ドライ部分が価値を生み出す縁の下の力持ち

 がん遺伝子パネル検査のウェット部分は、主に遺伝子の情報を読み取るシークエンシングである。がん組織からDNAやRNA自体を抽出し、生物学的実験の処理を行い、次世代シークエンサ(NGS)と呼ばれる遺伝子読み取り装置で遺伝子情報を読み取っていく部分になる。NGSと検査所が必要なため、主に臨床検査会社などが担当していることが多い。いかに高品質、高精度、高信頼性のあるサービスを提供していくかが大事なステップである。

 もう一つのドライ部分は、読み取った遺伝子の情報、ゲノムの情報を解析して、意味付けを行うコンピュータが担う部分である。ウェット部分で、NGSから一人当たり数GBから数十GBのゲノム情報が出てくる。ゲノム情報は、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という塩基配列の文字情報で、これが100文字や200文字並んだ行が数億行ある、というイメージだ。この文字情報を整理して並べ替え、遺伝子の情報が書き換わっている部分を見つけていく作業を行う。そして書き換わった部分を見つけた後、その部分が、がんに関係しているのか、病気に関連しているのか、その部分を対象にした薬剤があるのか、などを探してくる。その際に膨大な医学や生物学の知識を集めた知識データベースを用いて、意味付けを行っていく。その結果をまとめて、患者さんのレポートを作り、検査結果としていくことを行う。

 このドライ部分をまとめると、次の3つが主な作業部分となる。

A. データ解析部分
B. 知識データベースを用いた意味付け部分
C. レポート作成部分

 これらはコンピュータが自動で行った方が品質は高くなり、時間も短縮できる。ドライ部分は臨床検査会社が行うこともあるが、筆者の所属するテンクーのような情報解析だけに特化した企業、バイオインフォマティクスに特化した企業が担当することも多い。図3は、筆者の会社のテンクーでサービス提供しているChrovisの位置付けの図である。

図3●ドライ部分の3分野

 特に、意味付け部分は、膨大な情報や意味付けの仕組みが必要なため、データ量、コンピュータパワーに加え、意味付けの仕組み、ソフトウエア自体が鍵となってくる。実際、レポートの内容に直結する部分であり、最終的な医師、患者へのUX(ユーザエクスペリエンス)を考えると、ドライ部分の重みは大きい。どこまで遺伝子の情報を元に、合う薬や治験を見つけられるか、医師に参考情報としてお薦めできるかが、最終的には価値につながっていく。

 今回は、がん遺伝子パネル検査のUXにつながる裏側の紹介を行った。見えない部分に多くのステップがあり、これらが調和しないとサービスが提供できず、多くの方の協力により成り立っている検査であることが、少しでも伝われば、と思う。そして、筆者も関わっているドライ部分が価値を生み出す縁の下の力持ちとなっていることをぜひ知っていただきたい。

(タイトル部のImage:artinspiring -stock.adobe.com)