何かに心を集中させる「瞑想」。そんな瞑想を支援するアプリ、いわゆる瞑想アプリが一大ビジネスになると分かり、米国では近年、同アプリを手掛けるスタートアップがVC(ベンチャーキャピタル)の注目の的となっている。

 本領域でのパイオニア的ポジションのHeadspace社の瞑想アプリは、ユナイテッド航空の機内エンターテインメントにも導入されているなど、米国内での知名度は高い。同社は2015年と2017年に合計7100万米ドルを資金調達し、最終ラウンド(最終の調達段階)時の企業価値は3億2000万米ドルとなった。この他、スタートアップ投資を行うY Combinator社卒のSimple Habit社は2018年11月、Series Aラウンド(市場確保前の調達段階)で1000万米ドルを著名VCから調達した。

Calm社の瞑想アプリのイメージ(出所:Calm社のプレスキット)

 そして最近では2019年7月、Calm社が2700万米ドルの資金調達をしたと発表された。同年2月に発表されたSeries Bラウンド(企業成長時の調達段階)の8800万米ドルの調達に追加される形となり、調達総額が1億米ドルを超えることとなった。企業価値も10億米ドルを超え、いわゆるユニコーンになったとされている。

 こうした盛り上がりを見せるのは、ユーザーが瞑想アプリにはお金を払うことが分かり、ビジネスとして確立することが判明したためだ。実際に、Headspace社とCalm社はいずれも年間売上1億米ドルを突破していると報道されている。

「ウエアラブル」と同じ雰囲気

Calm社の瞑想アプリのイメージ(出所:Calm社のプレスキット)

 しかし、この状況に対して筆者は2010年代の「ウエアラブル」に対する盛り上がりと同様の雰囲気を感じている。

 代表的な1社が、ウエアラブルという言葉の浸透をけん引したFitbit社。2014年の売上7.5億米ドルという驚異的な実績をひっさげて、2015年にIPO(新規株式公開)を成功させ、一時は100億米ドル越えという圧巻の時価総額を記録した。

 この他、Misfit社は6440万米ドルを調達した後、2015年に時計会社のFossil Group社に2.6億米ドルで買収された。個人的にはあまり成功のイメージがないBasis Science社でさえ、4350万米ドルを調達した後に2014年にIntel社に1億米ドルで買収されたのだ。

 ベンチャー投資家目線では、ウエアラブルは“EXIT(株式公開や事業売却)祭り”で一件落着した。しかし実際のビジネスとしてとらえるとどうだろうか。Intel社は2017年にウエアラブル部門の閉鎖を発表。Fitbit社は2018年にようやく黒字化を達成したものの、IPO翌年の2016年をピークに売り上げは下がっている。時価総額に至ってはピーク時の10分の1だ。Fossil Group社もウエアラブルの売上は好調である一方で、従来の時計からの収益が下がっていて株価は低迷している。

 ウエアラブルはビジネス面では失敗だったのだろうか?

 実は筆者は、Fitbit社に大きな期待感を抱いている。近年Apple社に1位のポジションを受け渡したが、累計出荷台数約9000万台、アクティブユーザー2760万人(2018年末時点、Fitbit社発表)という存在感を誇る同社が、この数年、医療領域での新たなビジネスモデル創出に挑戦しているからだ。

 特に糖尿病にフォーカスし、2017年9月には持続血糖値モニター大手のDexcom社との共同開発を提携。その直後に、FDA(米国食品医薬品局)による医療用ソフトウエアの承認プロセスを簡易化するプログラム「Pre-Cert Pilot Program」に認定された9社のうちの1社となった。さらに2018年には、血糖値モニタリングソリューションを開発しているSano Intelligence社に600万米ドルを出資している。

 サービス事業の強化にも尽力している。2018年2月にはクラウド上で慢性疾患管理プラットフォームを展開するTwine Health社の買収をてこに、ユーザーとヘルスコーチをつなぐFitbit Careプラットフォームを立ち上げた。

 これらの新たな事業はまだまだ立ち上ったばかり。ただし、近年のFitbit社の売上のマイナス成長の中では、将来の新たな軸になるかもしれない事業と見ることもできる。ハードウエア企業だったFitbit社が、いつの間にかサービスの会社に方向転換していく可能性も否定できない。

医療領域参入にトライするHeadspace社

 コンシューマを対象に、「健康」領域でビジネスを展開しているウエアラブルと瞑想アプリ。両者のスタートアップが同じような道をたどる可能性は高い。

 現在右肩上がりで成長している瞑想アプリの売上と企業価値の上昇が、永遠に持続することはまずないだろう。その時を見据え、早めのEXIT(株式公開や事業売却)を狙うのか、方向転換を決断しさらなる成長パスを創造するのか、経営陣と投資家の手腕が試されるところであり、非常に楽しみである。

Headspace社の瞑想アプリのイメージ(出所:Headspace社のプレスキット)

 売上でCalm社に1位の座を明け渡したとされているHeadspace社は、2018年6月にHeadspace Health社という子会社を立ち上げ、本格的に医療領域への参入にトライしている。同社は2020年までに瞑想アプリを処方箋が必要なアプリ(いわゆる治療用アプリ)としてローンチすることを目標に掲げていて、FDAの許認可獲得に向け現在臨床試験を進めている模様である。さらにHeadspace社は、2018年9月に音声解析AIスタートアップのAlpine.AI社を買収しており、スマホ経由のユーザーエンゲージメント面での新しい展開の可能性を期待させてくれる。

 近い将来、Headspace社の瞑想アプリが治療用アプリとして認可され、それを受けて医療保険会社が保険を適用し始めた時、また新たなヘルスケアの世界が創られるのかもしれない。

(タイトル部のImage:Wendy Yu)