地域の人が地域の課題を自分たちで解決するために、人と人がつながる仕組みをデザインする──。山崎氏は、つながりをつくるコミュニティデザインという仕事、コミュニティデザイナーという職能を世に知らしめました。「楽しさ」こそが持続可能性を高めるという山崎氏の考えは、高齢化が進み経済成長が鈍化したこれからの日本における地域づくりの在り方を先取りしていました。そして、その考え方はこれからますます重要になっていくでしょう。
コミュニティデザイン、そしてコミュニティデザイナーという言葉は、山崎さんによって広く世に知られるようになりました。山崎さんが「コミュニティデザイン」という分野に特化した仕事を始めた経緯を教えてください。
山崎 僕はもともと公共建築、公共施設の設計に携わる仕事を学んで、就職先もそうした会社でした。公共施設の中でも公園の設計の仕事がすごく多かったんです。そのことがコミュニティデザインの仕事に進むきっかけになりました。
その事務所で働いているときに疑問に感じたことがあって──。それは「誰の意見を聞いて設計を進めればいいんだろう」ということです。公園の場合、どこの市役所から呼ばれても公園緑地課長の話を聞くということになります。課長が「噴水が欲しいよね」といった話をすれば、「分かりました、噴水ですね」ということで設計が進んでいくわけです。
でも、「この課長はこの公園をよく使う人だっけ?」みたいなことがやっぱり気になってしまう。それで、よく聞いてみるとその課長は隣の町から通勤してきていたりして、そうなると「この人、(この公園を)絶対使わないな」みたいな気持ちになるわけです。そういったことがどうしても気になってしまって…。
そうではなく、公園のユーザーになるであろう地域住民の方々に集まっていただき、ワークショップを開催して、その人たちの意見を設計に反映させる──。そういうことをやらないと本当にユーザーの話を聞いたことにならないだろうし、デザインもみんなが使いやすいものにならない。そんな問題意識がありました。
ワークショップを開いて地域住民の意見を聞いた施設は、結果的には使いやすいデザインになる。いいデザインになります。ただ、それよりも僕は、ワークショップを経たほうが、地域の方々がその空間に愛着を持つようになるだろうと思ったんですね。「私が提案したからここにベンチがある」とか、「このアイデアは私が出したものだ」とか、地域の方々がそういう気持ちになれるというのは大切だと思いました。
なので、公園をつくるときには必ずワークショップを開いて、100人、200人の地域の方々に来ていただいて、「あの土地に新しい公園ができますよ。公園ができたら皆さんはどんなことをやりたいですか」みたいな話をするようになりました。
僕は1999年に設計事務所に入社して、2005年までの間の6年間、特に後半部分はワークショップばっかりやらせてもらって、それを設計に反映させるということをやっていました。そうした中で、もうワークショップだけを専門にやる会社みたいなのをつくってもいいんじゃないかと思うようになっていったんです。
新しい分野での独立というのは、勇気が必要ですよね。
山崎 引き合いがかなり多かったということがありましたし、世の中を見てみると、設計事務所がワークショップをやることはあるんですが、ワークショップの部分だけを担当する事務所はそんなに多くなかったんです。あったとしても、公園なら公園だけといったように、ある分野に特化したところが多かったんですね。
僕は幸いなことに、その事務所で教育、医療、福祉に関するワークショップにも携わらせてもらっていました。そこで気付いたのが「あれ? 世の中には確かに公園のワークショップに特化した事務所はある。都市計画だったら計画づくりにまつわるようなワークショップばかりやっているところもある。だけど、教育とか医療、介護、福祉、都市計画、まちづくり、公園、公共施設など、ワークショップの部分だけを何でも全部やりますという事務所はあまりないな」ということでした。それで2005年に設計事務所を辞めて独立して、studio-Lというワークショップだけをやる会社をつくったんです。