これが、超速で進めたマスク開発から記者発表までの軌跡

2月初め
 医療用マスクは3層になっていて、最も質が問われるのが中心にあるフィルター層。香港内でこれが生産できれば、マスク不足を解消できると考え、フィルターに使える原料を生産する工場を探し始めた。ちなみに、この時点でフィルター用素材は1枚20セント(約2.8円)から1香港ドル(約14円)に高騰していた。

 「一般的にマスクに使用されているフィルターはプラスチック素材で生分解しないので、環境にも優しい別の素材を見つけたかった」

 また「クリーンルーム」などの特別な設備を必要とせず、生産のリードタイムを現在の1カ月から大幅に縮小することも必須と分析した。

2月9日
 香港で生産されている「ナノファイバー」という高密度素材を見つけ、博士が実験した結果、コロナウイルスが付着する可能性がある飛沫を捉えるのに有効で、0.3μmの粒子捕集効率が81~91%と、コロナ対策のマスクフィルターとして合格であることが分かった。しかしネックになるのは価格。

 「1枚4香港ドル(55円程度)と非常に高価。これをマスクに使うのは緊急時の対策にはなるが、永続的な解決策にはならないのは明らか。解決策を探りつつも、とにかく1000枚購入して、これを使えるDIYマスクをデザインすることを決めた」

 FacebookにDIYマスク製作プロジェクト発足と協力者の募集を投稿したところ、低所得家庭の女性を雇用し、チャリティなど社会貢献を目的にした縫製工場「Sew on Studio」、リサーチ会社、基金財団、縫製経験者、マーケティング、通訳、会計、流通などあらゆる分野から賛同者がたちまち集まり、40人の凄腕ボランティア集団が博士のもとに集まった。

 「メディアへの記者発表は、担当ボランティアの皆さんの本職に支障がない週末にと思い、2月21日に行うことになった」。マスクデザインの完成と記者発表会の催行を目指して一気に動き出した。

「HK Mask」を共に開発・製造する、香港郊外の工業地帯にあるSew on Studioで、同スタジオ共同創業者ミユキ・チェン氏とウィンソム・ロック氏に囲まれた鄺博士

2月12日
 3~4種類にまで絞ったデザイン候補から、「最もシンプルで作るのが簡単」という現在のデザインを選んだ。

2月14日
 マスク不足解消の決定打となる情報が飛び込んできた。香港大学が「キッチンペーパーやティッシュペーパーが、マスクフィルターとして十分機能する」という研究結果を発表したのだ。

 「医療向けマスクの基準となるのが、0.3μmの粒子捕集効率が95%以上という3M製の防護マスクN95。フィルター製造業者のFOCUS社の協力で計測したところキッチンペーパーで74%以上の数値が出た。ティッシュペーパーでも46%以上という数値が出て、一般人が使うマスクには十分な水準にあることが分かった」

 N95マスクは密閉性が高いため、きちんと装着していると呼吸が苦しくなり、高齢者には特に厳しい。「ナノファイバーやキッチンペーパーよりも通気性がいいティッシュペーパーを、さらに2枚を重ねれば70%以上となりつつ、装着時の快適性を高めることができる。これはN95マスクと比較して73%の性能まで到達している」と鄺博士。

 これでマスクの汎用性が一気に高まった。

2月20日
 感染予防に重要な密閉性を最大限に高める工夫として、頭の後ろで結ぶ紐を加えた。他人の手を借りず、自分で結ぶことができるところに鄺博士はこだわったそう。

装着方法を鄺博士に実演してもらった。装着方法の動画も公開中(https://www.youtube.com/watch?v=-9UDIIwFRa8&t=9s

 これでマスクデザインは完成し、一般に公開する型紙、発表会用の試作品、発表会資料の最終仕上げが行われた。

2月21日
 メディア向けの発表会を開催。香港の有名メディア10社が集まり、「HK Mask」の機能的で合理的なコンセプトとデザインに注目が集まった。鄺博士はテレビや新聞などで引っ張りだこに。

2月21日に開催された「HK Mask」記者発表会は大きな反響を呼んだ(出所:HK Mask)

 お見事! と言いたくなるスピード感と柔軟性とパワー。こんなに公共性が高いプロジェクト、「政府からの支援などは?」と尋ねると、「政府は『検討するかを考慮するかどうか決めるための会議』なんていうのを延々とやっているからね、最初から全然当てにしていないよ」と鄺博士は笑う。