一時は抑え込めたと見えた香港での新型コロナも、1月末の第1波、3月の第2波に続き、7月に入り新規感染者が再び増え始める「第3波」が始まり、政府は対策に追われている。7月半ばからテーマパーク、バー、ジムなどの強制休業が再び発令され、レストランでの飲食禁止(テイクアウトのみ可)が7月29日に始まったものの、市民生活への影響が大きすぎると翌日には撤回になるなど、なりふり構わない状況になっている。

そんな状況が日々変わる中で、コロナ禍に必要とされる製品の開発を手がける、小回りの効く柔軟な発想と最先端技術を生かした、香港ならではのスタートアップ企業をピックアップして紹介していく。

第1回は、10年以上にわたり蓄積してきたニッチなマーケットの経験とデータ、独自技術を巧みに転用して、広範囲にわたる高精度検温システムを開発したインサイト・ロボティックス(Insight Robotics)社を訪ねた。

インサイト・ロボティックス社の頭脳である共同創業者のレックス・シャム氏とAIBTSS。オフィスは香港のハイテク企業が集まる香港サイエンスパークにある(写真:筆者が撮影)

1分間で約100人をチェックできる

 香港では現在あらゆる商業施設への入場の際に、体温チェックが必須となっており、多くの場合は、スタッフが非接触型体温計で一人ずつ検温する体制になっている。これだと検温に時間がかかって非効率なことに加えて、検温担当スタッフに感染リスクがある。実際に感染者が出たケースも報告されているため、検温チェックポイントに自動センサーを設置する施設が増えている。

 香港のスタートアップ企業、インサイト・ロボティックス社による「AI-Assisted Body Temperature Screening System(AIBTSS:AI支援非接触型検温システム)」には、手動による検温はもちろん、他のセンサー式検温に比べても、効率性と正確性を含めた、さまざまな優位性が見られる。

 まずは効率性。空港や駅、イベント会場などに向けた上位モデルであれば、同時に40人までの検温が瞬時にでき、1分間で約100人をチェックできる。

 正確性については、湿度や室温など様々な外的要因の影響を考慮するAI活用で、誤差は±0.2℃という高精度。さらに電灯、テイクアウトのホットドリンクや食べ物など、人間以外のものを確実に除外して誤作動を防ぐ機能も備えている。

 そして現代的な要件としてカバーしているのが、プライバシーへの配慮。手動での検温と違い、「顔認識して映像を中国に送るのか」など映像に映されることへの懸念が強いため、体温が基準より高い人を除いて、映像上の顔が自動的に隠される仕組みになっている。また、IoTを採用しており、外部インターネットには接続されないことも安心感を高めている。

通行人がホットコーヒーを持っていても、発熱とは判断されない。また、モニター画面の左側のように、確実に顔が隠される(写真:筆者が撮影)

 2月の発売から現在まで、香港で9台のほか、インドネシアでは空港に20台、政府施設に30台、炭鉱に10台導入されるなど、全世界で160台を販売。中間モデルの参考価格が10万香港ドル(約145万円)となる。

 「この製品の着想を得たのは2020年1月末。まさに香港でのコロナ第一波が始まった頃だった」と、インサイト・ロボティックス社共同創業者で最高科学責任者のレックス・シャム氏。2月にはすでに発売に到るという急ピッチな開発が可能だったのは、この製品に使われた全ての機能と技術が、彼らが10年以上の歳月をかけて蓄積してきたものの簡易バージョンであったから。

 インサイト・ロボティックス社は、主に災害防止を手がける「AIによる広範囲における温度測定と分析」のスペシャリストなのだ。