AI(人工知能)の進展により、様々な分野でAIの活用が行われるようになってきている。自動車、不動産、建設業、小売業などなど、AI導入に関するニュースを見聞きしない日はないくらいだ。例えば、タクシーやバスの自動運転、年齢と性別を見てお薦めの飲料物を選んでくれる自動販売機、話すことで音楽の再生やニュースを聞けるスマートスピーカー、どれも裏側にはAIが活用されている。具体的には、顔認証や物体識別などを行う画像認識技術、言葉を検索したり翻訳する自然言語処理技術、声を理解したり話せるようにする音声認識技術や音声合成技術などが使われており、それら技術を総称としてAIということも多い。

 AIの利活用について、医療の分野も例外でなく、医療AI、メディカルAIとも呼ばれることもある。業界を問わず様々な企業が、医療分野に最新の情報技術、AIを用いて支援、貢献しようと新しい取り組みを始めている。分かりやすい事例としては、内視鏡画像や放射線画像に対するAIによる病変の検出やアラート、ゲノム医療におけるゲノムデータ解析と治療方法の紐付けの候補探し、診察室や薬局における音声認識とテキスト化、などが挙げられるだろう。

 政府も医療の分野でのAI活用を支援している。厚生労働省が「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」において議論を現在進めており、重点6領域として、「ゲノム医療」、「画像診断支援」、「診断・治療支援」、「医薬品開発」、「介護・認知症」、「手術支援」についてロードマップの検討を行っている。また、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」においても、医療分野にAIを活用する研究、社会実装のプロジェクトが複数の病院を巻き込んで進められている。アカデミアでは、日本メディカルAI学会が2018年に設立され、年次大会において、医療とAIについての発表やディスカッションがなされている。また、医療機器プログラムとして薬事承認された品目にAIが入った事例も出てきている。このように、産官学で医療分野にAIの取り組みが日本においても始められてきているのが現状である。

UXの視点から見た医療AI

 医療AIについて、社会的な視点で見ると、ELSI (倫理的、法的、社会的問題)を考えたり、バイアスや公平性の問題などが議論されたりする。今回は、本稿のテーマでもあるUXの視点から考えてみよう。

 UXは、人間と機械との体験、関係を考えることになるので、まずAIと人間との関係を考えてみよう。分かりやすくロボットのキャラクターで考えてみたい。アニメのロボットで代表的な「鉄腕アトム」と「機動戦士ガンダム」を比べてみる。鉄腕アトムは、21世紀の未来を舞台に、10万馬力のロボット少年アトムの話であり、自らが考えて自らで動く自律型のロボットである。AIで考えると、最初から最後までお任せすることができる。一方、機動戦士ガンダムは、宇宙空間でモビルスーツを着て戦う話であり、操縦者が中に入り、ロボットを操作することで、宇宙空間で戦うことができるロボットである。AIで考えると、ある意味、人間の拡張であって、人間のできることが増幅されている。もちろん、最終的判断は人間に任されていることになる。

 現時点の医療で考えてみると、医療については、最終的には医師、そして患者本人が決めて治療を進めていくことになる。そうなると、医療にAIを適用する際には、最終判断を人間に残す、ということで考えると、機動戦士ガンダム型、ということがいえる。鉄腕アトム型で考えると、ロボットやAIに人間の仕事が奪われる、という見方になるものの、機動戦士ガンダム型で考えると、人間のできることが増え、逆にいえば、人間がやるべき部分のみ人間がやるようになり、その他をロボットやAIが支えていく、ということになる。

 将棋においても、以前、将棋電王戦が行われていた。これは、プロ棋士(人間)とコンピューター将棋ソフトウェア(AI)が対局するというイベントであった。電王戦のコンピューター将棋ソフトウェアの使い方としては、AI単独型になるため、鉄腕アトム型である。結果としては、コンピューター側がプロ棋士に勝つことなどがあった。逆に、この一連のイベントの中には、電王戦タッグマッチトーナメントも開催されており、棋士とコンピューター将棋ソフトウェアが一緒にチームを組んで、対局するというものであった。こちらは棋士が自分の考えでも次の手を指せる一方、コンピューターの結果で指すこともでき、コンピューターの結果を見つつ最終判断は人間がしていく、という仕組みである。いわば「機動戦士ガンダム型」である。

 筆者は、この人間とAIがチームを組んで戦う、というAIタッグ型、機動戦士ガンダム型が、現在の医療には合っていると思っている。最終判断は人間がするものの、判断するための材料や情報はAIが出し、サポートしていく、というものである。

 もちろん、技術の視点で考えると、AI単独型である鉄腕アトム型でもAIタッグ型の機動戦士ガンダム型、基本的には同じ技術を用いることになるため、設計哲学が違う、ということになる。

図1●AI単独型(人間 vs AI)とAIタッグ型(人間とAIがチーム)(出所:テンクー、図2とも)

アクションまでをサポート

 医療AIについて、AIタッグ型、機動戦士ガンダム型で実装が進むことを前提として考えてみよう。AIが何らかの結果を出した際に、医師や患者がその結果を理解し、アクションまでつなげていくことが大事になる。将棋の例でいえば、棋士がコンピューターの結果を見て、その次の一手を打つことができることが重要になる。このためには、AIが結果を出すだけでは足りず、結果をきちんと人間に理解できるように示し、それをアクション、次の一手につなげていくことができるようにするのが必須となる。

 ここで活躍するのがUXの視点である。医療AIのUXを考えると、AIから出力された結果や推薦した情報、支援する情報を分かりやすく可視化し、見せ、ユーザーに理解してもらい、その次に何の行動を起こすのか、何のアクションにつなげるのか、までをサポートする必要がある。アクションまでサポートするAIが必要となってくるわけだ。

図2●アクションまでをサポートする医療AIのUX

 がんのゲノム医療で考えると、遺伝子の変化(変異)が、がん遺伝子パネル検査の結果として出てきたとする。その後、その結果について、どういう薬や治験の候補があり、治療の手段として取れるのかどうか、まで医師の先生に提示できた方が望ましい。欲をいえば、その治療効果の予測なども出るのが好ましい。そして、患者もその結果を理解し、どういう治療を進めていくのかが分かる方がよい。筆者も、このようなアクションまでサポートするUXを提供できるよう、がんのゲノム医療の現場でAIに取り込み、貢献できる仕組みの構築を推進していきたい。

(タイトル部のImage:artinspiring -stock.adobe.com)