2019年11月1日、Google社の親会社であるAlphabet社がFitbit社を24億米ドルで買収すると発表した。Fitbitの直近12カ月の売上は15億米ドルだが、過去3年間、通期では赤字続きだった。このFitbitに対して、買収発表前日終値の約15%の上乗せ価格での買収ということになる。

Fitbit社の買収について触れたGoogle社の公式ブログ(出所:Google社の公式ブログ)

 以前のコラムで触れた通り、Fitbitは2014年にナスダック証券市場に華々しくIPO(新規株式公開)をしたウエアラブル業界のパイオニアだ。現在はApple社に首位の座を明け渡したものの、マーケットシェア10%以上と2800万人のアクティブユーザー数を誇るウエアラブル領域の代表的な企業である。

 本件に関してGoogleは、次のようにコメントしている1。「最高のハードウエア、ソフトウエア、AIを持ち寄り、Fitbitの素晴らしい人材と共に、より多くの人々を助けるウエアラブルを作るのを楽しみにしている」。

 今回飛び込んできたGoogleによるウエアラブルのパイオニア買収のニュース。そこで筆者は、Google側の狙いを2つ考察してみた。

第1の狙い

Googleのスマートホーム事業展開から予想する「スマートライフ事業」

 GoogleがNest Lab社を32億米ドルで買収し、スマートホーム事業に参入したのは2014年。その後Googleが2015年にAlphabetをホールディングカンパニーとした新体制導入後は、Nest Labは独立した子会社として存在していた。

 一方でGoogleは、自社のハードウエアチームによりGoogle Home開発を進めて独自のスマートホーム展開を行っていた。そして2018年2月、それまで独立子会社として運営していたNest LabがGoogleのハードウエアグループに組み込まれることになり、現在Googleのスマートホーム事業は「Google Nest」ブランドで展開されている。

 Google HomeとNest Labの統合に関してGoogleは、「(スマートフォン製品類が)Google Pixelと呼ばれているように、(スマートホームソリューションの)ポートフォリオはGoogle Nestと呼ばれることになる。Pixelはモビリティ、NestはホームとAlignしていく」と以前コメントしていた2

 Googleの強みであるソフトウエアを、社外でプレゼンスを持つハードウエアの買収と自社開発製品を統合し、End-to-Endソリューションを作る――。スマートフォン領域でのGoogle Pixel、スマートホーム領域でのGoogle Nestで、Googleはこうした流れを経験してきた。今回のFitbitの買収でも、ヒューマン(人体)周りで同様の展開が考えられる。

マートフォンとスマートホーム領域の事業の構図から予測するスマートライフの事業展開(表:筆者が作成)

 既にGoogleのスマホ用OS「Wear OS」は複数のスマートウォッチに搭載されているし、Google Assistantも活用されている。さらにGoogleはライフサイエンス領域に取り組むグループ会社であるVerily社でStudy Watchと呼ばれるスマートウォッチを自社開発し、臨床試験などに使用しているのだ。

 Study Watchは心拍数、活動量計、心電図、皮膚電気活動、などのバイオメトリックデータのモニタリングが可能で、一回の充電で1週間使用でき、大規模なデータ容量を有している。このStudy Watchは既にプロジェクトベースラインやオーロラスタディ、パーキンソン病関連プロジェクトに活用されている。

 Wear OSにGoogle Assistant、Study Watch。そして、ここにFitbitが加わる。ユーザー周りにGoogleソリューションが常にそして自然とある、いわゆる「Ambient Computing」(ユーザーが対象デバイスについて何も知らなくても使うことができる)環境を推し進めるために必要なピースはそろいつつある。

第2の狙い

本格的な「医療とウェルネスの融合」が生む新しいヘルスケアソリューション

 Apple Watchの医療機器許認可獲得や、Amazon社によるPill Pack社とHealth Navigator社の買収、Facebook社が最近発表した健診リマインド機能…。近年、ものすごいスピードでITと医療の融合が進んでいるのは周知の事実である。

 これらはIT企業が自社プラットフォームにヘルスケア関連アプリケーションを乗せるものであったり、医療プレーヤーがITを導入して自社製品の機能を高めたりするもので、新たなフロンティアを切り開いている。一方でウェルネスと医療の垣根を本格的に破壊するような動きとは言い難い。

 それをGoogleがFitbitの買収を通じて変える可能性は十分に考えられる。

 ウエアラブルが医療と親和性が高いのは発想を飛ばさなくても理解できるだろう。そしてFitbitはコンシューマ向けウエアラブルのパイオニアでありながら、近年Medtronic社やDexcom社との糖尿病管理関連ソリューション、BMS社やPfizer社との心房細動向けソリューションを開発し、企業向け従業員健康管理サービス事業の立ち上げなどを推し進めていた。

 Fitbitはウエアラブル事業を展開している企業の中でも、最もウェルネスと医療の融合に力を入れてきた会社であるといっても過言ではないだろう。今回の買収でそのFitbitが、IT企業でありながら既に本格的なライフサイエンスの事業を展開しているGoogleの傘下に入るのだ。

 Google系列では、前回のコラムで触れたデジタル手術事業だけでなく、Verily Life Science社は多岐にわたる本格的なライフサイエンス事業を展開している。さらにDeep Mind社(Deep Mind Health社)にてAIの医療活用、Calico社ではLongevity系の創薬開発にも取り組んでいる。

 買収後にFitbitがGoogle内でどのような扱いを受けるのかはまだ発表されていない。Nest Labのように独立した会社として運営する、Googleのハードウエア部門の一部になりGoogle Fitbitとして展開する、将来的にVerilyに組み込まれる、などの可能性が考えられる。

 GoogleはFitbitが持つ個人情報やウェルネスデータが広告ビジネス目的に使われることはないとしているが、医療目的の使用に関しては言及していない1。仮にVerilyのプロジェクト群に、Fitbitが長年蓄積したコンシューマの活動データとそれに伴うインサイトやノウハウを組み合わせれば(さらそこにGoogleのAIをかける!)、ヘルスケアに対する全く新しいアプローチやソリューションが生まれる可能性は十分にある。

 実際、既にVerilyの中にはOnduoのようなウエアラブルを活用した慢性疾患管理を行うプロジェクトや、心臓モニタリングウエアラブルのiRhythm社と取り組んでいる心房細動のプロジェクトなど、Fitbitと組み合わせることでさらなる展開が期待できるプロジェクトが幾つも存在している。

 思い出してみると、2017年に米国FDAがデジタルヘルス向けの新しい承認プロセス導入に向けて開始した「Pre-Cert Pilot Program」では、認定された9社の中にVerilyとFitbitも名を連ねていた。この2社が協力して、新たなヘルスケアのフロンティアを切り開いていくのは必然なのかもしれない。

おわりに

 今回Fitbitの売却については、1カ月ほど前から噂されていた。Appleによる買収の可能性も指摘されるなど、最終的な行方が気になっていたところだった。

 Fitbitがウエアラブル領域で重要なポジションを確立したのは誰もが認めるところだ。同社のプラットフォーム、データ・ユーザーベースをフル活用できるリソースを有するGoogleが買収したのは、最良の結果だったかもしれない。

 筆者は以前、本コラムでFitbitが医療とウェルネスの融合を推し進めることを期待していると書いた。医療とウェルネスを理解する2社が集結することで、その流れが加速することを期待したい。

1 https://www.blog.google/products/hardware/agreement-with-fitbit
2 https://www.fastcompany.com/90346540/google-is-embracing-nest-to-make-homes-helpful-not-just-smart

(タイトル部のImage:Wendy Yu)