創業以来約70年、電動ベッドの開発・販売など、医療介護分野で発展してきたパラマウントベッド。2009年には睡眠研究所を立ち上げ、健康な人の眠りをサポートするベッドや枕などの開発にも力を入れている。眠りを変えることで人生をよりアクティブに楽しんでほしいと考え、今年6月にはより良い眠りにいざなう新しい電動ベッド「Active Sleep(アクティブスリープ)」を発売した。睡眠行動科学を研究する東京家政大学 准教授の岡島 義氏が、パラマウントベッドの小澤卓矢氏とパラマウントベッド睡眠研究所の椎野俊秀氏に開発の経緯や睡眠への思いについて聞いた。

左から岡島氏、パラマウントベッドの椎野氏と小澤氏。東京・京橋にある同社ショールーム「眠りギャラリーTOKYO」で岡島氏が睡眠寝具を体験(写真:高山透、以下同)

心地よい入眠角度を作り、寝入ったあとは自動的にフラットに

岡島 義氏(以下、敬称略) 「Active Sleep」を体験して、背中を少し起こすとこんなに呼吸が楽なんだと初めて知りました。その後でフラットな状態で横になると、苦しく感じるほどです。背中を起こしたり足を上げたりしてリラックスすると、気持ちよく眠りに入れそうですね。

小澤卓矢氏(以下、敬称略) 入眠時の寝心地が良いと途中で目が覚めても再入眠しやすいというデータがあるので、角度をつけて眠る「入眠角度」を設定しています。呼吸が楽にできるベッドの背を10度起こした状態がデフォルトで設定されていますが、「背中21度」「足12度」など自由に設定することができます。ほかにも「リラックスポジション」「足楽ポジション」「腰楽ポジション」「読書姿勢・TVポジション」などがあり、背中や足の高さを複数のパターンの中から選んで設定することも可能です。テレビを見たり、むくんだ足が楽になるので、体調や状況に合わせていろいろな角度を作れるんですよ。

「Active Sleep」は、リクライニング機能のあるベッドと、硬さを部位ごとに変えられるマットレス、睡眠データを調べるセンサーの3つのパーツからなる。入眠角度で寝入ったことを感知すると、ベッドがゆっくり自動運転を始め、フラットへ移行する。設定した起床時刻に近づくと、ベッドの背が上がって心地よい目覚めを促す。写真はシングル、税別43万円

椎野俊秀氏(以下、敬称略) より良い睡眠をとるためには、寝返りの打ちやすさが重要だというデータもあります。ですから、寝入った後には背や足の部分が下がってフラットになり、寝返りが打ちやすい状態を作ります。マットレスの下にセッティングした「Active Sleep ANALYZER」というセンサーで寝入ったことを感知したらフラットな状態に自動的に戻る仕組みです。

岡島 患者さんから「せっかくソファでうとうとしても、ベッドに移動したら眠れなくなる」という話をよく聞きます。御社のベッドはリクライニング状態で寝ることができ、寝入ったらフラットな状態に戻るわけですね。でも、そこで起きてしまうことはないですか?

椎野 センサーで睡眠状態を測っているので、完全に寝入ったことを感知してから動き始めます。しかも1分に約1度という緩やかな動きでフラットな状態に持っていき、その動きで起きてしまうことがほぼないことは、評価テストで確認しています。起床時間を設定すると、起きる時間の少し前から背中を起こして、目覚めやすくすることもできます。

岡島 確かに、先ほど体験してみて動きの滑らかさにも感動しました!自分で角度を調整するときも少しずつ動くから、「今日はこんな感じがいいな」と微妙な調整もできますね。今日はどんな姿勢で寝よう、とウキウキしながら使える気がします。

椎野 マットレスにも工夫があります。入眠しやすい、寝がえりが打ちやすいマットレスを研究してきましたが、『アクティブスリープ』は人間の硬さと同じ“等反発マットレス”の思想を取り入れています。野球やゴルフでも使われる「ボールとバットの硬さが一致すると反発しやすい」とうインピーダンスマッチング理論を取り入れたものです。人間とマットレスの硬さが同じだと、少ない力で寝返りできて楽なんです。

小澤 体型や筋肉の付き方は人によって違うから、個人個人で細かく調整できるのがベストですよね。ですからマットレスには空気が入っていて、「頭、肩、腰、でん部、膝、踵」の6部位ごとにマットレスの硬さを10段階に調節できるようになっています。姿勢や疲れ具合によって一部の硬さを変えたり、全体をやわらかくすることで沈み込むような心地よさで入眠を誘ったりと、好みに合った状態で寝ることができます。

これを使えば誰もが楽に眠れる──、アクティブに眠りにアプローチ

岡島 今回、そうした機能を全面的に打ち出したActive Sleepを発売したのは、何かきっかけがありますか?

小澤 弊社は1947年に創業して順調に成長してきましたが、医療・介護分野以外でも柱となる事業を作りたいという思いがあり、2009年に睡眠研究所を立ち上げました。研究成果が蓄積されてきたので、「ベッドを使うすべての人の睡眠をより良くしたい」という思いからActive Sleepの開発・発売につなげました。

パラマウントベッドコンシューマー営業部の小澤卓矢氏。睡眠改善インストラクター
慶応義塾大学商学部卒業。パラマウントベッド株式会社へ入社後、広島支店などを経て、2018年に現在の部署に異動。2019年6月発売の「Active Sleep」プロジェクトに携わり、現在は2代目睡眠アンバサダーとしてActive Sleepブランドの啓蒙活動に努めている

岡島 Active Sleepというネーミングがいいですよね。“え? ベッドなのにアクティブ?”と、ハッと目を引く商品名です。“眠る”という静的な行為に対して“アクティブ”という動的な言葉は矛盾するけれど、何だか新しい感覚ですよね。もっと自分の睡眠に目を向けて積極的に眠りを変えていきましょう、とエールを送っているわけですね。

椎野 2018年のOECD調査「睡眠時間の国際比較」で、日本人の睡眠時間が初めてワースト1位になりました。弊社の調査でも「睡眠は日中の活動に大事だ」と考える人が7~8割いるのに、「睡眠のための対策はしていない」人も8割に上ります。わざわざ対策を講じなくても快適に眠る手助けをしたいと考えてこのベッドを開発しました。先生もよくご存じの通り、睡眠は認知機能、体調、心理などにも影響を及ぼすから、睡眠を改善すれば人生もより楽しめるはずです。

パラマウントベッド睡眠研究所主幹研究員の椎野俊秀氏。睡眠改善インストラクター
早稲田大学理工学部機械工学科卒業。同大学大学院理工学研究科修士課程修了。パラマウントベッド株式会社へ入社後、電装品の開発を経て、2015年に現在の部署へ異動。睡眠の研究で得られた知見を日常生活に取り入れ、自身の睡眠改善にも日々取り組んでいる

小澤 電動ベッドは要介護の方が使うイメージがありますが、Active Sleepは健康な人の眠りをサポートするものです。「健康な人にも必要な機能が入っているから、これを使うことで誰もが楽に眠れるようになる」と前向きに、アクティブに眠りを捉らえてほしいという意味もあります。 

岡島 まさに私が考えているのもそこです!例えば睡眠不足になると衝動性や注意散漫といった発達障害に見られる症状が出てきますし,発達障害の人も睡眠が悪くなるとそのような症状はさらに悪化します。睡眠の改善は、生きていくうえで最も重要なポイントですよね。漫画『ドラゴンボール』に出てくる「精神と時の部屋」のように、1日しか経っていないのに睡眠がよく取れて、出てくるとパワーアップしているような「眠りと時の部屋」が作れたら理想だと思っています(笑)。

アプリを更新することで最新データや機能がベッドに反映

岡島 ベッドの角度やマットレスの硬さは、スマホにダウンロードしたアプリで操作するんですよね。アプリはどんどん更新されていくと思いますが、購入してから数年経った商品でも、最新のデータをアップデートできるんですか?

小澤 アプリとベッドは連動させているから、アプリをアップデートすると自動的にベッドに機能が反映されます。未来がひらけてくるような機能をいろいろ盛り込み、アップデートするだけで最新機能が使えるようにしていきたいと考えています。

スマホのアプリ画面からベッドの角度や硬さ、起床時間などを設定する
スマホの専用アプリ、Active Sleep でベッドの自動運転を設定。センサーによるモニタリングから睡眠や機器の状態を確認でき、自身で睡眠マネジメントが可能(出所:パラマウントベッド)

岡島 まさにスリープテックの良さを反映させたベッドですね。購入した時点でのエビデンスはこうだったけどデータを蓄積していった結果こちらのほうがいい、と分かったらアップデートしてより良い環境を作っていけるわけですね。データは個人のものですか、それとも多くの人のデータを貯めてビッグデータを分析、反映させるのでしょうか?

小澤 マットレスの下にセットした「Active Sleep ANALYZER」を弊社のサーバーとつなげて、多くの人の睡眠データを集めて分析しています。いずれは「睡眠スコアが高くなる入眠角度」などのデータを集計して、個人用としても反映させていきたいですね。

岡島 例えば「寝ているときの姿勢が睡眠の質を下げているからベッドを変えた方がいい」とか、「部屋が暑すぎるから空調調整した方がいい」など、その人に合わせたアプローチができる睡眠ソムリエがいるのが理想だと思っています。ただ、同じ設定でもそれがいいと感じる人と嫌だと感じる人がいるから、誤差をどれだけ小さくしていくかも今後の課題ですね。

椎野 そうなんですよ。個人差だけなく、主観と客観のずれもあります。データとしては睡眠が悪くても本人が「いや、よく眠れた」と感じれば、いい睡眠になってしまうし、その逆もあります。主観と客観をうまくつなげられればいいのですが…。

岡島 私は主観に攻めていくカウンセリングを行うので、本人が「眠れた」と思えればそれでいいのですが、そうはいっても本当に眠れているのかという客観データが欲しくなります。逆に客観を突き詰めると、主観的なデータが欲しくなるでしょう。でも、客観データと本人の感覚を一致させる必要があるのかは迷いどころだし、そのあたりも興味深いですね。ちなみに、アナライザーの精度はどのくらいですか?

椎野 睡眠ポリグラフ検査と比較したある研究で、90%以上の一致率でデータを得られることが確認できています。腕につけて体動から睡眠・覚醒状態を測定する医療用機器「アクチグラフ」と同じくらいの精度なので、信頼度は高いと思います。

マットレスの中にある23本のエアセルに空気を送り込んで部位ごとに硬さを調節できる(写真:高山透、以下同)
センサーで心拍数、呼吸数、体動などをモニタリングして眠りを採点

センサーを借りて睡眠チェックを受けられるサービスも

岡島 この商品のターゲットや実際の購入者はどのくらいの年齢層の方ですか?

小澤 より良い眠り、より良いコンディションを求めるすべての世代に広く使っていただきたいと思っていますが、今のところ購入層は50~60代の方が多いですね。「子どもが自立して夫婦でマンションに引っ越すことになり、ベッドを買うことにした」「腰痛や逆流性食道炎で背中が起きるベッドを探していて見つけた」といった方もいました。

岡島 睡眠リズムが乱れている、朝起きられないという子どももいるから、子ども用を作ってもいいかもしれませんよ。親も起こしてくれるけど、起きる時間に背中が起き上がってくると自分でも起きやすいですから。ベッドが起き上がってきたときにちょうど顔に日光が当たるのもいいかもしれません。

小澤 例えば学習塾などで子どもに Active Sleep ANALYZERを使ってもらい、睡眠が学習や記憶、集中力に及ぼす影響を調べると面白いかもしれません。睡眠時間と成績の関係がデータとしてたくさん蓄積されてくると、子ども向けというニーズも出てきそうです。

岡島 ベッドの場合は高額な商品だし、実際に寝てみないと分からないから、レンタルがあるといいなと思います。体験してみて、よかったら下取り購入できるシステムがあるとうれしいですね。

椎野 残念ながらレンタルは行っていませんが、東京・京橋のホテル「レム東京京橋」にActive Sleepを導入した部屋あるので、そこに泊まって体験することはできます。こうした体験ができる場所を増やしていきたいとは思っています。また、「眠りギャラリー」(東京・京橋ほか)ではスリープチェックとして「眠りSCAN(センサー)」を1週間3000円で貸し出しています。弊社の睡眠研究所で2週間のデータを測定し、睡眠データを評価して眠りに関するアドバイスを提供します。利用してくださる方も多いので、ぜひ試していただきたいですね。

東京家政大学 人文学部心理カウンセリング学科准教授 睡眠行動科学研究室 岡島 義(おかじま・いさ)氏
日本大学文理学部心理学科卒業。北海道医療大学大学院心理科学研究科博士課程修了。公益財団法人神経研究所附属睡眠学センター研究員、東京医科大学睡眠学講座兼任助教、医療法人社団絹和会睡眠総合ケアクリニック代々木、早稲田大学人間科学学術院助教などを経て2018年より現職。毎日8~9時間睡眠をとると快調だと気づき、夜9時に寝て朝5時ごろ起きる生活を続けている

(タイトル部のImage:tippapatt / popyconcept -stock.adobe.com)