医薬品開発ではあまり視点に入っていなかった「エンドユーザー」

 それでは次に、医療や医薬品について考えてみよう。医療は人の生命・体に関わるサービスでもあり、極めて専門性の高いサービスでもある。そのために、サービスの提供者、サービスの利用者、お金を払う人以外のステークホルダーとして、規制当局が入ってくる。一般商品やサービスの場合、「カスタマー」、消費者に知ってもらうための広告があるが、医療では、医療法や医療広告ガイドライン1)など広告規制があり、適切にコミュニケーションを取る必要がある。製薬業界も規制が存在するのは同じである。医薬品開発を考えている際のステークホルダーとしては、製薬企業に加えて、薬を処方する医師や薬剤師などの医療関係者、そして規制当局、最後に、お金を支払い、かつ、薬を服用する患者である。医薬品においては患者が「エンドユーザー」であり、最終的な使用者となっている。

 医薬品開発において、上記のステークホルダーの中であまり視点に入ってきていなかったのが「エンドユーザー」として患者である。そのため近年、「患者中心」「patient centricity」という言葉で、患者の視点、患者の声を医薬品開発に取り込もうという考え方が出てきている。「patient engagement」「patient involvement」ともいわれる。欧米を中心に広がってきており、日本にも紹介されてきている。個人的には「エンドユーザー」の「患者」の声を入れるのに、「患者"中心"」と日本語の4文字で呼ぶのは変だと感じている。エンドユーザーである患者の関わりを考えるのは、UXの視点で考えれば当然のことに思えてしまう。

 そのため、医薬品開発のどの段階に患者が参画するのか、参画できるのかを考えていくことが大事だと感じる。日本製薬工業協会もタスクフォースを作り、「患者の声を活かした医薬品開発」2)を公表し、製薬企業での医薬品開発における patient centricity 活動を「開発コンセプトの立案、治験の計画、実施、承認・申請までの過程において患者の声を活かすこと。加えて、患者の『知りたいという声』に応えた企業活動(例えば情報公開)も含む」と定義し、取り組みを始めている。

 血液検査や尿検査といった臨床検査についても考えてみよう。臨床検査のステークホルダーは、医療従事者、病院経営者、規制当局、患者として考えている。まずは臨床検査室の高い技術水準が重要であり、精度管理、標準化の視点から、ISO 15189(臨床検査室―品質と能力に関する要求事項)が重視されている。がんゲノム医療においても、品質や精度の確保が重要なため、臨床検査振興協議会3)が「がん遺伝子パネル検査の品質・精度の確保に関する基本的考え方(第2.0版)」を出して提言を行っている。臨床検査においては、精度・品質に重視が置かれていることが分かる。