ウェット部分とドライ部分

 まず(1)の病院内でのがん組織の取り扱いについては、病理の世界となる。これは病理医や病理技師がゲノム医療のために、がん組織について検体の作製などをする部分であり、検体の品質を高める面において適切な作成方法や保管方法がある。対象となるがん細胞を取り出すことに加え、精度高く検査に回すためにも大事なステップとなる。日本病理学会においては、ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程を公表し、適切に取り扱いができるようにしている。

 (2)と(3)の検査の部分は、遺伝子の情報を読むシークエンシングをするウェット(Wet)の部分と、そのシークエンシングした結果のゲノム情報を解析して意味付けを行うドライ(Dry)の部分の2つに大きく分かれる。この2つについては後で紹介する。

 ウェットとドライ、見慣れない使い方であるが、この業界ではよく使われる言葉である。2000年以降、ゲノムデータがシークエンシングで読めるようになり、実験だけでなく、ゲノムデータ自体の情報解析も重要となった。そして、バイオインフォマティクス(生物情報学)という言葉も生まれ、コンピュータだけの解析や実験も大事な分野となった。そのためこの部分を分けて呼ぶようになり、実際に、人が細胞などを取り扱って生物学的な実験をする部分について「ウェット」と呼び、逆にコンピュータだけ利用して解析する部分を「ドライ」と呼ぶようになった。生物実験をウェット、コンピュータ解析をドライと呼び分け、両者が両輪となって研究を進めてきた経緯がある。余談ではあるが、研究室自体を「ウェットラボ」「ドライラボ」と言ったり、研究者が自己紹介で、「私はウェット系研究者です」「私はドライ系研究者です」と言ったりもするほど、業界内では普通に使われている。

 (4)は、専門医や専門家が集まり、一人ひとりの患者に対して、がんの治療や薬剤選択について総合的、多角的に議論と検討を行うエキスパートパネルである。遺伝子パネル検査から出てきた結果を解釈し、レポートを確定していく作業を行う。現在は、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院でエキスパートパネルが開催されることになっており、がんの専門医、ゲノムの専門家、病理医、生物統計学の専門家などが集まって議論を行い、より適切な診断、治療につなげていくことを行っている。

 この後に、主治医や遺伝子カウンセラーを通して、がん遺伝子パネル検査の結果は患者に伝えられ、実際の治療などに進んで行くことになる。

図2. ウェット(wet)部分とドライ(dry)部分