを利用した回数は非常に低く、6カ月間で、アプリへのログイン平均回数は61回、中央値では19回であった。3か月目では、介入群の体重減少に対する自己効力感が、対照群よりも低いという結果もみられた。

 アプリ利用の困難さ(食事を写真で送るなど)が、利用の低さを招き、結果として自己効力感を低めるという結果になったと解されている。冒頭に述べた、患者のエンパワーメントどころか、ディスエンパワーメントになってしまった。

 今後の改善策として、アプリ利用の簡便さ、減量プログラムに対して準備状況ができている患者を対象とすること、カウンセリングとの連動などが挙げられている。

 Semperの行ったシステマティックレビューのうち3研究4)でも、対照群に比して介入群の優位な有効性は示されなかったが、いずれの研究でも、介入群と対照群、両群で体重減少が見られていた。対照群として行われたプログラムが、カウンセリングや食事日記(紙面)をつけるなど、比較的強力な働きかけがなされており、その結果、アプリによる介入群との差異が明確にならなかったとみられる。

ポジティブな結果となった原因・背景

 ポジティブな結果が見られた研究を3つ示す。

 Carterらの研究5)では、食事データ入力・記録のアドヒアランス(6カ月のフォローアップ期間)が、スマートフォンアプリ群で92日と最も長く、ウェブサイト群が35日、日記群が29日と続いた。体重減少も、スマートフォンアプリ群が4.6kgと大きく、ウェブサイト群が2.9kg、日記群が1.3kgそれに続いた(アドヒアランスは統計的に有意な差が見られたが、n数が十分でなく、体重減少は有意な差が見られなかった)。

 方法間で明確に差がでた背景は、研究からのドロップアウト率から推測される。スマホアプリ群では7%であったのに対し、ウェブサイト群では45%、日記群では47%であり、各方法に対する利用者の受け入れ度に大きな差があった。

 次に、Stephensらの研究は6)、18〜25歳の若年層対象をしたプログラムで、介入群と対照群へのそれぞれの働きかけは以下のようなものである。

介入群:アプリ+カウンセラーからのメールによる指導+プログラムスタート前のカウンセリングセッション2回(20分+30-40分)

対照群:カウンセリングセッション1回(20分)

 カウンセラーからのメールによる指導は、週1回から毎日3回まで頻度を選べる。アプリでは、食事を全て入力し、今後、どの位食べていいかのカロリー予算が示される。さらに、ソーシャルネットワークへの参加も促される。アプリを用いているというものの、医療従事者・専門職からの指導が濃厚に行われている。

 結果は、対照群では0.3kg増加、介入群では1.8kg減少であった(3カ月)。

 田中らの研究は7)、20〜64歳の肥満者が対象で(会社人事部が社員から募集)、介入群は、スマホアプリを使用し、対照群は何もしていない。アプリでは、食事の写真を撮り、グループチャットにアップロードする。それに対して、栄養専門家が直ちにコメントをする。アプリ提供会社が、炭水化物、タンパク質、野菜を1:2:3の重量比で食べるという原則を作っており、それに基づいて指導がなされる。

 結果として、介入群では1.4kg減少、対照群は0.1kg減少(8週間)。介入終了後の12週間経過時も同様の結果であった。

 Stephensらと田中らの研究がポジティブになった背景は2つあるとみられる。1つは、医療従事者・専門家が関わっていることと、対照群がほとんど何もなされていないことである。

何が成功と失敗を分けているか

 ここまでの議論を改めて整理し、アプリを用いた肥満プログラムの成功・失敗要因を見てみたい。

 まずは、アプリの使いやすさがある。Laingの研究では、アプリを用いない人がどんどん増え、自己効力感を下げるというような、アプリの副作用とでも言えるような事態が生じていた。一方、有効性がポジティブな結果となった研究でも、食事内容の入力等を求めているものはあったが、アプリの利便性・簡便さが功を奏したのか、アプリからドロップアウトした人は少なかった。

 2つめには、医療従事者・専門家の関与である。心不全、糖尿病でも同様なことが見られたが、上で示した、有効性を示すことができた最近の二つのプログラムでは専門家の手厚い情報提供・フィードバックがなされていた。

 3つめには、スタディーデザインの問題である。有効性を示すことができた最近の2つのプログラムでは、対照群への介入はほとんどなしに近いが、Semperのシステマティックレビューの対象となった研究では、対照群に対しては、従来行われていたような、食事に関する日記をつけさせたり、カウンセリングをしたりされているものが多い。スマホアプリをどのように導入し、位置づけるかにより、スタディーデザインが変わるのは当然であるが、結果の解釈に当たっては要注意である。

健康行動対象のアプリの有効性を総括すると

 体重減少プログラムに多くの議論を費やしてしまったが、健康行動の有効性研究の今回のレビューから言えることは以下のとおりである。

  • 全体としては、健康行動の変化にはスマホアプリの使用は有効性が高い

  • ただし、あまり複雑な情報提供は向かない。ものによっては、対面やDVD等の方が有効である

  • 対象となる行動は、一定程度フォーカスされている方が有効。今回レビューした文献でも、運動であれば歩数、食事であればナトリウム摂取など、個別の行動に焦点を絞ったもので成功を収めている

  • 体重減少プログラムは、対象となる健康行動の幅が広く、他のものに比べて、まだプログラム開発に様々な課題がある模様

  • エビデンスの解釈に当たっては、当然のことであるが、対照群のプログラム内容等、研究デザインの違いに留意した解釈が必要


[参考文献]

1) Shalev氏のインタビュー。Digital health as a game changer. MEDinISRAEL 2019

2)Han M, Lee E. Effectiveness of Mobile Health Application Use to Improve Health Behavior Changes: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. Healthc Inform Res. 2018 Jul;24(3):207-26.

3) Laing BY, et al. Effectiveness of a smartphone application for weight loss compared with usual care in overweight primary care patients: a randomized, controlled trial. Ann Intern Med. 2014 Nov 18;161(10 Suppl):S5-12.

4)Wharton (2014), McGrievy (2011), Allen (2013)

5)Carter MC, et al. Adherence to a smartphone application for weight loss compared to website and paper diary: pilot randomized controlled trial. J Med Internet Res. 2013 Apr 15;15(4):e32

6) Stephens JD, et al. Smartphone Technology and Text Messaging for Weight Loss in Young Adults: A Randomized Controlled Trial. J Cardiovasc Nurs. 2017 Jan/Feb;32(1):39-46.

7) Tanaka K, et al. Professional dietary coaching within a group chat using a smartphone application for weight loss: a randomized controlled trial. J Multidiscip Healthc. 2018 Jul 16;11:339-47.

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