香港では全死因の33.4%、つまり3人に1人ががんで亡くなっている(2020年Census and Statics Department)。超長寿国である香港ならではのがんとの付き合い方、特に文化として中医学が深く根付いている同地域ならではのがん事情について、香港中文大学中医学部の林志秀教授と連煒鈴博士への専門家インタビューなどから探ってみた(日本での『漢方』は我が国独自の発達をしているため、この記事では区別して『中医学』と呼ぶ。薬については『漢方薬』の名称を使用することとした)。

香港で腫瘍摘出手術と化学療法を実際に経験

 高水準の西洋医学が、医療の中核を担っている香港。香港には、公立病院への負荷が高過ぎるという課題があることを、以前の記事で取り上げている(関連記事:長寿世界一を支える香港の医療制度とその課題)。香港でのがん治療も、西洋医学による標準治療がメインで、患者の好みによって、これに他の代替治療が加えられている。

 実は筆者本人も、香港の公立病院で腫瘍摘出手術と化学療法を経験している。化学療法は日帰り入院。まるでフットマッサージ店のようにずらりとリクライニングチェアが並ぶ病棟で、点滴を使って行われる。患者は見たところ50代~70代が中心だが、時折かなり若い方や高齢の方も混ざっていて、常にフル回転している印象だった。ちなみに化学療法1回の支払いは180香港ドル(約2700円)と非常に安い。

 化学療法の前日に毎回行われるオンコロジスト(がん専門医)による診察では、筆者の副作用が軽かったこともあり、副作用軽減のための漢方薬の使用を勧められることはなかった。逆に「化学療法との組み合わせによりどんな症状が出るか分からないので、漢方薬やサプリメントなどを勝手に使用しないでほしい」との警告を再三受けた。

 医療の現場は想像以上に東西の医学が分断している印象を受けたが、逆に言えば、香港中どこに行っても多数の漢方薬局があり、簡単に漢方薬が手に入るからこその警告だったのかもしれない。もちろん患者本人が漢方薬の使用を希望した場合には、同じ病院内の中医学診療所への紹介を受けられるという。