「自分で管理したい情報は何でしょう?」と聞かれたら、皆さんはなんと答えるだろうか? 「お金」と答える方は多いだろう。お金は、銀行に預ければネットや通帳で管理できるし、お小遣い帳をはじめ、様々な管理ツールがある。キャッシュレス決済やスマートフォンでの支払い管理が普及し始め、金融にIT(情報技術)を生かしたフィンテックも身近になってきた。

 あなた自身や家族の健康情報・医療情報も、同じように自分で管理したい情報ではないだろうか。赤ちゃんを産んだ母親がまず気にするのは、赤ちゃんの健康状態と医療情報だ。また、離れて暮らす親や一人暮らしの子どもが元気かどうか、風邪を引いていないかなども気になる。そして、けがや病気になったときに初めてその重要性に気がつくのが自分の医療情報である。毎年の健康診断、人間ドックなどの情報がどこにあるのか。以前もらった薬の情報はどこにあるか。お薬手帳に全部ある? 紙でもらいつつ、どこかに行ってしまった、ということが多いのではないだろうか。自分の医療情報はかかりつけの病院のカルテにあるから、その病院にかかれば大丈夫、と思ってはいないだろうか。

PHRとUX

 自分の健康情報・医療情報は、本人の歴史ともいえる。もしこの情報を全部、自分で管理できていれば、引っ越しや旅行先、転勤などで病気になったときに、当地の医師に見せることで、初めからあたかも「かかりつけ医」のように診てもらうことができるのではないだろうか。救急のときにも、禁忌の薬やアレルギーの情報がすぐに見せられたら、それに即した対応をしてもらうことができる。これこそ、医療情報のユーザーエクスペリエンス(UX)である。

 このように医療情報のUXを考えると、自分の健康情報・医療情報をどう管理し自身の健康管理や受診に生かすことができるのか、という課題に突き当たる。この自分で管理できる健康情報や医療情報は、パーソナル・ヘルス・レコード(Personal Health Record:PHR)と呼ばれている。PHRには、様々な定義がいわれており、例えば、体重・血圧などの健康情報のみを本人が管理できるPHRもあれば、医療機関での検査情報などの医療情報も含めたその人個人の医療情報を本人が管理できるPHRもある。

<b>図1●様々な個人の医療情報・健康情報が集まるPHRのイメージ</b> (出所:テンクー)
図1●様々な個人の医療情報・健康情報が集まるPHRのイメージ (出所:テンクー)
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厚生労働省が進めるPeOPLe構想とは

 医療機関での検査情報も含めたPHRをきちんと管理して国民の健康増進や医療に生かしていくという考えは、国でも検討されている。厚生労働省からは「保健医療分野におけるICT活用推進懇談会 提言書」 として、2018年10月19日に「次世代保険医療システム」が提言されている。幾つか引用してみよう。

 保健医療分野におけるICT活用の「基本理念」は「国民のwell beingの実現」であり、その実現に向けた「4つの価値軸」を設定している。

1. 患者本位の最適な保健医療サービス(Value for patient)
2. 国民全員の主体的な健康維持(Value for people)
3. 持続可能な保健医療提供システムの実現(Value for community)
4. 医療技術開発と産業の振興(Value for service)

 つまり、自分の健康をデータとして、つなぎ、ICT(情報通信技術)も用いて、それを生かして、健康でいきいきと活躍して生活でき、病気やけがの際には最適な治療を受けられる社会を創っていこう、というものである。その中に、患者・国民を中心に保健医療情報をどこでも活用できるオープンな情報基盤(Person centered Open PLatform for well-being:PeOPLe[仮称])もイメージとして提供されており、次世代型ヘルスケアマネジメントシステムの一つとして考えられている。

<b>図2●PeOPLeについて</b> (出所:保健医療分野におけるICT活用推進懇談会 提言書)
図2●PeOPLeについて (出所:保健医療分野におけるICT活用推進懇談会 提言書)
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 上記のPeOPLe構想などもあることを踏まえた上で、まず、自分の医療情報をどう管理できるか考えてみよう。まず、自分の情報をどう入手するかが大事である。この際に、切り分けが必要なのが、医師が診察して結果得られた診断情報と、自分の検査結果などの情報である。医師の診察の結果は、専門家である医師の判断が入っており、病院や医師のものとも考えられ、自分の検査結果そのものは本人のものと考えられるということである。そのため、自分の検査結果が今回の対象となる。

自分のデータをもらうということ

 専門的に分けると、医師の情報は「診療情報」と呼ばれ、検査結果などは「診療記録」と呼ばれる。

 厚労省の「診療情報の提供等に関する指針」 では両者は次のように定義されている。

 「診療情報」とは、診療の過程で、患者の身体状況、病状、治療等について、医療従事者が知り得た情報をいう。

 「診療記録」とは、診療録、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約その他の診療の過程で患者の身体状況、病状、治療等について作成、記録又は保存された書類、画像等の記録をいう。

 血液検査や尿検査の結果は医師の先生から手渡しで紙で受け取ることが多い。これは診療記録である。同じく、X線の結果などは、フィルム代やCD-R代など数百円から数千円かかることもあるが、基本的にはお願いをしたら、情報として受け取ることができる。例えば、X線に影があったときに、数年前の結果をもっていた際に、比較して同じく影があれば問題がないし、新たにこの1年でできた影だと精密検査をした方がよい、など参考情報としてなり得るものである。

 検査などした際に、医師に聞いてみて、自分の検査結果を受け取り、興味をもって見てみるのもよいだろう。

デジタルでできること

 自分の医療情報のUXを考えると、まずは自分の検査結果をはじめとしたデータを受け取り、管理することである。できればデジタルで受け取り、デジタルで管理できるとよい。さらに、その結果を、どう理解するか、について、情報を受け取る、あるいは、説明を受けることである。筆者は本連載の第2回(エンドユーザーすなわち患者の視点で考える必要性) で、がんゲノム医療における検査結果について、イラストも用いて分かりやすく伝える工夫をしていることを紹介したが、自分の医療情報について、自分で管理できるようになったあとは、どう理解し、どう自分の健康に生かしていくのかが次の課題になってくる。自分の情報を元に、様々な専門的なアドバイスを受ける仕組みも今後はさらに必要となってくるだろう。

(タイトル部のImage:artinspiring -stock.adobe.com)