縦から横へと広がる被災地からの発信
歳月は記憶を風化させかねない。今後に向けた継続には、今まで以上の努力が必要だと伊藤氏は話すが、震災を体験していない若い世代も、「伝え続けなければならない」との思いから語り部を務めるようになっているという。さらに東北各地はもちろん、阪神淡路、熊本など他の被災地との交流が生まれ、語り部の取り組みが広がっているのが興味深い。
「自然災害の恐ろしさは各地で昔から語り継がれてきましたが、それは地元での伝承という縦の流れだけでした。東日本大震災以降、広く連携した横の伝承が必要だとの意識が芽生えたように思えます。被災地から未災地、すなわち災害が起きていない地域の人に向けて、私たちが経験したこと、学んだことを発信し続けていきたいですね」
南三陸ホテル観洋のロビーには、地元や東北各地の被害だけではなく、阪神淡路や熊本に関するパネルも展示。各地の関係者が集まるシンポジウムも開催されている。
「これまで日本のダークツーリズムは展開の規模が限られていましたが、東北大震災以降、災害の記念公園や伝承館などの施設が増えています。震災遺構に関しても、世間が注目するようになりました。観光はレジャーとして捉えられていますが、本来はその土地に足を運んで風土や歴史、文化を見るという意味。そう考えると、東北、とりわけ津波の災害があった沿岸部は、世界に向けて大切な情報を発信できるエリア。海外からの支援に恩返しするためにも、今後はより広く語り部として私たちの体験を伝えていければと思っています」