東南アジア諸国からの出稼ぎ労働者による住み込み外国人家政婦が、生活の一部になっている香港。特に高齢者の自宅介護で大きな役割を果たしている。その外国人家政婦制度について、前回は筆者の経験も含め、受け入れ体制やメリット/デメリットなどを考察した。今回は、現行制度を踏まえながら、より介護に踏み込んだサービスを提供する新業態の姿を報告したい。

自宅介護の強力な味方

 平日の昼間、東南アジア系の家政婦が香港人高齢者の手を取り、寄り添って公園などに散歩に出かけたり、スーパーで買い物したりする姿は、香港では日常の風景だ。老夫婦や独居の老人が、住み込みの外国人家政婦と一緒に暮らしているケースも多い。

 地元の人から、日本で頻繁に耳にする「親の介護のために仕事を辞める」「家族の1人に介護の過剰な負担がかかっている」という声を耳にすることがまったくないのは、ひとえにこのシステムのおかげだと言えるだろう。

 とはいえ、高齢者の健康状態が悪化した場合には、一般の家政婦には世話が難しくなるので、老人ホームや病院に移ることになる。

 富裕層であれば、月10万香港ドル(約140万円)を払って、香港人看護婦を住み込みで雇って自宅介護を続けるということもできるものの、ほとんどの家庭では手の届かない金額。老人ホームは月額1万~4万香港ドル(約14万5000円~58万円)だが、外国人家政婦招聘のビザを使うことにより、それよりも安価で長く安心して続けられる自宅介護の仕組みを構築したのが、アクティブ・グローバル社だ。元は駐在員の妻としてシンガポールに住んでいたフランス人女性が2012年に起業し、2014年に香港支社を設立した。香港代表のスティーブン・チュウ氏は、提供サービスについて、以下のように説明してくれた。

アクティブ・グローバル社香港代表のスティーブン・チュウ氏。ビジネス畑出身だが、世の中の役に立つアイデアを、ビジネスで鍛えた効率性を生かして形にすることに喜びを感じているという(写真:筆者が撮影)
アクティブ・グローバル社香港代表のスティーブン・チュウ氏。ビジネス畑出身だが、世の中の役に立つアイデアを、ビジネスで鍛えた効率性を生かして形にすることに喜びを感じているという(写真:筆者が撮影)
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 「海外での看護師や介護士の資格保持者を、家政婦ビザで香港に招聘する。海外の資格なので香港では認められないものの、病院や介護施設での経験者なので、家庭での介護を任せるのに大変頼りにできる。中には本国で看護学校教員だった人材もいるなどレベルは大変高いが、住み込み介護担当者として月額約5000香港ドル~7000香港ドル(約7万2000円~10万円)で雇用できるので、一般家庭でも手が届く」とチュウ氏。

 前回で述べたような悪徳エージェンシーの問題も一般に知れ渡っているため「法律を遵守して、当社が家政婦に手数料などを払わせることはなく、契約時に手数料9800香港ドル(約14万2000円)を雇用者に請求する仕組み。他の課金は一切発生しない」と、透明性を強調している。ちなみに、家政婦達はアクティブ・グローバル社ではなく、各家庭から直接雇用される形になっている。

 アクティブ・グローバル社が提供するのは、主に香港招聘前に、雇用家庭と家政婦のビデオミーティングを含めたマッチング、ビザ手続き、香港の習慣や文化に則した生活指導と介護トレーニング。

 「全てのトレーニングは当社専属の看護師により実演を交えて行われるので、身に付きやすいと好評。また、香港で働き始めてからも、雇用家庭と家政婦、双方からの相談を受け付けているし、介護される高齢者の様態が悪化した場合など、必要に応じて専門家からの追加トレーニングを受けてもらうこともある」

アクティブ・グローバル社のトレーニング風景。母国での看護婦や介護士経験が豊富でも、香港で一般的なケア方法を学ぶことが大切だという(写真:アクティブ・グローバル社提供)
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アクティブ・グローバル社のトレーニング風景。母国での看護婦や介護士経験が豊富でも、香港で一般的なケア方法を学ぶことが大切だという(写真:アクティブ・グローバル社提供)
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アクティブ・グローバル社のトレーニング風景。母国での看護婦や介護士経験が豊富でも、香港で一般的なケア方法を学ぶことが大切だという(写真:アクティブ・グローバル社提供)

 現在までに約1000人を香港に招聘。その30~40%が看護師資格、70~60%が介護士資格の持ち主だ。

看護師経験者を雇用するメリットとは

 香港では資格としては認められなくても、看護師としての知識と経験を持つ人材を雇用するメリットについて、チュウ氏はこんな実例を使って説明してくれた。

 「例えば経鼻胃管、俗に言う鼻チューブを使って食事をしていた高齢者を、元看護師の介護担当者が世話をして、日常的にリハビリを取り入れているうちに、高齢者が再び自分で食事ができるようになったというケースもある。食事は香港人にとって生きる喜びであるし、人間としての尊厳を取り戻すことで、高齢者の生活の質が格段に向上した」

 統計はないが、このような形で老化の進行を遅らせたり、症状を改善させたりという効果が見えるケースが多いという。

 「もちろん、例えばチューブを間違って外してしまった際に再び取り付けるような作業は、介護者がかつて自国で業務として日常的に行っていたとしても、一切手を触れさせず、当社所属の香港人看護師を派遣して行う仕組みになっている」とチュウ氏。依頼が来るのは、高齢者の容体が悪化して、一般の家政婦では難しくなってからがほとんどだが「もっと早くお願いすれば良かった」と言われることがよくあるという。

 経験や資格以外にも、介護に適した人材を集めるのに何かしら工夫はあるのか、と聞くと「海外でも、資格を得るに看護師は3~6年、介護士は3~6カ月ほどの期間が必要。それだけの覚悟を持って職業を選んだ人たちなので、人の世話をする適性を元々持っている」とチュウ氏は語る。

介護専任であることを強調

 雇用主への注意事項として「当社から派遣される人材は、介護専門なので家事は一切しないことを明文化している」。例えば訪ねてきた親戚が事情を知らずに、「この靴を磨いておいて」などと家事を頼んでくることもある。「そんな時には、『この人は介護専任で、夜通しお宅のおじいちゃんの面倒を見る体力が必要ですから、他の家事は頼まないでください』とこちらから改めて説明することもある」

 「高齢者介護」は、外国人家政婦ビザ要件の1つとしてもともと認定されているため、この仕組み自体に問題はない。ちなみに、外国人家政婦を呼び寄せて、自営の飲食店などの仕事を手伝わせたら法律違反になる。

 「当社では社会貢献の一環として、香港で働いている一般の外国人家政婦への介護研修を政府施設で行うなど、行政側とは協力関係にある」とチュウ氏。

文化と言語の壁は国によりさまざま

 一口に外国人家政婦と言っても、もちろん出身国による違いは大きい。アクティブ・グローバル社では、開業当初にはインド人、スリランカ人の家政婦が多かったが、その後フィリピン政府から承認されてから、フィリピン人がほとんどになったという。

 「事業を始めてみて、いかに文化の違いを克服するのが大切かを実体験した。インドには優秀な人材が多いものの、宗教的な戒律が複雑なのと、香港と文化的な違いが大きいことがネックになった。例えば、肉を食べるだけでなく、目にすることも戒律で許されない人もいる。その場合、ベジタリアン家庭で勤務するなら問題になりづらいものの、そうできるとは限らない。香港では家政婦ビザの取得に3カ月以上かかることもあるので、一度マッチングで失敗すると半年近くがムダになる。その点、フィリピンは過去30年以上にわたって香港に家政婦を派遣してきた歴史があるため、深い文化的相互理解が築かれていて、スムーズに進みやすかった」

アクティブ・グローバル社が招聘したインド出身の介護士の仕事風景(写真:アクティブ・グローバル社提供)
アクティブ・グローバル社が招聘したインド出身の介護士の仕事風景(写真:アクティブ・グローバル社提供)
南国出身のスタッフは明るい人柄の人が多い。フィリピン人の介護士の仕事風景(写真:アクティブ・グローバル社提供)
南国出身のスタッフは明るい人柄の人が多い。フィリピン人の介護士の仕事風景(写真:アクティブ・グローバル社提供)
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 香港では一般的に、フィリピン人の外国人家政婦は、英語が堪能でエネルギッシュな人が多いと見られている。大卒も珍しくない高学歴の傾向もあるため、子供の遊びや宿題を見ながら、英語を日常的に使う環境を作ることができると、子育て中の家庭からの需要が高い。一方、インドネシア人の家政婦は、広東語が堪能でおっとりとした気性のため、高齢者がいる家庭から人気が高い。そんな印象が強かったので、アクティブ・グローバル社にはインドネシア人の人材はいないと聞いて不思議に感じ、その理由をチュウ氏に尋ねてみた。

 「高学歴の医療系人材を含めた出稼ぎ者を世界中に送り続けているフィリピンと違って、インドネシアでは、看護師や介護士の資格を持つ人材は、そもそも海外に出稼ぎに行く必要がない。加えて、一般的に出稼ぎ労働に対して『社会的地位が低い人の仕事』という通念があるため、当社の仕組みとはマッチしなかった」とチュウ氏。やはり、呼ぶ側と送り出す側の需要と供給が一致してこそ成立するサービスであることがうかがわれる。

 受け入れ側の違いはどうなのか。日本であれば高齢者であればあるほど、言語の壁が大きいので、いきなり高齢者の自宅介護を外国人に頼むのは難しいと感じるが、他のアジア圏ではそれぞれ状況が異なる。

 シンガポール、香港、上海で事業展開しているアクティブ・グローバル社では、元々外国人家政婦文化があって高齢者でも英語力が高い人が多い香港やシンガポールでは、この「外国人家政婦制度を応用した住み込みの看護師/介護士資格者雇用」という仕組みを導入しやすかったという。

 一方、日本と同様に高齢者が外国の言語や文化に慣れていない上海では、「自宅介護ではなく、政府との提携で、時給制による介護サービスセンターの運営を任されている」とチュウ氏。

 手の届く金銭的負担で充実した自宅介護が望めるアクティブ・グローバル社のような仕組みが日本にもあればと思うものの、日本で実現できるとすれば、香港やシンガポール型でなく、外部のサービスとして部分的な介護サポートを提供する上海型が現実的なのかもしれない。

 移民による労働力提供については、日本だけでなく世界中でメリットとデメリットに関する議論が絶えないが、超高齢社会の日本で、今回紹介したようなサービスが利用できれば、幸福度が増す家庭が多いのではないかと考えさせられる。「文化の壁が厚い」といわれる日本側の受け入れ体制が今後整って行くことを期待する。

(タイトル部のImage:筆者が撮影)