がんゲノム医療とクラウド

 国内でもゲノム医療の分野でクラウドを使った事例が出てきた。がんゲノム医療の中心になっているのが、国立がん研究センターで設置されているがんゲノム情報管理センター(C-CAT)である。そのC-CATのファイル交換フォルダという、関係病院や検査会社、C-CATの間でデータをやりとりするサービスがあり、その部分がAWSを利用していると、2019年の第39回医療情報学連合大会・第20回日本医療情報学会学術大会で公開されている。AWSのEC2(Elastic Compute Cloud)を用いて、通信にIPSec-VPNを利用したサービスとし、短期間でシステム構築を行ったとのことである7)

7)日経XTECH Special

 がんゲノム医療は現在2品目で保険診療がなされている。シスメックスが提供するがん遺伝子パネル検査では、検査の進捗確認および検査委託先からの検査報告書の電子ファイルの受け取りについては、AWSの東京リージョンを利用したシステムで、通信をSSL-VPN+証明書あるいはL2TP/IPsecのVPNとして提供している8)。一方、中外製薬が提供するがん遺伝子パネル検査では、検査依頼および検査結果報告をするサービスとしては、NTTデータの「L-AXeS」を利用する9)。L-AXeSはクラウドではなく、通信をIPsec+IKEのVPNとして、データセンターとして臨床検査会社向けにNTTデータが提供するサービスである。

8)Sysmex
9)NTTデータニュース

 筆者の所属するテンクーにおいても、がんゲノム医療の知識データベースChrovis Database for Oncology10)をAWS上で構築をしている。これは、様々な公共データベースなどに公開されている情報を統合し、横串検索を可能にした知識データベースである。さらに、同義語に加え、言い回しや省略語、表記揺れも吸収する「パラフレーズ検索」を実装し、一つの言葉でも同じ意味で記載されたエントリー、例えば薬や治験の情報などを検索することが可能にしているものである。参照するデータベースも大きく、日々、増えて行くために、スケーラビリティーの高いクラウドを利用して実装を行っている。

10)Chrovis Database

 このようにゲノムの分野において、クラウドの利用が始まってきている。個人的には、がんのゲノム医療は、クラウド利用の先進的な取り組みになっていくのでは、と感じている。特に、がん遺伝子パネル検査だけでなく、全ゲノム解析などを行おうとすると、クラウドが必須となり、その中で、3省3ガイドラインも含めて、セキュアかつ効率的にクラウドを設計して、解析が実施されていくだろう。

 またクラウド上で、データの保存(ストレージ部分)とデータ解析(計算部分)を分離して考え、様々な組み合わせで利用できる世界が来るのでは、と思う(図2)。クラウド自体にデータを置き、アルゴリズムをアップロードしたり、必要に応じてデータをダウンロードしたりと、自由自在になっていくだろう。この際に、どのように解析をしていくのか、何をやりたいのか、その結果をどう解釈するのかとなると、ユーザインタフェースが大事になってくる。さらには、データの解析だけでなく、データの可視化、それを伝えるコミュニケーションが重要になってくるだろう。

図2●将来のゲノム分野のクラウドのイメージ

(タイトル部のImage:artinspiring -stock.adobe.com)