1997年に英国から中国に返還後、2047年まで続くはずだった一国二制度が揺らいでいる香港では、6月9日以来、市民の大規模なデモ活動が続いている。日本でも、市民と警察との衝突の様子が頻繁に報道されていると聞く。実際に香港に住んでいると、緊迫した状態が局地的に発生するものの、元々大変治安がいい土地柄でもあることから、ほとんどの時間は、過激な映像とはかけ離れた平和な日常が続いている注)。
注)筆者が本稿の編集作業をしている2019年9月時点。
世界最長寿の香港ならではの元気な高齢者のルーティンも普段と変わっていない。たとえばまだ街が眠っている朝6時台でも、人気の飲茶店や粥店は、朝からしっかり食事をする老人たちで埋め尽くされ、楽しそうな笑い声が響き渡って、それは賑やか。早朝の公園に行けば、太極拳やエクササイズに励んでいる姿も必ず目にする。
香港の高齢者パワーは、社会情勢にもしっかり反映されている。弁護士や教師など、様々な団体が個別の抗議活動をする中、7月17日には「銀髪族」と称される約9000人(主催者発表。警察発表は1500人)の高齢者によるデモ行進が催行されたほどだ。
そんな元気な高齢者のイメージは数字でも裏付けられている。日本の厚生労働省が今年7月30日付けで公表した「平成30年簡易生命表」では、香港が男女ともに平均寿命世界一位であることが記されていて、これは4年連続の記録になった。
香港版の国勢調査であるCensusの結果を男女別にまとめた「Women and Men in Hong Kong Key Statistics 2019」によると、調査開始時の1986年と2018年を比較すると、人口全体では35%増なのに対して、65歳以上の人口は女性が175%増、男性は230%増という圧倒的な伸びを見せている。
香港の65歳以上の人口の割合は16%(※1)で、超高齢者社会である日本の27.3%(※2)にはまだまだ及ばないが、確実にその方向に進んでおり、2031年には27%(※3)に達する見込みだ。
香港での平均寿命の伸びにはどんな背景があるのだろうか。前述の統計資料には、その要因として「医療サービスの向上と、個人の健康意識の高まり」という2つが挙げられている。
本連載第1回目は、世界最長寿の要因を理解するのに欠かせない、日本とは異なる香港の医療制度の概要と現状を、筆者の経験も交えてご紹介しよう。