期待感が生んだ現実とのギャップ

 ちなみにChange Healthcare社の由来は若干複雑である。2017年3月に全米最大の医療サービス企業McKesson 社のMcKesson Technology SolutionsとChange Healthcare社が7:3の比率で一緒になり設立された会社であるが、「Change Healthcare」という今の医療業界をまさに反映する名前は実は当初からのものではない。

Change Healthcare社のホームページ

 元々、医療業界向けの収益サイクル管理ソリューションを提供していたEmdeon社が、2014年に医療費透明化SaaSソリューションを提供していたベンチャー企業Change Healthcare社を買収した後に被買収側の社名を採用したという珍しい歴史がある(Emdeon社も紆余曲折の歴史があるがここでは割愛する)。

 買収される前のChange Healthcare社は、医療費高騰と医療システム不透明さが社会的問題になり始めていた時代に、医療費透明化ソリューションを開発するために2005年に設立されたベンチャー企業で、筆者の前職であった三井物産グローバル投資は投資家であり、筆者も社外取締役としてかかわっていた時期がある。医療サービスビジネスのメッカであるナッシュビルのChange Healthcare社とテクノロジーのメッカであるサンフランシスコのCastlight Health社のベンチャー企業2社がリードしていた医療費透明化という領域は本当に確立するかどうかもわからない領域で、デジタルヘルスに注目し始めていた一部のベンチャーキャピタルがサポートするに過ぎなかった。

 しかし2011年ごろから企業のSelf-Insured化(自社で保険会社の役割を果たす)や医療のコンシューマライゼーションの波を受け一気に成長。特にCastlight Health社は業界の注目を一挙に集め、2014年3月14日にニューヨーク証券取引所に上場した際には驚愕の35億米ドルの時価総額を記録した。デジタルヘルス時代の幕開けと称賛された一方で、前年度売上1290万米ドルに対して売上倍率275倍が付いた時価総額は「今世紀最も過大評価されたIPO」と揶揄された。

 その後Castlight Health社のサービスは企業の従業員向けの福利厚生管理で幅広く使われるようになった。その前後(2013-2015年)に上場したFitbit社やTeladoc社、Veeva Systems社などのデジタルヘルス企業群は現在のヘルスケア産業のデジタルインフラの確立に大きな貢献をし、現在でも重要なプレーヤーとして存在感を示している。

 一方で、上場後のパフォーマンスは芳しくなく、Castlight Health社の今日現在の株価はピーク時の1/10で推移している。これを鑑みると、同社のIPOは「破綻した医療システム」や「不透明な医療業界」といった社会全体が感じているフラストレーションに対して、「破壊的イノベーションを提供するシリコンバレー発のベンチャー企業」が革新的なソリューションを提供してくれるという期待感と、医療ビジネスの難しさからなかなか爆発的な成長を成し遂げられなかったという現実のギャップが生んだ大いなるハイプ(誇大広告)現象であったといえるだろう。

 その影響もあってか、同時期に上場したデジタルヘルス14社のうちNasdaq総合指数のパフォーマンスを上回っているのはTeladoc社とVeeva Systems社の2社にとどまっている(上場後買収された企業は含まず)。このことから、グループ全体としてハイプ現象の煽りをうけたのか、理想と現実のギャップが大きすぎた為の反動なのかもしれない。