ITエバンジェリスト/メロウ倶楽部副会長 (ハンドルネーム:マーちゃん)

若宮さんは2017年、81歳のときにiPhone向けアプリ「hinadan」(ひなだん:シニアが楽しめるひな壇飾りのパズルゲーム)を開発しました*1。その年の米アップル主催のWWDC(世界開発者会議)に参加、“世界最高齢のプログラマー”として世界から注目を浴びました。やっぱり、WWDC参加前と後では、生活は一変しましたか。
若宮 ものすごく変わりましたね。いろんな刺激がいろんなところから入ってきて、お友達の層も質・量ともにすごく拡大して――*2。
そこからたくさんのものを吸収して、さらにそれで自分もバージョンアップできて。以前より頭も働くようになったような気がします。
神様のご配慮の中でこうした人生を送れているというのはすごいことだと思うんです。でも、誰でもこういったことは起こり得るとも思っています。私、もし80歳で死んでいたら、普通のおばあさんで一生を終わっていたわけですから(笑)。
WWDCには、米アップルCEOのティム・クックさんから「どうしても会いたい」ということで招待されたともお聞きしています*3。どうして彼は、そんなに若宮さんにお会いしたかったのだと思いますか?
若宮 そもそも、おばあさんがアプリを開発したということに、非常に興味を持たれたのではないでしょうか。
シリコンバレーは「ダイバーシティ教」の総本山みたいなところで、<人種やジェンダーの差別をしちゃいけません>といったことが徹底していますよね。だけど、(ダイバーシティの概念には含まれるとはいえ、実際には)年齢のことについてはあまり言及されていないかったと思うんです。ティム・クックさんから直接お聞きしたわけではありませんが、そういった意味合いもあったのかな、と私は思っています。
それに今、スマートフォンの市場は世界中みんな満杯で、あとはシェア争い、パイの奪い合いですよね。だけど年寄り、高齢者に関してはどうかというと、プライオリティシート(優先席)はまだ空いているんです。ですから、そこに座ってもらう余地はあって、マーケットとして有望だと思うんですね、もしかすると、そういった意味合いもあったのかもしれませんね。
なるほど。確かに若宮さんの存在が広く知られることで、「高齢者だって新しいことができるんだ/やっていいんだ」というイメージが拡散していきました。世の中の高齢者に対する見方が大きく変わったといえます。そうしてシニアの活動が活発化すれば、高齢者の市場も広がっていきますよね。
注)
*1 「hinadan」は、ひな人形をひな壇の正しい位置に配置していくiPhoneの無料ゲームアプリ。2017年2月にリリースし、現在、日本語のほか、簡体字中国語、繁体字中国語、英語、韓国語に対応している。2020年1月にはAndroid版もリリースした。
*2 若宮氏の若い友人、井上美奈氏(当時10歳)とのツーショット。井上氏は、クラウドファンディングでエストニア行きを実現した起業家志望の小学生。写真は、2019年6月にエストニアで開かれたエクセルアート(後述)のワークショップ会場での一コマだ。
*3 2017年のWWWDで、米アップルのティム・クックCEOと対面した若宮氏。和やかな雰囲気の下、「hinadan」の開発や使い勝手などについて具体的な意見交換を行った。