睡眠は寝具や空調などの寝室環境、食、運動など、さまざまな分野と密接な関りがある。その中で家電メーカーとして、30年にもわたって睡眠に関する研究を続けてきたのがパナソニックだ。睡眠市場が急成長している今、パナソニックは多様な業種との協業に向けて一歩を踏み出した。睡眠行動科学を研究する東京家政大学 准教授の岡島 義氏が、睡眠家電の普及を目指すパナソニック アプライアンス社の菊地真由美氏にその取り組みについて聞いた。

機器にサービス(ソフト)を付加して暮らしに役立つビジネスの創出を目的にパートナーとの共創の場として2019年4月に開設した「& Panasonic」(東京・原宿)。その実証実験スペースでは実装されている同社の睡眠家電を体験できる。パナソニック アプライアンス社の菊地氏(写真右)から解説を受ける東京家政大学の岡島氏(写真:高山 透)

睡眠研究30年の歴史を持ち、いち早くIoT家電にも着手

岡島 義氏(以下、敬称略) 御社のホームページには「研究を始めた30年前はまだ時代が付いてこなかったが、今、花開いている」と書かれています。30年も前から睡眠に関心を持たれたのはどうしてですか?

菊地真由美氏(以下、敬称略) 当社は、ものの見え方や暮らしに及ぼす影響を様々な切り口で照明について研究してきました。そのなかで、1980年代に光と睡眠に関する基礎研究が国内外で発表されるようになり、それらの知見を照明器具に応用し始めたのがきっかけでした。

岡島 「機器類とサービスが融合した新しい暮らしの価値を創出する」という狙いでビジネスパートナーを探していると伺っています。科学の世界でも最近は睡眠に関するさまざまな知見が揃ってきたと、私は感じていて、睡眠市場も機が熟してきた感があります。

パナソニックの睡眠家電の紹介サイト(https://panasonic.jp/nemuri/)から。同社のスマホ用「おやすみナビ」アプリで、エアコンのほか、Bluetooth搭載のLEDシーリングライトやオーディオとの機器連携により、起きる時間を設定するだけで、光や温度、音などをコントロールしていい目覚めを実現する

菊地 当社の研究の蓄積やIT環境の充実、睡眠市場の高まりなど、全てが揃ったタイミングだと思います。ただ、やはり根底にあるのは創業者の「皆様の暮らしをどう良くしていけるか」「どう役に立てるか」という思いです。ですから社会課題の1つとして「睡眠分野でも少しでも役に立てる、解決できることがあるんじゃないか」というスタンスで研究や企業との協業を進めています。

岡島 御社では普段の生活の中で「寝つきが悪い」「夜中に起きてしまう」など、睡眠に不満を感じる人の研究も進んでいますよね。そうしたデータはいつごろから収集しているのですか。

菊地 ネットに対応するスマート家電の事業を立ち上げたのは2012年で、IoT家電の中では早いタイミングでした。その時から、例えば寝ている時などのデータを集めて家電を進化させていくことの重要性は認識していました。最近は睡眠学会などでもデータが揃ってきましたし、私たちの研究開発に賛同し、協力してもらえる先生も増えてきましたね。

岡島 私たち研究者は社会に生かすためのデータづくりをしていますが、うまく社会に生かせないことが多いんです。ですから企業と手を組んで、データを社会に還元する枠組みができたらいいなと感じます。御社ではスリープテック関連の商品をすでにいろいろ発売していますよね?

菊地 照明とエアコンが主力ですが、睡眠のデータ分析はエアコンが一番進んでいます。「ネットワーク対応している家電で、睡眠データが取れるもの」が条件なので、今は主にこの2つに集約されています。

岡島 ネットワーク対応してデータをとっていても、睡眠は主観的なものも加わってくる点が難しいですよね。感覚的な部分は、データだけでは表せないですから。

Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(神奈川県藤沢市)は、パナソニック、三井不動産グループ、東京ガス、NTT東日本、ヤマト運輸、ALSOKなどが協議会をつくり、進めている「くらし起点のまちづくり」プロジェクト。2018年からパナソニックの実証実験に快眠サポーターとして登録する住民も協力

菊地 おっしゃる通りで、寝つきに時間がかかったり途中で起きたりしても、朝すっきり目覚められると「良かった」と言われる人が多い。逆に眠りの質が良くても所感と合わないことも結構ありました。そこでまずは目覚めをよくする、そして体感として気分を上げられるようにすることにアプローチしています。ちょうど今、そうしたデータを取る検証実験を行っていて、藤沢市(神奈川県)の当社の工場跡地を再開発した「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」で34世帯の“睡眠サポーター”を募って睡眠データの計測をしています。